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Code.2 いざ行かん、戦いの地へ




 僕たちが通されたのは大きな部屋だった。その部屋には規則的にベッドが並べられている。

 このベッドは何に使われるのだろうか、僕がそう思っているとスタッフが何かを手渡してきた。

「これをかけてベッドに横になってください」

 渡されたのはVR用のゴーグルであった。なるほど、SF映画で見たことがある。

 僕は適当にベッドを決め早速ゴーグルをかけた。が、何も反応しなかった。おかしいなと思っていると、

「我々のほうでゲームをスタートさせますのでご安心ください」

 スタッフのその言葉を聞いて僕は途端に恥ずかしくなっていた。頬が熱くなるのを感じる。

「ドキドキしますね」

 と、話しかけたのは梨沙だ。とても緊張しているようだ。

「う、うん。 今まで色々なゲームイベントには参加してるけどこの手のは初めてだから僕もドキドキするよ」

 僕はそう返す。

「そうなんですか? ゲーム、本当に好きなんですね、えーと……」

夏目なつめ健一郎けんいちろう

「え?」

「僕の名前」

「夏目さん……」

「うん、すごく好きなんだ!」

 などと話していると再びアナウンスが聞こえてきた。

『それではこれよりゲームを開始します。心の準備はよろしいですか?』

 僕はベッドに横になる。胸の高鳴りを感じた。これからどんな楽しみが待っているのか、僕は期待に胸を膨らませていた。

『それではスタートします』

 そのアナウンスを最後に僕は意識が遠くなるのを感じた。現実の世界から自分だけが切り離されるような感覚。そして恐らく他のプレイヤーも感じているであろう感覚。僕はそれに身を任せた。

 ゲームの世界に浸るために。



  ◇



「ん……、んん……」

 僕は少しずつ意識が自分のものに返ってくる感覚を覚えた。フワフワと彷徨っていたものから地に足がつくそんな感覚。僕はゆっくりと目を開けた。

「うわあ……」

 それを見た瞬間、僕は思わず息を呑んだ。

 そこに広がっていたのは森林のような場所であった。青々と茂る木々が辺り一面に広がっている。それは一瞬ここが現実世界ではなく作られた仮想現実であることを忘れさせた。

「すごい……」

「ほんとですね……」

 と、隣からすっかり聞き馴染みになった声がした。振り返って見るとそこには梨沙の姿があった。が、その姿を見て僕は驚いた。

「な、何その格好!?」

 梨沙は魔女のような格好をしていた。

「え? ああ、これですか? 目が覚めたらいつの間にかこの格好になってたんですよ、どうですかね?」

 大きなつばのある帽子を押さえながら梨沙は訊いた。それはなかなかに可愛らしかった。

「け、結構可愛い、かも……」

 僕は照れ臭くなりながら答えた。

「ありがとうございます! あ、夏目さんもカッコいいですよ!」

「え?」

 そう言われて初めて僕は自分の格好に気付いた。重厚感のある甲冑を纏った、いわゆる西洋の騎士ナイト風の出で立ちをしていた。

「な、何だこりゃあ!?」

 僕は思わず声を上ずらせてしまった。

「ふふ、似合ってますよ」

「う、動きにくくて困るなあ」

「えー、結構似合ってますよ!」

「そ、そうかなあ?」

 そうは言うが、僕自身まんざらではなかった。毎日のようにゲームをしていて女子と関わることすらなかったのでそういう感じに言われるのが内心嬉しかったのかもしれない。

「騎士として牧野さんのことは守ってみせるよ」

 僕は冗談混じりにそう口走っていた。

「ふふ、じゃあよろしくお願いします、なんて!」

 梨沙もそれに乗ってくれている。なんていい子なんだ。

「あの……、盛り上がってるとこ悪いんだが、僕もいるんだけど……」

 と、別の声が聞こえた。男性の声だ。

「あ、すみません! べ、別に近藤さんのことを忘れてたわけじゃないんですよ!」

 梨沙は慌てて謝っていた。僕は声の主の顔を覗く。四十代ほどの中年の男性だ。

「あ、どうも……」

 視線に気付いたのか、男性は僕のほうを向き軽く会釈をする。

「私、近藤こんどう憲武のりたけって言います。あ、木梨憲武の憲武ね、分かる?」

「は、はあ……」

 僕も同じように会釈する。

 近藤の格好はスーツであった。いや、もしかしたら普段会社に行くときに着ているものかもしれない。僕には分かりようのないものであった。

「えーっと、確か夏目くんって言ったかい?」

「あ、はい!」

「君、ゲーム詳しいんだってね?」

「そ、そんなことは──」

「おじさんね、こういったゲームよく分かんないのよ。 だからね、何か裏技みたいなのあったら教えてほしいんだけどね」

「う、裏技ですか?」

「教えてくれたら賞金の半分くらいあげちゃうからさ、ね?」

 どうやら優勝する前提で話を進めているようだ。

「この手のゲームだと裏技と呼べるようなものがないんですよ」

「え、ないの? またまたー、本当はあるんでしょ? 知ってて自分の手柄にしちゃうんでしょ?」

「ほ、本当にないんですけど……」

 こういう人は苦手だ、僕は心の中でそう呟いていた。

「まあ、思い出したらおじさんに教えてちょ! ほいじゃよろしくね!」

「は、はあ……」

 やはり苦手だ、僕は思わず溜息をついていた。

 アナウンスが聞こえたのはまさにそのときだった。

『プレイヤーの皆様、ここがゲームの舞台となります“アリスの花園”です。中世のヨーロッパをモチーフとした可愛らしい世界となっております。それでは皆様、存分にお楽しみくださいませ』

 そこでアナウンスは終わった。

「アリスの花園……」

 なんとも可愛らしい名前だ。ファンタジー寄りのゲームなのだろうか。

「夏目さん、どうしますか?」

「あ、そうそう。まずはどう進めていきゃいいんだい?」

 梨沙と近藤が僕に訊いてきた。僕は少し考え、

「そうですね……、まずは食べ物アイテムを探しながら経験値アイテムを集めていく感じで進めていきましょう!」

 こう提案した。

「分かりました!」

「あいよ、了解」

 二人はそれぞれ返事をする。その様子が僕にはなんだかおかしく思えた。

 何はともあれ、これから二日間に渡る壮大なゲームが始まるのだ。僕のワクワクは止まらなかった。




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