第7話 類は友を呼びよせる図書館 後編
空から降ってきた(正確には本棚から落ちてきた)ウサミミ少女は、落下のダメージからしばらく動けずにいた。
「大丈夫?」
流石に心配になった俺は手を貸そうとするが、それはあっさり振り払われてしまう。
「て、敵の手は借りたくないから触らないで!」
「敵?」
昨日ここに来たばかりの俺が敵を作るようなキッカケなんて当然ないので、思い当たる節がなく頭に?マークを浮かべる。
「もしかして忘れたとでもいうの? 私とあなたはライバル関係なの!」
「ライバル関係? ティナお姉ちゃんは知ってる?」
「私はそんな話は一度も聞いたことないけど」
「じゃあ人間違えでは?」
「なっ!? あなたは私のことも忘れてしまって言うの? この気高い獣人族の私を」
「忘れたもなにも、私達初対面だよね」
「ムキー!」
ウサギなのに猿みたいな声を出すウサミミ。そもそも俺からしたら会う人すべてが初対面になるわけで、こうやって怒られても知らないのだから困る。
「いいわ!忘れたというなら二度と忘れないようにこの名を聞かせてあげるわ。私は獣人族の中でも最も誇りだかい兎族の長の娘、ラーヤ! 次忘れたら許さないから!」
名乗るだけ名乗って、図書館を出ていくラーヤ。何だか騒がしい女の子に出会ってしまったらしい。
……あれ?
彼女は一体何のために俺達の前に現れたんだろう。
「って、自己紹介しに来たわけじゃないのよ!」
あ、戻ってきた。
「さっきの話本気なのあなた。この図書館で暮らすって」
「一応本気のつもりで言っていたけど、もしかして盗み聞きしていたの?」
「人聞きの悪いこと言わないでよ! 兎は耳がいいだけなの!」
そう言い張るラーヤ。だが結果的に盗み聞きしていたことには変わりないのだが、それ以上いじりたおすのも可哀想なので、そっとしておこう。
「それでどうして図書館で暮らすのが悪いの? ユウちゃんは勉強がしたいから暮らすって言っているだけなのに」
そう切り上げたのはリルだった。さっきまで会話していないなと思っていたら、どうやら本を探していたらしく、すでにその手には何冊か本があった。タイトルは見えないが、何を彼女が手に取ったのかは大方予想できる。
現に知らないうちにティナも同じように本を手に取っているのだから。
「ここは私の住処なの! その住処をどうしてあんたに渡さなきゃいけないのよ。ここで暮らすのは主である私が許さな……ぐふ」
本が飛んできた。一切の狂いもなく、完璧なコントロールとともに彼女の頭にめがけて。その見事なコントロールに拍手を上げたいが、本棚から落ちたり本を投げつけられたり、先程から不幸なことばかりのラーヤが少し可哀想なのでやめておこう。
「うるさいラーヤ。ここはあなたの住処ではない」
飛ばしてきた主の声が少し遠くからする。ラーヤはというと衝撃が強かったのか気絶をしている。
「ここは私だけの住処」
そういって奥のほうから姿を現したのは今度は犬耳の少女。恐らくラーヤと同じ獣人族の仲間だろう。
「えっとあなたは?」
「私はサシャル。ここの住人」
「私だけのって言っていたけど、ずっと暮らしているの?」
「昨日から住み始めた」
「それでよく自分だけのものって言えたね!?」
この子ももしかしてラーヤと同類なのでは?
「サシャル、ここは私の物だって散々言ったでしょ!」
いつの間にか気絶から復活したラーヤが彼女に反論する。
「あなただって昨日から来たくせによく言い切れるわね」
「私のが一分早くやって来たんだから、私の物なの!」
「一分なんて誤差の範囲」
「全然違う!」
子供みたいな喧嘩をしだす二人に、俺は内心呆れる。獣人ってこんな奴らしかいないのだろうか。ティナとリルのようにこの図書館は、類は友を呼び寄せているのかもしれない。
本人達に自覚はないだろうけど。
「ねえ喧嘩になるくらいなら皆で暮らしたほうがいいんじゃないの? ユウちゃんだって協力者がいたほうが助かるでしょ?」
そんな喧嘩を遮るようにリルがそんな名案を出す。別に俺は一人暮らしをしたいというわけでもないので、協力者がいるならそれはそれで助かる。特にサシャルなんかは同じ匂いを感じる。
「一緒にってこの二人と? 何で高貴な私が」
「私はそれでもいい。退屈しのぎにはなりそうだし、あなたの話が少し気になる」
文学系イヌミミが仲間になった。
俺を見ながらサシャルは言う。その言葉にどんな意味が込められているかは読み取れないけど、恐らく本が好きなことであっているよな?
「私もそれで構わないよ。これだけの本を読破するのは難しいし、二人にも手伝ってほしい」
「私達も協力するよ。ティナも私も暇だし」
「私まで巻き込まないでよ」
皆わざとラーヤを見ながら言う。当の本人はその状況に慌てふてめいた後、一人で何か呟き、そして彼女は顔を赤くしながらこういった。
「べ、別に私も力になってあげてもいいけど、私のルールにはのっとってもらうからね」
ツンデレウサミミが仲間になった。
仲間が二人増えた。
「じゃあ早速だけど、あそこにある本棚から読破しようか」
「も、もうやるの?」
「当たり前だよ。私は今すぐにでも本が読みたいんだから」
「本好きすぎ」
俺は近くの本棚から本を取ろうとする。
「あ、あの! 私もご協力できないでしょうか?」
金髪の美少女が現れた。