第54話 三冊目を求めて
「フリス!」
ラーヤの知らせによって、大怪我を負ったフリスが運ばれた場所は二人で向かうと、その小さな体に沢山の傷を負ったフリスが眠っていた。
「一体何が……」
フリスと別れたのはほんの数十分前の話だ。その間に一体誰が、何の意志でフリスをこんなにも傷つけて……。
「スービニアに出たところで倒れているところを見つけたの。その時には既にもう意識がなくて……」
俺達の後を追って入ってきたラーヤがそう説明する。彼女もどこか信じられないような顔をしていた。
「どうしてフリスだけを狙ってこんな事を」
「分からない。倒れていた周辺に人の気配もなかったし、フリスがいつからスービニアの外にいたのかも分からないから、どのタイミングで襲撃されたのかも分からないことばかり」
「フリスがいつ外に出たかは分からないけど、考えられるとしたら多分本当にさっきの話だと思う」
「どうして分かるの?」
「さっきまで私がフリスと話をしていたから……」
もしかしたらあの直後に彼女は外に出たのかもしれない。でもそれならどうして……。
(フリスはスービニアに残ると言っていた、それなのに……)
彼女は俺と別れた直後に何をしようとしていたのだろう。
「じゃあユウと話をした後に、フリスはスービニアから出たの?」
「うん」
「その時に何か言ってた?」
「ううん、何も言ってなかった」
むしろ言っていたのは俺の方だった。もし彼女をもう少しだけでも引き止めていたら、もしかしたらと思ってしまう。
「ユウが気に病む事はない。ただ、犯人を探さないとフリスが可哀想」
ユウニはさりげなく俺を励ましてくれる。と同時に、昨日までの彼女とは全く違う発言が彼女から出た。
(心配なんだな、フリスの事)
それだけでも俺は少しだけ嬉しい。きっとフリスが目を覚ましたらいつもと同じユウニと変わらないだろうけど、変化はし始めていた。
「犯人を探すにしてもどうするの?ユウ達はこれから三冊目の預言書を探しに行くんでしょ?」
「そうだけど、フリスの事が心配だし、少し引き延ばすしか」
「私なら……大丈夫」
弱々しい声が俺達の会話に入ってくる。視線をベッドの方に移すと、僅かに目を開いているフリスの姿があった。俺達が会話をしている間に、目を覚ましてくれたみたいだ。
「フリス、よかった……」
「ごめんユウ、私を心配してくれて……。でも、大丈夫。私これでも丈夫だから」
「嘘言わないでよ。最初に出会った時、ぶつかっただけで気絶したのに」
「……」
フリスの明らかな嘘を、俺は見抜いた。それだけ心配させないように気を遣ってくれたのだろうけど、それが余計に俺の心配の心を膨らませた。
「無理しなくていいよ、フリス。一緒に行っても行かなくても、このままフリスを無視して、二人でいけない」
「駄目、ユウ……。これはユウが調べちゃ駄目……」
「フリス? どうしてそんな事を」
「理由は言えない……。でもお願いだから……」
懇願されてしまう俺。理由が分からない以上、俺はその言葉に頷く事ができない。俺はただフリスの事を心配しているのに、そこまで止められると逆に気になってしまう。
(何か俺かもしくはユウに関わる事があるのか?)
なら、尚更調べなきゃならない。
「ユウニ、ユウの事をお願い……」
「分かった。私達明日出発するから」
「ユウニ?! どうして」
俺は納得できない。それなのにユウニは何故か納得してしまった。何が、何が駄目なんだ。
「ユウ、準備しよう。明日の朝にはここを発つから」
「だからどうして」
「フリスの為。だから行こう」
「フリスの為?」
尚更分からなくなる。けど、ユウニは俺の言葉を無視して出て行ってしまい、俺も仕方がなく彼女の後を追う事にした。
「フリス、どうしてあそこまで言う必要があったの?」
「あそこまで言うしかなかったの……。ユウには悪いけど、この件は私がちゃんとケリをつけるから……」
「それはどういう事なの? 一体何が」
「二人がスービニアを発ったら、話す。きっとこの国にも必要な事だと思うから……」
■□■□■□
俺は納得できないままスービニアを発つ日を迎えてしまった。ユウニが出発してしまう以上、俺もついて行かないわけにはいかないので、それに従うしかなかった。
「納得できない?」
「当たり前でしょ。ユウニだって心配してたのに、あれは嘘だったの?」
「嘘じゃない。でもそれ以上に心配しなきゃいけないのは」
「あ、二人とも。本当にこんな早くにスービニアに出るんだ」
ユウニがまた何かを言いかけたところで、会話に割り込まれてしまった。こんな朝早くに声をかけてきたのは、サシャルだった。
「皆に挨拶なしで行くの?」
「また戻ってくるから、挨拶はしなくていいかなって。でも、フリスが心配だから、日を遅らせたかった」
「なら、どうして今日出発するの?」
「フリスがそう言ったから、なんだけど。それでもやっぱり分からない」
「なら私がちゃんと聞いておく。帰ってきてから説明するから」
「分かった。ありがとうサシャル」
サシャルとはスービニアの入口で別れて、俺とユウニはいよいよ三冊目の預言書を求めて旅へ出る。でもその前に、
「ユウニ、こうなる事ももしかして預言されていたんじゃないの?」
俺はユウニに一つだけ確かめておきたい事があった。
「預言されてた。でもそれは、避けられなかった」
「知っていれば避けられたんじゃ」
「ユウが知っていても、避けられなかった。それが今回の犯人の答えでもあるから」
「犯人の答え?」
「行こう、ユウ」
ユウニは肝心な事は答えずに歩き出した。俺は不信感だけ残ったまま、旅の門出となってしまうのだった。




