第30話 二匹のウサギは邂逅する 後編
そういえばサシャルの話で思い出したが、ラーヤの他にも兎族が一人だけ残っていたらしい。だけど奇跡が起きないと出会えない状態だという。
その奇跡がラーヤの目の前で起きていた。
「ヒナ、どうして……もう会えないってあの時」
「サシャルも心配させちゃったね。でも間に合ってよかった」
「間に合うって……」
「親友が犠牲になろうとしているのを、黙っていられないでしょ?」
そうラーヤに向けて言うヒナという少女。それに対してラーヤはただただ驚く事しかできていない。
「ヒナ、私この国を……ヒナたちを守るためにやらなきゃいけないの。そうすればきっと、私のような目に合う獣人もいなくなるし、この国は安泰になる」
「駄目だよ、ラーヤ。そんな事は私が絶対にさせない」
「でもヒナをその体にしたのは私なんだよ。責任は私自身がとらないと」
「だからそんな事は駄目だって。そんな事をして解決するなんて思わないでよ!」
「じゃあヒナはどうして欲しいのよ!」
「生きてほしいに決まっているじゃない!」
「!?」
「私こうなったのはラーヤのせいだなんて一ミリも思っていないんだよ? それなのに責任を取るだなんて、無責任すぎるよ」
人には責任の取り方はいくらでもある。だけどその中で一番悪い選択は死を選ぶことだ。それも責任の取り方の一つなのは理解できないわけがないが、先程サシャルが言った通り残される人達の気持ちになった時に、それはもっとも間違っている。
俺もそれに気づいたからこそ、強く生きてこれた。
「ラーヤ、私もヒナと同じ気持ち。ラーヤには絶対いなくなってほしくない。そんなの駄目だよ」
「そうだよラーヤ。私もサシャルや皆と一緒だよ」
「ユウ、サシャル……どうしてそこまで私を」
「大切な親友だから、それだけじゃ駄目?」
「何よ、サシャルはいつもいつもそうやって……」
ただの茶番だって思われても構わない。だけど、一人の人が命を賭してまで自分の国を守ろうとしているのだから、それだけは止めたかった。
「ラーヤが何と言おうと私は絶対にそんな事はさせない。それ以外の道を絶対に見つけ出す。その為に私は今日会いに来たんだから」
「ヒナ……」
「だからもう一人で抱え込まないでラーヤ。あなたには私達がいる」
「……うん」
ヒナが差し出した手を、ラーヤはしっかりと握る。それは二人の友情を示すかのようにがっちりと、そして絶対に離れることのない確かな証として繋がれていた。
「ヒナ、ありがとう」
「いいよ。私にできるのはこのくらい……」
だがその確かな証が繋がれた時間はわずか数秒。ヒナはまるで電源が切れたロボット化のように、繋いだ手から離れるかのようにラーヤに倒れこんだ。
「ヒナ?」
「……」
「ヒナぁ!」
人生の中のほんの数十分の間に起きた小さな奇跡。だけどその奇跡はとても儚くて、切なくて、だけど確かなものとして俺達の胸にこの先も残すことになった。
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ヒナは本来この場所に来れたことももはや奇跡だと言われるくらい、体が弱っていたらしい。でも本人の希望で、最後はラーヤ達の元へやって来たらしい。本当だったら、最後の別れを言いに来ていたらしいが、それは叶わなかった。
「ヒナはずっとずっと私の大切な親友だった。でも今から数年前に、私のせいであんな体になっちゃったの。それ以来ずっと私はあえなくて、もう二度と会えないと思っていたの。でも今日やっと再会できたのに、それなのにどうしてこんな事に……」
傷つくくらいなら奇跡は起きなかった方がよかったとラーヤは言う。でもその言葉は俺にも向けられているような気がした。
望まれない形で起きた奇跡。
それを起こした当の本人である俺は、ラーヤの言葉がとにかく胸に突き刺さった。
「ラーヤ、ヒナの分まで私達が頑張らないと」
「うん、分かっているよ。でも……」
「大丈夫、私達はいなくならないから」
「……ありがとう」
ラーヤとサシャルの会話が耳に入るが、俺は今は反応しない。それはとてもとても大切なことなんだけど、それでも俺の中にある疎外感は消えない。
「ユウ?」
「二人は……私がこんな歪な形で生き返って、嬉しかった?」
「どうしてそんな事を?」
「私生き返ってから何もいいことが起きていないから。お姉ちゃんはあんな風になっちゃったし、今日は一人の人が亡くなった。私が生き返るより本当はもっと違う奇跡が起きたほうがよかったんじゃないかなって」
「そんな事ないよ。ユウがこうして生き返ったことはすごく嬉しいし、形は違ってもここにはユウがいるって思っている。だからそんな事を考えなくても」
「確かにそんな奇跡いらなかったかもね」
「ラーヤ?!」
「ずっと言おうと思っていたけど、あんたが生き返ったのはすごく嬉しかったけど、本当のユウは戻ってこない。あなたはユウであってユウではない」
「それは分かっているよ」
「なら、どうしてそんなに平気なの?」
「平気なわけない! お姉ちゃんに殺されそうになった時から、ずっと平気でいられないよ!」
これはユウとしてではなく俺という人間の叫びだった。もうずっとこんな事ばかり考えていたら、本当にどうして自分がここにいるか分からない。自分の存在の価値も分からない。世界を救うヒーローに価値なんてどこにもない。
「平気でいられないなら、今すぐいなくなってよ」
「え?」
「ヒナが死んだのに、どうしてあなたが生きているのよ! 何度も何度も私達を苦しめて、いつになったらあなたは……」
「やめてよラーヤ! 今そんな事を言ったって」
「どういう事?」
「ユウ?」
「何度も何度もって、どういう事?」
ふとラーヤが言ったセリフ。でもそれは俺に向けられた言葉とは思えないくらい、謎の言葉だった。
何度も何度もって、それだとまるで……。
「私そんなに転生しているの?」
ユウが何度も生き返っているみたいじゃないか。




