六話 ジョブ講座
更新が遅くなってしまいすみません!今回の話は二話分のボリュームとなっています!
アルヒ村から少し離れた場所にある丘の上では、六人の少年少女たちが集まっていた。顔を腫らした黒髪の少年が、片手に『あのレイ・イデオンが書いた、田舎者でも分かるジョブ診断!』と書かれた本を持って五人の前に立ち、どこからか取り出した眼鏡をかける。
因みに、黒髪の少年、ソーレンと向かい合って座る五人は、ソーレンから見て左から順に、レイア、リナ、アルカ、カノア、カリオス、となっている。
ソーレンは伊達メガネを指でクイッと上げ、五人を見渡す。
「さて、全員揃ったし、ジョブ診断についての勉強会を始めようと思う!今回は、村長からジョブ診断について書かれた本を借りてきたこの俺、ソーレン・シンシアが進行役をさせてもらう!」
ソーレンがドヤ顔で宣言すると、他の五人はパチパチと、やる気が微塵にも感じられない拍手をする。
それでもソーレンは満足げに頷き、手を上げ、拍手を止めさせる。
「拍手ありがとう!一つ確認しておくが、質問は話の区切りがいいタイミングでしてくれ。いちいち止められると日が暮れそうだしな。」
他の五人も賛成の意を表すかのように、ウンウンと頷く。
「よし!それじゃあ、まずはジョブ診断の基本的な──」
「その前にいいかな?」
ソーレンが意気揚々と本を見ながら話をしようとすると、レイアが待ったの声をかける。
「なんだよレイア?いちいち話を止めないでくれって、さっき言っただろ?」
「質問じゃないんだ。ボクはこの座っている順番が気に入らないんだ!どうしてボクがアルカの隣じゃないんだ!」
レイアは不満げな顔をしながらそう叫び、リナとアルカを交互に見る。
「なんだ、そんなことかよ…リナちゃん、レイアと場所変わってやってくんねぇかな?このままじゃ、話が進みそうにねぇんだわ」
ソーレンがレイアの不満顔を呆れた表情で一瞥した後、リナの方に顔を向けてお願いをする。
ソーレンにお願いをされたリナは、見惚れるような笑顔をレイアに向ける。その瞬間アルカ以外の誰もが思った。「あぁ、笑顔で場所を譲ってくれるとは、なんてできた子なんだろう」と。アルカだけは、「自分が移動してレイアの隣に座ればいいんじゃないか?」と割とまともなことを考えている。しかし、これを実行するとカノアが不機嫌になるので却下されるだろう。
リナはレイアに笑顔を見せながら口を開く。
「絶対に嫌です。どうしてそんなわがままのために、私が兄さんから離れないといけないんですか?そもそも白昼堂々と兄さんを襲うようなケダモノに席を譲らなければならないのですか?このケダモノ、いえ、獣そのものは兄さんの隣に座ったが最後。尻尾を振り回し顔を擦り付け汚いその手で足で体で兄さんにまとわりつき、その発情した雌の臭いを兄さんにつけ、悦に浸り、だらしない顔をしながら兄さんに襲い掛かるでしょう。これは誰でもわかることだと思いますよ?馬鹿なのですか、ソーレンさんは?さっき顔中を殴られたときに脳みそが飛んで行ったのですか?それとも、もともとなかっ──」
「リナ、それ以上はいけない。」
清々しい笑顔で毒を吐き始めたリナに一同は呆然とする。
そして、一番復帰が早かったカノアがリナを止めるが、レイアは顔を羞恥心で真っ赤にし、ソーレンはとばっちりを受けた事を嘆き、アルカはそんなソーレンを慰め、カリオスはガハガハとソーレンの背中をたたきながら笑っている。
「あ、あの時はなんだかおかしかったんだ!なんだか久しぶりにアルカと会った気がして、気分が高揚しちゃって、体が勝手に動いたんだよ!もう今は大丈夫だし、もう無理やりあんなことはしないよ!」
レイアは顔を真っ赤にしながら、リナに弁解をする。確かにあの時のレイアは少しおかしかったのだ。普段は羞恥心もあり、あのような大胆なことはできないのだ。というより、生まれてから一度もあんなに積極的にアルカに迫ったりはしたことがないのだ。
しかし、そんなことを知るかっといった表情のリナは、レイアを冷たい眼差しで見つめる。
