第19話 世界へ踏み出す日 前編
ユウとの一件から丸三日が経ち、俺もこの世界に来て十日が過ぎた。
「ねえユウ、一つ相談があるんだけど」
そんな昼下がり、ラーヤが相談があると俺の元へやって来た。彼女が相談なんて珍しいなと思って、彼女の話を聞くと用件はこんな感じだった。
「つまり一度故郷に戻りたいから、一緒に付いてきてほしいって事?」
「うん。そろそろユウも王都の外を見たいでしょ?」
「それは……確かに気になるけど」
そういえばこの十日間で一度も王都から外に出たことがなかった。ティナの一件や預言書の調査など色々あって、籠りっぱなし生活が多かったからこれは丁度いい機会になるかもしれない。
「故郷へ帰る気なの? ラーヤ」
どこからか聞いていたのかサシャルが会話に入ってくる。彼女とラーヤは同じ獣人族なので故郷は一緒だから彼女も里帰りを一度するのはいい機会だと思うが、本人はどう感じているのだろうか。
「そろそろ一度帰らないと駄目かなって。サシャルはどうなのよ」
「私は……あまり気が乗らないかな」
「どうして?」
「それは、ちょっと帰りづらいからかな」
伏し目がちにサシャルは言う。声のトーンからして、本気でそう思っているらしい。なら彼女を連れて行く理由はないが、ここで俺は二人に一つ提案する。
「ねえ二人とも、今度は私から相談なんだけど」
俺は今しがた思いついた計画を話す。
「世界を回る旅?」
それは王都を出たらしばらくはここに戻らず、世界を歩き回ること。
預言書がこの場所で見つかった以上、いつまでも王立図書館に居続ける理由もない。だからラーヤの里帰りをキッカケに世界を旅するという計画だった。
(いつかは始めなきゃいけないことだったし、いいキッカケになると思うけど)
二人はそれを受け入れてくれるだろうか?
「うん。私この世界に来たからにはいろいろな世界の事情を知りたいし、他の預言書も探してみたいの」
「どうして急にそんな事を」
「この前も言ったけど、私はこの世界を救うために転生してきた。だからその役目を果たしたい」
「世界を救う……それは本気で言っているの?」
「私はいつだって本気だよ」
「ならやめた方がいい」
「どうして?」
「ここはまだ平和だけど、外を出るともっと危険な場所だから」
「それは元から知っているよ。だから私は」
「それが使命だっていうなら、もう少し時間を空けて準備して。そしたら私も……行くから」
サシャルがいつになく真剣にそう言った。ラーヤはそれを黙って聞いているし、どんな言葉をかければいいか分からなかった。とにかく付いてきてくれるのは確定らしいが、問題はその準備についてだ。
「準備って何をすればいいの?」
次に口を開いたのはラーヤだった。どこか納得していない顔をしているあたり、彼女は俺と同じようなことを考えていたらしい。
「まずは自分の身を守る術を見つけること。それからこの世界の地形とかを正確に把握する事。その辺りは本を読めば把握できるから。あとは……」
「ちょ、ちょっと待ちなさいサシャル。どうしてそこまで」
「ラーヤは繰り返す気なの?」
「そ、それは……」
「私は同じことは繰り返さない。だからその為にちゃんと準備しよう?」
「う、うん」
ラーヤはそこで黙ってしまう。
(繰り返すってどういう事なんだ?)
過去に二人は同じ失敗をしたと言うのだろうか。
「え、えっとサシャル。本当に準備した方がいいの?」
「うん。ユウはまだ知らない事が多すぎるから、まずはそれを知ることから始めて、ちゃんと知識を得てから旅に出よう」
「そこまで言うなら……分かったよ」
ラーヤを黙らせたくらいの気迫はなかったが、サシャルの言葉は本気だった。俺はというと王立図書館である程度の知識は得られたので、問題はないと思っていたがこのサシャルの言葉を痛いほど痛感させらることになったのが一ヶ月後、この王都を出てからの事だった。
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それから俺はこの王都から出るためにアーニスやサシャルから色々な知識を得ながら、今自分に必要なことを勉強した。その最中で、もう一人のユウの事をユウニと呼ぶことが決まったり、いろいろなことがあったがタメになる時間だけが過ぎて行った。
「もうすぐ一ヶ月。ユウも色々覚えたね」
「うん。でもこれらの知識って本当に役に立つのかな」
「役に立つのは私が保証する。ラーヤだって必要だって分かっているから協力してくれた」
「確かに」
でもその一ヶ月前に言っていた繰り返すという言葉の意味が分からなかった。単純に考えれば、以前にも一度同じことがあったという事になるが、それよりも深い何かを感じていた。
それに気のせいなのかもしれないが、その言葉に何故か俺が含まれたような気もいたが、流石に気のせいだよな?
「そういえばアーニスさんは来ないんだっけ」
「王女を連れて行くわけにはいかないでしょ。でもこの事話したらいつかは合流するって言っていたけど」
「それは責任重大」
「ちょっと危ない旅になりそうだね」
そして一ヶ月が経ち……。
俺が転生して早くも一ヶ月半近くが経った今日、ようやく大きな一歩を踏み出すことになる。
だがそこにはいてほしい人が二人いない。俺はその寂しさを隠しながら、旅立ちの日を迎えた。




