第41話 追憶の果て〜襲撃〜
少しずつ少しずつ蘇り始めた自分の記憶。だけどその記憶を取り戻す度に頭痛が激しさを増していく。もはや意識を保つのすら限界が近づいていた。
(何でこんなに頭が……)
何度も鈍器のようなもので殴られ続けている感覚。まるで俺が思い出すのを拒絶しているかのように、激しい頭痛だけが俺を襲っていた。
(駄目だ、もう……)
そして限界に達した俺は、ついに意識を手放した。そして俺は意識を失いながらも、消えていた記憶を取り戻していく……。
■□■□■□
「敵襲! 敵襲だー!」
二ヶ月、ティナとユウと奏の三人で平和に過ごしていたある日、それは突然やって来た。今まで一度も鳴らされる事がなかった、警鐘が郷に響き渡る。
「何が起きたんだ」
「いつかはあると思っていたけど、もう来たのね」
「ティナ?」
「三人とも逃げるわよ」
「逃げる? どういうなの」
この日まで二人からの話でしかこの世界の現状を聞いていなかった俺と奏は、あまりに突然の事に驚きを隠せない。
「前に話したわよね、この世界は争いが絶えないって。その火の手がここにも回って来たの」
「戦うという選択肢はないのか?」
「私達がそんな事出来るわけないでしょ。それともリュウノスケは死にたいの?」
「そういう訳じゃないけど」
ラノベの世界なら、ここで主人公が何かの力に目覚めたり秘められた力が発動したりするが、俺にそんな力は勿論ない。だからここは大人しく逃げるのが吉なのかもしれない。
それくらいは俺だって弁えている。
「龍ちゃん、どうしたの? 逃げないと」
「悪い三人とも、先に逃げててくれ。あとで合流するから」
でも弁えていても俺は、
「何を言っているの? 馬鹿じゃない!」
「馬鹿でもいい。だけど大切な人をこの手で守れるなら」
男である以上引きたくない。
そんな正義感から俺は三人を置いて駆け出していた。
「龍ちゃん!」
「リュウノスケ!」
まるで主人公みたいな行動。
だけど俺は主人公ではない。
特別な力もない。
無力なのも知っている。
でも止まらない。止まれなかった。
だけどその確固たる意志は、次の時には砕けてしまっていたら、
「……あれ?」
無意識で突き進んでいたせいか、それとも自覚はあったのかは分からない。だけど次自分がまともな意識を取り戻した時には、真っ暗な闇の中にいた。
誰の声もしない。
(俺死んだのか……?)
こんな暗闇で何も聞こえないとそう錯覚するが、次の瞬間には声と共に俺の意識が覚醒し始めていた。
「龍ちゃん! 目を覚ましてユウちゃん!」
俺を呼ぶのは奏の声。俺はその声に引っ張られるように暗闇から光の中へと身を投じる。そして……。
「あ、龍ちゃん! よかった、目を覚ましてくれた……」
奏の顔が光の中に見えた。どうやら俺は一時期だけ意識を失っていたようだ。この間には何があったのかは覚えていない。俺はただひたすら無意識に動いていたからなのかもしれない。
「奏、俺は……」
「馬鹿! 馬鹿! 心配ばかりさせて……」
「ごめん.……」
「ごめんじゃ済まされないわよ、皆に心配かけて……」
そう言われて周りを見回すと、視界の隅にティナとユウの姿が見える。だけどその二人は何故か怪我をしていた。よく見れば俺達がいるのはどこかの森の中。
そういえばこの里の近くには山があったけど、そこに避難して来たのだろうか。
だとしたら、彼女達の故郷は?
あの戦いは?
俺が意識を失った後に何があった?
「龍ちゃん、私もだよ」
「え?」
「私だって皆を守りたいよ。でも無理をするのは嫌だよ。命をかけようとしてまで」
「悪かったよ。でも男としてその気持ちは変えられないんだ」
「龍ちゃん……」
たとえ命を掛けたとしても、やるべき事は決まっている。目の前の大切な人を絶対に守る。彼女のこの手を絶対に……。
「リュウノスケ! 危ない」
「え?」
だけどその希望は……。
「龍ちゃん!」
いとも簡単に、
「かな……で?」
崩れ去る。どこからか飛んできた槍が、俺……ではなく、俺を庇った奏の体に突き刺さった。
「奏ぇぇ!」
■□■□■□
思い出した。
いや、思い出してしまった。あの時の事を。
奏が俺を庇ったあの瞬間を。
男の俺が守られたあの瞬間を。
でもあの時すぐにカナデは亡くならなかった。あの時近くに偶然あった、この国、スービニアに運び治療をしてもらった。
そこまではハッキリと覚えている。
だけどそこからは……。
(また思い出せない……)
しばらくの間意識を失い、再び目を覚ました俺は、最近何度も見ることになった天井を眺めていた。
「ユウちゃん、よかった……目を覚ましたんですね」
だけどその目を覚ました俺に対して、部屋に入ってきたスズが俺にこう言葉を突きつけてきた。
「スズさん、私また迷惑をかけてしまいました」
「いいんですよ、無事なら。それよりも私はユウさんとちゃんとお話ししたい事があるんです」
「話を……ですか?」
「あなたは……ユウさんではありませんよね?」
それはもうこの世界に来て何度も聞いた言葉。隠したくても隠し通せない、事実。
「あなたは……夏目龍之介さんですよね」