「確かに普段のレイアさんならあのようなことはしないでしょう。ですが、普段はやらないこと、というのは裏を返せば『普通でない時ならばする』ということですよね?なら、その普段やらないことをした、今のレイアさんは異常です。そんな、おかしいと分かっている人物を兄さんに近づけることはできません。」
「ぐぬぬ…」
リナに正論を突き付けられたレイアは反論することなく、おとなしく引き下がる。確かに、今日の自分は、いつもと比べて少しおかしいと薄々感じていたのだ。だから、今日のところは大人しくしておこうと思ったのだ。断じてリナの目が怖かったわけではない。目を見た瞬間、頭の中で警鐘が鳴り響いたからではない。断じてだ。
二人の不毛な争いが終わったことを確認したソーレンは定位置に立ち、咳払いをする。
「じゃあ、今度こそジョブ診断についての話をするぞ、皆いいか?」
ソーレンの問いに各自が頷く。ソーレンはホッとしたような表情になり、上唇を舌で軽くなめて湿らした後、口を開く。
「それじゃあ、まずは基本的なことから説明するぞ?まずジョブ診断は十二歳以上の人間、エルフ、ドワーフが受けることができる。その内容は、自分に合った『ジョブ』と呼ばれる潜在能力を発芽させ、扱えるようにすることだ。人それぞれによって与えられるジョブは異なる。ジョブの数は不明で教会もわかっていない。教会って言うのは、ジョブ診断を行う組織のことで、『太陽神ラース』を崇めている人たちのことだ。教会に所属する神官様が各地を巡って、町や村で対象者たちにジョブ診断を行うんだ。ここまでは良いか?」
アルヒ村には、五年に一度、神官が訪れ、診断を行う。前回はアルカ達が十歳、リナとカノアが九歳の時に来たため誰も診断に参加することができなかったのだ。
因みに、この『神官』もジョブの一つである。
「質問してもいいでしょうか?」
リナがソーレンの方を向いて確認をすると、ソーレンは少し怯えた表情をしながら頷き、許可を出す。どうやらさっきのことをまだ引きずっているらしい。
「確か、この世界の種族分類は、人間、妖精族、小人族、獣人、魔族だったはずです。何故、獣人と魔族はジョブを貰えないのでしょうか?」
「えっとそれはだな…神を信仰していないとか、神に見放されたとか、いろいろな説はあるんだが、明確な理由は分からないみたいだな。有力な説は、獣人と魔族が死んだときに魔物みたいに灰になって死体が残らないから、獣人と魔族は、実は魔物の上位の存在であり、太陽神ラースが作ったとされている、俺たち人類ではないから貰えないってやつだな。まあ、獣人と魔族は元々のステータスが高いから、ジョブがいらないだけかもしれねぇけどな。」
ソーレンは難しげな顔をしながらも本を捲りつつ、リナにそう答える。リナは少し納得がいかないような顔をしながらも、ソーレンに礼を言う。
実際、本当に何故、獣人と魔族がジョブを貰えないのかは分かっていない。そもそも、人類の中でそのようなことを研究する者が少ないのだ。
そして現在、そのジョブの有る無しによって、人間、エルフ、ドワーフ達、人類と獣人と魔族は対立をしている。獣人と魔族はこれまで、迫害をしてきた人類たちへの復讐と豊かな土地を得るため、人類は土地の死守と、神に見放された者たちの討伐を大義名分に、争っている。
「ほかに質問はないか?まあ、今の部分は、リナちゃんが言ったところ以外、世間に疎い俺らでも知っているような常識みたいなもんだし、質問することはねぇか。
じゃあ次は、本題の『ジョブ』についてだ。”ジョブ”は大まかに分けると、剣士や戦士と言った戦闘系と料理人や吟遊詩吟とかの非戦闘系、生産職って呼ばれるものに分けられるんだ。で、この”ジョブ”なんだが、人によって貰える数が違うんだ。一つの人もいれば二つの人もいる。最大は二つなんだが、この二つジョブを貰えた人は『二職持ち』って呼ばれて、ジョブ持ちの大体半分ぐらいの人たちが、”ダブル”になるらしいんだ。”ダブル”の人は大抵は第一ジョブが戦闘系なら第二ジョブ、二つ目のジョブも戦闘系に成ったりと、第一、第二ジョブとも戦闘系のみか、非戦闘系のみになるらしいんだけど、たまに戦闘系と非戦闘系の両方を持つ、二種持ちの人もいるらしい。
今のところで何か質問はあるか?」
ソーレンが説明を区切り、そう問うとレイアが控えめに手を上げる。
