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幼女転生から始める異世界解読術  作者: りょう
第1章幼女エルフは本を好む
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第2話 望まぬ奇跡は哀を呼ぶ

 天使のリル(然り気無なく名前を聞き確認した)に言われるまで全裸だった事に気が付かなかった俺は、彼女から服を借り、今一度姉であるティナの元へ向かうことにした。


「ねえリルお姉ちゃん、ちょっと変な事を聞いていい?」


 その途中、折角なので俺はリルに少しだけ質問をしてみることにした。


「どうしたの?」


「私ってその、いつ亡くなったの?」


「一昨日の話だよ。それからティナは塞ぎこんじゃって、今日まで家から出ていなかったから心配していたの」


「お姉ちゃんがそんなに私を……」


 その姉に投げ飛ばされたんですが、それは……。


「でも今は、こうして奇跡が起きたから元気は戻っているんじゃないかな」


「そ、そうなのかな」


「不安?」


「不安……かな」


  あの怒りようからして、むしろ元気をなくしているとさえ思える。あれから時間もそんなに経っていないのだから、そう考える方が妥当だ。


「リルお姉ちゃんは嬉しいの?」


「勿論」


「そっか……」


 まああり得ない事が起きてしまったのだから、何も知らない彼女からしたら嬉しいに決まっている。

 だからこそ複雑な気持ちだった。


(ティナが言っていた通り、俺は成りすましに近い。それを彼女も知ったら……)


 どうなるのだろうか。


「本当にこれは奇跡なのかな」


「ユウちゃん?」


「あ、ごめん。何でもない」


 こんな望まれてもいない形の何かが、奇跡と呼べるのか。


(あの神様はどうして)


 俺にこんなにも辛い思いをさせる為に、転生なんてさせたんだよ。


 ■□■□■□

 痛む胸を何とか抑えながら、俺はリルと一緒に再び彼女の家へと帰宅。


「ティナ、居るんでしょ。少し話がしたいから開けて」


 そういって家の扉をノックするリル。


 先程の事が少しトラウマになってしまた俺は、リルの背中にぴったりくっついたままその様子を見守った。


「どうしたのリル。さっき話をしたばっかりでしょ」


 数分ほどしてティナが扉を開けて出てくる。そして条件反射かのように俺を見つけるなり、


「あ、偽物! 私だけじゃもの足りず、親友まで騙そうとするなんて許さない!」


 そう言って小さな俺に飛びかかってきた。


「ちょ、ちょっと待ちなさいティナ。私騙されてなんかいないわよ。どう見てもユウちゃんでしょ?」


 しかしそこは何とかリルが仲介してくれ、トラウマが再び起きることだけは避けられた


「騙されちゃダメよリル。そいつは私の妹を装っているのよ。どこの馬の骨か知らないけど、ユウは絶対に男みたいな喋りかたをしない」


「そ、それは多分一時の気の迷いだよ。だから奇跡が起きたんだと思って許してあげて」


「奇跡? これが? 馬鹿にしないでよ。奇跡ならどうしてあの時に起きてくれなかったの? そうすれば私はこんなにも辛い思いをしなくてよかったのに……どうして……どうして」


 突然子供のように泣き出すティナ。その姿を見てリルは黙ってしまう。


(リルが言っていた通り、か)


 肉親を亡くしてまだ二日。それなのに立て続けにこんな事が起きたら、俺も彼女と同じ気持ちになる。


 こんな苦しくなる奇跡、嫌だよな。


「ごめん。二人にはちゃんと話すよr


「え?」


「ゆ、ユウちゃん?」


「そうでもしないと、この体を与えてくれた人に申し訳ないから」


 出会って間もない二人ではあるけど、俺はこの二人には真実を伝えることにした。それは多分二人にとっては残酷すぎる話かもしれないけど、黙っておく方が残酷だと思う。


「持ち主って……どういうことなの?」


「確かに私……俺はユウって子ではない」


「やっぱり成り済ましじゃ」


「成り済ましと言われればそうかもしれない。だけどそうじゃないんだ」


「どういうことユウちゃん」


 だから彼女達だけには伝える。


「俺の本当の名前は夏目龍之介。ついさっき、その、ユウって言う子に転生してこの世界にやって来たんだ」


「え」


「え」


 俺、夏目龍之介というありのままの自分を。


『えええぇぇ!』


 台詞とは全く似つかない可愛らしい声で。


 ■□■□■□■□

「じゃ、じゃあつまり今のユウちゃんは私達が知っている」


「ユウじゃないってことなの?」


 一度家に入り、俺はここまでの経緯をすべて説明した。俺自身も死人であり、

 異世界からやって来てしまった事。

 男であること。

 そしてもう本物のユウという子は戻ってない事。

 嘘のような真実を話した。


「私も信じられなかった。まさかこんな形の転生をしてしまうなんて。自分勝手だよね、本を読みたいから勝手に他人に生まれ変わるなんて」


 俺口調だとこの話をするにはあまりにもシリアスブレイカーなので、私口調で二人に俺はそう告げた。何だったら今殺されても構わないくらいの覚悟もある。こんなの二人には可哀想な話なのは変わらない。


「信じられないよね、やっぱり」


「……信じたくない話だけど、声はユウだし口調も直せばなにも変わらないけど、それでも私は受け入れられないよ……」


「そう言うと思ったから、今この場で殺してくれても構わないよ」


「そんな馬鹿なこと言わないで! 殺すなんてそんなことできるわけないでしょ」


「ならどうするの」


「私の妹としてちゃんと生きててくれるならそれで構わない。さっき投げ飛ばしちゃったことも謝る」


 俺の喋る間も無くティナは言葉を続ける。


「その代わりにさっき言っていたその能力とか言うやつで、私を……ううん、私達を助けて」


 なんの意図を持ってティナはそう言ったのかは分からない。だけど彼女の助けてという言葉には、俺も深い悲しみを感じた。


 そう、あの頃の俺と全く同じように。とても深い深い悲しみを。


「私からもお願いします。その、転生者さん。もし本当に救う力があるなら、どうか助けてください。天使の私からもお願いします」


 そしてそれはリルからも同じものを感じた。さっきとはまるで違う悲しみを。


 この二人から、いや、この世界からとてつもない悲しみを感じた。

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