五話 幼馴染たち
「あれ?僕が一番乗りなのかな?」
アルカが森を抜け、約束の丘に着くと、周りを見てそう呟く。
辺りを見回しきょろきょろしていると、視界の隅に金髪を捉える。
よく見ると、丘にある木にもたれて、たたずんでいる一人の少女がいた。
「なんだ、レイアは来てたんだ…おーい!レイアー!」
アルカは幼馴染の金髪碧眼の少女、レイアに声をかける。しかし、レイアは気づいていないのか、こちらを見向きもしない。
(どうしたんだろ?)
アルカは心配になり、少し早歩きでレイアの方へと向かう。
レイアのもとへたどり着いたアルカは、レイアの瞳をのぞき込む。
「どうかしたの、レイア?」
アルカはレイアに声をかけるが、レイアはまるで、こことは違う”何か”を見ているかのように、微動だにしない。
「レイア?聞こえてる?もしかして寝てる?」
「それとも、からかってるの?」
「もしもーし!」
アルカはいろいろとレイアに声をかけるが、返事が返ってこない。
「本当に大丈夫?レイア?」
アルカがレイアの肩に触れ、そう問うと、ハッとしたようにレイアの目が開かれる。
「…アルカ?」
「う、うん僕だよレイア。ボーっとしてたけど大丈夫?(いきなり目が大きくなったからびっくりしちゃったよ…)」
「本当にアルカなの?」
「えっえ?僕は僕だよ?」
アルカが動揺しながらそう答えると、突然、レイアは涙を流しだす。
「えっえ!?ど、どうしたのレイア!?」
「あれ、ボクなんで泣いてるんだろう…?」
レイアが泣きだしたのを見て、盛大に動揺するアルカだが、涙を流している本人は自分がなぜ涙を流しているか、わからない様子である。
▽▽▽
「だ、大丈夫?レイア?」
「うん、心配かけてごめんね?なんだか、アルカの顔を見たら涙が出てきちゃって…」
(僕何かしたっけ!?)
しばらくして、泣き止んだレイアは、アルカと並んで座る。アルカは自分の過去の行動を思い出している。
(な、何か泣かせるようなこと…あっ!もしかして、一昨日、買い物に行く約束を断ってラン達に会いに行ったこと!?)
アルカはそう思うが否や、レイアに謝ろうとする。
「あのさっ!レイア、一昨日のことなんだけど──」
「ねえ、アルカ」
「えっ?なっなに?」
アルカが一昨日のことをレイアに謝ろうとした時に、レイアが声をかける。
「みんな来ないね?」
「そっそうだね!それよりも一昨日──」
「ボクたち二人っきりだね」
「…あ、うん。そうだね…」
謝ることを諦めたアルカに、レイアは体ごと近づく。
「あのブラコン双子もいないわけだし、アルカとイチャイチャする絶好のチャンスってことだよね?」
「あっあの、レイア…さん?」
レイアはアルカに覆いかぶさるように近づく。アルカは後退しようとするが後ろに木があって下がることができない。
レイアは木に手をつき、アルカのことをまっすぐ見る。その眼はまるで、獲物を前にした肉食動物のようであった。
壁ドンをされた獲物は冷や汗を流し、ぶるぶると震えている。
「レイアさん、ちょっと近いです!一昨日のことそんなに怒ってるの!?」
「一昨日のこと?何を言ってるのアルカ?まあ、いいよ。アルカは今から目を閉じててくれるだけでいいから。」
レイアはさらに獰猛な笑みを浮かべてアルカに覆いかぶさる。
アルカは顔を真っ青にし、涙目でレイアに謝罪をし続ける。
「ごめんなさいっごめんなさい!仕方がなかったんだ!ラン達のしょんぼりした顔を見たら、断れなかったんだよ!次からはレイアを優先するから、許して!」
「何に対して謝ってるかわからないけど、大丈夫だよアルカ、安心して?天井のシミの数でも数えてたら終わるから。」
「天井って何!?ここ外だよっ!?雲一つない、青空が広がってるよ!」
アルカは必死に抵抗しようとするが、レイアの手が肩を掴んで離してくれないため、逃げることができない。
「大丈夫、大丈夫。痛くしないから!」
「だっ誰かっ、助けてぇぇー!!」
「ふふふ、無駄だよアルカ、こんなところには誰も来ないっ!さあ!ボクと一緒に愛を深めようでは───プギュッ!」
アルカがそう叫んだ時、天から悪に鉄槌が落とされる!
「昼間っから何してんだ、レイア」
「立てるか、アルカ?」
「ソーレン!カリオス!」
アルカが顔を上げると、そこにはレイアをチョップした黒髪黒目の少年、ソーレン・シンシアと、アルカに手を差し出している青髪青目の背が高い少年、カリオス・ボルドネスが立っていた。
アルカが、カリオスの手を借りて立ち上がり、二人に礼を述べているとレイアがゆらりと立ち上がる。
「ブラコン双子がいなければ、貴様がボクとアルカの恋路を阻むのか!このっ、黒もやしっ!」
「ああっ!?誰が黒もやしだ!この外見男子!」
「ムキーッッ!乙女にいったらいけないことを言ったな!黒もやしのくせに!」
「黒もやし、黒もやしってうるせーぞ!このっ、貧乳!」
「ぶっ殺すっ!」
レイアは髪を肩のくらいまでに切り揃え、服装も男っぽい物を好んで着るので、男子に見えなくもない。加えて、貧乳であるため、ますます誤解されやすい見た目となっている。
「あわわわわ、二人を止めないと!」
「待てよ、アルカ」
二人の争いを止めようとしたアルカを、みんなの兄貴分(自称)であり、男の中の男(アルカ曰く)のカリオスがアルカを引き留める。
「アルカは、”喧嘩するほど仲が良い”って言葉を知ってるか?要するに、あの二人は喧嘩をしているように見えるが、本当はじゃれ合ってるだけなんだ。」
「そっそうなんだ!」
アルカが喧嘩をしている二人を見ると、レイアのアッパーが顎に極まり、目を回しながらソーレンが倒れている。
そんな状態のソーレンにレイアは馬乗りになり、さらに殴ろうとしている。
「カリオスやっぱり、止めたほうが…」
「いやぁ、友情は良いなアルカ!」
「これが…友情…」
アルカが洗脳、もとい、おかしな方向に思考が行こうとしていると、後ろから声がかけられる。
「カリオスさん、兄さんに間違ったことを教えるのはやめてください。」
「リナ!来たんだね!カノアはどうしたの?」
「遅くなってすみません、兄さん。カノアはそこにいますよ。」
リナが指さす先を見ると、カノアによってレイアがソーレンから引きはがされていた。
こうして、約束の丘に今年、ジョブを授かる六人が集まった。
スイ「前回、説明回をすると言ったな!あれは嘘だっ!」キリッ
アルカ「可愛いから許す!」
次回は本当に説明回にします……