「”ダブル”になる基準というか、方法ってあるの?」
「おっそれは俺様も気になっていたところだっ!まさに『以心伝心』だなっ!」
「カリオスと心が通じ合っても、別に嬉しくないよ…」
レイアの問いに、カリオスがガハガハと笑いながら同意する。
ソーレンは本に目を落とし、ページをめくる。目的のページを見つけたのか、顔を上げてレイアたちの方を向く。
「残念ながら、ダブルになる基準は分かってないらしいな。基準が分かってないから方法もわからねぇし、完全に運みたいだな。」
ソーレンの言葉に、レイア以外の四人も落胆する。レイアは「神様を敬っとけばよかった…」などと言っている。
「まっダブルになれたらラッキーって程度に考えてた方がいいかもな?じゃあ次は、なれたら神に愛されていることが間違いなしの、希少ジョブとか、授かるとすぐに犯罪者予備軍として捕らえられる、禁忌ジョブについてだ。」
希少や禁忌と言った単語を聞いた、アルカとレイアは揃って目を輝かせる。二人とも十五歳といった、特別なことや変わったことに憧れる年齢なのでこの手の話は大好物なのだ。同じ年であるカリオスは、ガハガハ笑っているだけのいつも通りだ。リナは兄の顔を心のアルバムに保存する作業をし、カノアはそんな四人を見てため息を吐く。そして、ソーレンはわざとらしく咳払いをした後、話し出す。
「まず、授かる人が少ない希少ジョブについてだ。希少ジョブに分類されるジョブは、忍者、侍、空間術師、テイマー、巫女とかだな。希少ジョブを授かった人は国やいろいろな組織から勧誘されるらしい。
次は、めったに授かる人がいない、強力なジョブである伝説のジョブについてだ。伝説のジョブに分類されるのは、賢者、聖女、覇王、英雄、勇者とかだな。伝説のジョブを授かった人は、保護という名の拉致行為を必ず国からされるらしい。まあ、世界のバランスを崩しかねない力を国が放置するわけないしな。」
アルカとレイアは、その話を聞いて益々目を輝かせる。カリオスは相変わらずガハガハと笑い、リナはアルカが伝説のジョブを授かった時の対処法をブツブツ呟きながら考えており、そんな周りを白けた目で、カノアが見渡す。ソーレンは伊達メガネの位置を上げた後、少し真剣な表情になる。
「次は、一番重要な”禁忌ジョブ”についてだ。まずこれに当てはまるジョブは、狂人、狂信者、暗殺者、殺人鬼、殺戮者だ。この他にもあるが、今回は割愛させてもらう。まず、これらのジョブを授かると王国の監視下に置かれて監禁される。地域によっては、授かったその日に、処刑する所もあるらしい。なんで、こんなにも危険視をされてるかっていうと、禁忌ジョブを授かった人は全員等しく、性格が変わるんだ。虫も殺せない気弱な少女でも一週間もすれば、何の罪悪感も持たずに人を嬉々として殺せるようになるらしい。もはや、ジョブじゃなくて呪いのようなもんだな。」
ソーレンが口を閉じると、アルカが遠慮がちに手を上げる。
「禁忌ジョブにならない方法ってないかな?ジョブを授かったせいで死ぬなんて嫌だよ…」
アルカが暗い顔をしながら問うと、ソーレンはニッと笑いながらアルカの方を見る。
「ジョブって言うのは、その人の心の奥にある要求をもとにされているらしいんだ。だから、ここにいる俺らは、誰も人を殺したいなんて思う馬鹿な奴はいないはずだから安心しろよ!誰も禁忌ジョブなんか授からねぇよ!」
「そっか…そうだよね!」
アルカは悩む必要なんかなかったと言わんばかりに、明るい表情になり、他の五人も嬉しそうにアルカの顔を見る。
「よしっ!最後に”ランク”について話をするぞ!」
ソーレンは明るい雰囲気の中、話を始めた。
レイア「メインヒロインのボクっ子幼馴染!金髪碧眼のレイア・ユスティシー!」
リナ「頭脳明晰のブラコン美少女!赤髪翠眼のリナ・ミラージ!」
アルカ「動物大好きな主人公!白髪赤目のアルカ・ネフス!」
カノア「比較的まともなブラコン巨乳妹!赤髪翠眼のカノア・ミラージ!」
カリオス「皆の兄貴分であり男の中の男!青髪青目のカリオス・ボルドネス!」
『五人揃って!アルヒ村オサナナジミーズッッ!!』チュドーン
ソーレン「…俺は?」