Code.1 僕とゲーム
『キミの腕を試せ! 参加型ゲームイベント開幕!』
一人暮らしの僕の家に届いた広告に書かれていたのはこんなキャッチコピーだった。
「なんだこれ? 参加型ゲームイベント?」
僕はその広告を詳しく見てみた。
『新東京国際フォーラムにて開催、参加は無料、定員30名、優勝賞金100万円、話題のVRでアクションゲームを体験しよう!』
広告にはそう書かれていた。
「VRが体験できるってマジか……」
僕はその言葉に惹かれていた。今話題のVRが体験できるというのだ。ゲーム好きな僕としてはこれ以上に惹かれる言葉はないだろう。正直なところ、優勝賞金の100万円よりも惹かれているくらいだ。
僕はそのイベントへの参加を即決していた。
◇
それから二日後。僕は新東京国際フォーラムに来ていた。ここで二日間に渡りVRゲームの参加イベントが開催されるのだ。
受付で参加用紙に記入を済ませる。僕でちょうど30人目であった。僕は自分の運の良さを誇った。
それから会場内に入った。ここで行われているゲームイベントに何度か参加してることもあり知ってはいたのだが、やはりその大きさには感嘆した。
「やっぱデカイなぁ……」
と、そのときであった。スピーカーを通して女性の声が聞こえてきた。
『会場にお集まりの皆様、本日は参加型ゲームイベント“Dead or Alive in 新東京国際フォーラム”にご参加いただきまして誠にありがとうございます』
それはとても美しい声であった。
『本ゲームイベントは最新のVR技術を駆使して弊社が開発したリアルアクションゲーム“Dead or Alive”を皆様に体験していただくために開催いたしました。そして、より有意義に楽しんでいただくために優勝された方には賞金100万円を進呈したいと思います』
女性はひと呼吸入れて説明を続ける。
『詳しい説明は後ほどスタッフがしますが、ここで簡単にゲームのルールを説明します。制限時間は48時間、そのあいだ他のプレイヤーに見つからないように行動していただきます。そして、48時間後に開放されるゲートより無事に脱出できた方に賞金を進呈したいと思います』
なるほど、いわゆるサバイバルゲームというわけか。
『道中には、獲得することで体力を回復できる食べ物アイテム、経験値を貯めレベルを上げる経験値アイテム、レベルを上げることで使うことのできる武器アイテムなど、さまざまなアイテムをご用意しております』
これは面白そうだ、僕はそう思った。敵に見つからないように行動する。武器があるということは攻撃をすることも可能というわけだ。体力を回復するアイテムがあるのも相手の体力を減らせるということを意味している。
僕が一番得意としているゲームであった。
スタッフによる説明は10分ほどで終わった。
・各プレイヤーに一定量のHPが用意され、そのHPがなくなったとき、つまり0になったときに“死亡”という扱いになりゲームの参加資格を失ってしまう。
・HPは常に減っていくもので、満タンから0になるまでの時間はちょうど5時間。時間経過で0になった際も“死亡”と見なされる。
・“食べ物アイテム”を使えばHPが全回復する。
・“経験値アイテム”は集めていくと経験値が貯まっていき一定量貯まるとレベルが上がる。
・レベルが一定量まで上がると使えるのが“武器アイテム”で、レベルを上げれば上げるほどより強力な武器を使うことができる。
ざっとこんな感じだ。
「HPは5時間でなくなるから見つからないようにじっとしているわけにもいかないわけか」
なるほど、よく考えられている。僕は思わず感心した。
「あ、あの……」
と、誰かが僕に話しかけてきた。僕は声のした方を見る。そこには同い年ほどの少女が立っていた。
「何?」
「きゅ、急に話しかけてすみません……。私、牧野梨沙っていうんですけど……」
「牧野さん? どうしたの?」
と僕が訊くと、急に彼女──梨沙は頬を赤くした。
「わ、私……、こういうゲー厶のことよく分からなくて……、知っていたら教えてほしいんですが……」
「よく分からない?」
「あ! じゃあ何で参加してるんだって話ですよね! えーっとですね、実は……」
梨沙はひと呼吸入れてこう言った。
「実は、うちの父が病気で入院していて、しかも難しい病気みたいで、日本だと手術ができないみたいで、アメリカに行かないとできないみたいで、それで──」
「それで優勝賞金の100万円が欲しい……」
僕は彼女の言いたいことを呟いた。
「そ、そうです! でも、お金のことばかり見ててどんなゲームをするかなんて考えてなくて……」
「なるほど、そういうことなら。 自分で言うのもあれなんですが、こう見えて結構ゲームうまいほうなんですよ」
「そうなんですか? よかったです!」
彼女は急に明るくなった。
「では説明しますね」
「は、はい!」
「まずは基本的なこと。HPがいっぱいの状態から完全になくなるまで5時間かかると言ってましたよね」
「い、言ってました!」
「つまり、動ける時間は5時間が限界です。 何もせずにゲートが開放されるのを待つということは物理的にできません」
「はい!」
「HPを回復する“食べ物アイテム”を使うことを頭に入れて進めていってください」
「はい!」
「“経験値アイテム”は集めていくと経験値が上げられます」
「経験値を上げるってどういうことですか?」
「ええと……、簡単に言うなら、ある科目を勉強してその科目の単位を貰う、みたいな感じですかね」
「なるほど……」
「それで単位をどんどん貰っていって進級する、これが“レベルアップ”です。どれだけかは分かりませんがある一定のレベルに達したらそれに応じて使える武器の強さが決まります」
「はい……」
「その武器を使って有利に進めていく、これがこのゲームの肝なんでしょうね」
「な、なるほど……」
「ふぅ……」
と、僕は彼女が話についてこれていたかふと不安になった。ゲーム好きの僕の熱弁に引いてしまったのではないか。
「こ、ここまでの説明で分からないことはありましたか?」
「大体は分かりました」
梨沙はこう答えた。ああ、優しい人だなぁ。
「詳しいところは実際にゲームが始まってから説明しますよ」
「あ、ありがとうございます!」
梨沙は頭を下げた。なんと礼儀正しい人なのだろう。
「お互い頑張りましょう!」
僕はそう声をかけていた。
と、そのとき再び例の声が聞こえてきた。
『時間になりました。それではプレイヤーの皆様はスタッフの誘導に従って移動してください』
アナウンスが終わると同時にスーツを着たスタッフらしき男性が現れた。
いよいよゲームが始まるのだ。僕は胸を高鳴らせていた。