一話 朝のひと時
王都から離れた山奥にある村、「アルヒ村」では、朝早くから一人の少女の声が響いていた。
「兄さん起きてください!」
赤髪の少女に体を揺さぶられたベットの上にいる白髪の少年は、モゾモゾと深く布団をかぶり直した後、
「あと五分…」
と、小さな声で言った。
赤髪の少女は頬を風船のように膨らませて、白髪の少年の耳元に顔を近づけて、大きな声で
「いーちっ!にーいっ!さーんっ!」
と、数を数え始めた。
白髪の少年はたまらず、耳をふさぎながらベットから飛び起きると赤髪の少女、妹のリナをジト目で見る。
「リナ、その起こし方はやめてくれないか…?僕の耳が使い物にならなくなってしまうよ?」
「兄さんおはようございます」
「リナ?聞いていたかい?無視はだめだよ?」
「兄 さ ん お は よ う」
「……おはよう、」
挨拶を返した白髪の少年、アルカに、リナは笑顔を見せる。
「兄さんが一人で起きられるようになって、朝の挨拶をもっとしっかりしてくれるなら考えてあげますよ?」
「朝は弱いんだよ…まぁなるべく頑張るようにするよ」
兄の頼りない笑顔を見たリナは、半分は嬉しそうに、もう半分は呆れたような表情で溜息を吐いた。
「朝ご飯はできているので早く来てくださいね?カノアも待っていますから。」
「うん、わかったよ」
リナが部屋から出て行ったあと、アルカは軽く伸びをし、身支度を整え始めた。
▽▽▽
リビングに近づいて行くと、いい匂いが漂ってきて、少しだけ歩く速さが速くなる。リビングに入るとおいしそうな朝食が机の上に置かれ、三つあるうちの二つの席には赤髪の少女が二人、座っていた。一人は遅れてきた兄を待っていたのか、まだ朝食には手を付けていない。もう一人の少女は待ちきれなかったのか、すでに朝食を食べ始めていた。
「おはよう、カノア」
「ん?ああ、おはよう兄貴、来るのが遅かったから先に食べてるぜ」
すでに朝食を食べ始めていた赤髪の少女、もう一人の妹であるカノアに朝の挨拶をする。
「別にいいよ。リナは待っていてくれてありがとう。毎回言っているけど、先に食べていてくれてもいいんだよ?」
「いいえ、これは私が好きでやっていることなので兄さんは気にしなくていいですよ。」
「(リナは変なところで真面目だなぁ)分かったよ。待たせて悪かったね、食べ始めようか」
「はい!」
焼き立てのパンを少しだけ冷めてしまったスープに浸しながら食べていると、リナが口を開く
「兄さんは今日の予定を覚えていますよね?」
「今日の予定?(何かあったけ?)」
リナは軽くため息を吐いた後、紅茶を飲み呆れた表情を作る。
「その様子だと忘れていたみたいですね……確認しておいてよかったです。いいですか兄さん、今日は一週間後に迫った『ジョブ診断』のことをより理解するために、ソーレンさんが村長さんから『ジョブ診断』について書かれた本を借りてきてくれるので、みんなで集まって見ようって昨日話しましたよね?」
うっすらとだが昨日のことが頭に浮かんでくる。
(確かに、そんな約束していたな……なんで忘れていたんだろ?まさか、ボケの始まり!?)
「集合はお昼にいつもの丘に来てくださいね。私は午前中、買い物に行きますから兄さんとはいけませんが、ちゃんと来てくださいね?」
「分かったよ。僕はいつも通り午前中は太郎たちに会いに行くよ、カノアもくるかい?」
すでに朝食を食べ終えているカノアに向かって笑顔で聞く。ちなみに、リナも朝食は食べ終えている。
「兄貴がどうしてもっていうならついて行ってもいいぜ」
「なら一緒に行こ「駄目です。」うか……え?」
「私一人では買ったものを持つことができないので、カノアには私の買い物に付き合ってもらいます。(兄さんと二人きりにはさせません!)」
「おい、リナ」
カノアはこめかみに青筋を立てながらリナの方を睨む
「なら仕方ないね……僕は一人で行くからカノアはリナを手伝ってあげてくれないかな?」
「………分かったよ」
明らかに落ち込んだ様子でカノアはそう呟いた。二人のやり取りを見ていたリナはパンッと両手をたたき二人に笑顔を見せた
「それじゃあ兄さん、私たちは行きますね?ほらっカノアもいつまでも落ち込んでないで行きますよ!」
「わーたっよ!」
「二人とも気を付けていくんだよ?洗い物は僕がやっておくね」
「ありがとうございます、兄さん。それでは行ってきますね」
「兄貴も気を付けろよ」
「うん、行ってらっしゃい」
妹たちが家を出て行った後、すぐに残りの朝食を食べ、三人分の食器やコップを洗い、必要なものを鞄に詰め込みアルカも玄関へ向かう。
「行ってきます」
誰もいない家へと出発の挨拶をし、林の中を進んでいく。
今日も少年の一日が始まる。
第二話、三話を出来るだけ早く投稿できるよう、頑張ります!