第27話 彼女の苦しみと原因
「あ」
目が覚めた。まだ頭がスキズキと痛む。恐らくラーヤに殴られた痛みだろう。
「ユウ!」
目が覚めてしばらくして寝かされている部屋に入ってきたのはラーヤだった。彼女は目に涙を浮かべている。
「よかった……。本当によかった……」
「ラーヤ……」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
俺に抱きつくなりひたすら謝り続けるラーヤ。でも謝るべき人は俺だけじゃない。
「私より先に……謝らなきゃいけない人がいるんじゃないの?」
「サシャルの……事?」
「このままラーヤは謝らないつもり?」
「だって……私は何も変わってないから」
「変わってない?」
「私は別に諦めたつもりじゃない。ただユウにだけは謝りたかったから」
心が動いたからここに来たのだと思っていた。この涙もその証だって。
『生半可な覚悟じゃこの世界は救えない』
ユウニの言葉を思い出す。その言葉がほんの少しではあるけど、理解できた気がする。このくらいで彼女の気持ちが揺らぐわけがなかったのだ。
「駄目だよラーヤ、それじゃあ」
「駄目も何もそれが私なの、あなたには関係ない」
「それサシャルにも同じ事を言ったよね?」
「それは……」
「それにラーヤはいつしか私に助けを求めた。それなのに関係がないって言えるの?」
「私は言ったけど、ユウに伝えたかったのは……」
「もうやめて、ラーヤ」
そこで突然サシャルが会話に乱入してくる。その登場に一番驚いたのはラーヤだった。
「やめよう、ラーヤ」
「やめるって何を? 私は復讐をやめないといけないの? サシャルが知らないところで沢山傷ついてきたのに、それなのに復讐を忘れるだなんて……できない!」
だがラーヤは驚きはしたものの、サシャルを押しのけ部屋を出て行ってしまった。
「やっぱり私じゃ駄目なの?」
また止めることができなかった事を悔しがるサシャル。俺はそんな彼女に、自分なりに考えて言葉をかけた。
「違うよ。サシャルじゃないとできないよ」
「……え?」
「だって今一番ラーヤの事を理解できるのはサシャルなんでしょ? だったらサシャルが助けてあげないと。私はそのサポートをする」
「ユウ……」
サシャルは無言で俺に抱きつく。小さい体で何とか受け止めながらも、俺はサシャルの言葉を黙って聞いた。
「私……ラーヤとは昔から一緒だから、何でも分かると思っていたの。この国の王女になってからも一緒だった。でも、それは言葉だけに過ぎなかった」
「そんな事ないよ」
「ううん、そんな事あるよ。だから何もできない。なんて言葉をかければいいか分からない」
「それは……今から考えればいいよ。私も……助けるから」
「……ありがとう、ユウ」
■□■□■□
サシャルが昨日俺に語ってくれたのは二人がまだ出会った頃からの話だった。
「ラーヤは兎族っていう獣人族の中でも珍しいから、周りからは奇異な目で見られる事が多かった。私も実際関わるなとか言われていた。ラーヤもその範囲のことなら耐えていたし、私もラーヤとは積極的に関わっていた」
サシャルは苦しい顔で語った。多分それは俺が思っている以上に苦しい事だったのだと思う。第三者でこれなのだから、当の本人はもっと……。
「ラーヤはずっと我慢していたんだと思う。ずっとずっと。だけど彼女を動かした原因は家族を失った事、そしてもう一人の親友の事だと思う」
「もう一人の……親友?」
「ユウの事だよ」
「……え?」
それは予想外だった。彼女の苦しみの中に自分も一人の人間としていたのだなんて、考えてもいなかった。
「これは……ユウの中の人に話した方がいい内容かな。あのね、ラーヤはユウがこうして私たちの前に現れた事はすごく嬉しかったんだよ。だってラーヤにとっては親友が生き返った奇跡が起きたんだから」
「奇跡……」
「でもその奇跡という夢はあなた自身が壊してしまったの。あなたが転生したなんて言わなかったら」
「つまりそれは」
ラーヤを余計に苦しませた原因は俺なのか? 俺が……彼女の奇跡を壊したのか?
「ごめん」
「謝らなくていいよ。中身は違くても、ユウはユウだから」
「そんな、私は」
俺は。
「それ以上は言わないで。……私も苦しいから」
「……」
ユウではない。彼女の記憶も言葉も口調も、何も分かっていない。ただ、世界を救いたくて、沢山の本を読みたくて、それで……。
「もしこの事を贖罪と思うなら、それだけはやめてほしい。この話をしても、嫌なことだけを思い出すだけだから、あなたにはユウとして、この世界の人間としてちゃんと世界を救ってほしい」
「サシャル……」
「それにあなた自身にもまだ……」
「え?」
「何でもない」
サシャルは最後に意味深な事を言って、その話は終わりとなった。
もしこの時俺は彼女から何も聞いていなければどうなっていたか。
ラーヤを救えたのだろうか。
サシャルをサポートできたのだろうか。
それは今この瞬間でも分からない。サシャルをサポートするとは言ったけど、力になるかは分からない。
俺にあるのは本を解読する力。
それ以上でもそれ以下でもない。
俺にはそれ以上の力はない。




