危機一髪!!
『なぜこうなったのかしら?』
私は今なぜか両手足をベッドにつながれ、口には猿轡といった状態でベッドに転がっている
それから今日一日を振り返る
『私は拓海君が好きだから煉君とはなんでもない・・・あれは事故あれは事故』
心の中でブツブツとそう唱えて私は一日を過ごした
そうでもしないと昨日の出来事が頭の中でリピート再生してしまうから
その度に必死に映像をかき消す
そうやっている内に下校の時刻になり、私は荷物を持って家路を歩いていた
すると、突然目の前に車が停まり、中から出てきた4、5人の男達が私を取り囲んだ
それから私は流れるように車内に連れ込まれ、鼻をつままれながら何かを口に流し込まれた
すぐに、私は段々と眠気が襲ってくるのを感じた
それに抵抗することもできず、私は意識を手放した
目を覚ますとどこかの部屋に縛られた状態で監禁されていた
そして今に至ると、理解する
攫われた原因は不明だが今すぐここから脱出しなければならない
そんな風に考えていると誰かが部屋に入って来た
その人物を見ると昨日私達、正確には煉君にいちゃもんをつけてきた男だった
なぜか彼はあちこちに怪我を負っていたがとても痛そうだった
彼は私の姿を見てニヤリと寒気のする笑顔を浮かべた
「昨日、あんたの彼氏にこれやられたんだよな。だから彼女のあんたが代わりに慰めてくんない?」
「――っ!!」
何となく話の内容は理解できたが最後の言葉は私に危機をもたらすものだということは理解したくなかった
すぐに彼は私の上に馬乗りになり、制服の襟に手をかけた
「んんっ――!!」
「は?なに聞こえなーい」
男がふざけたことを言いながら私はあっという間に肌蹴させられ、上だけ下着一枚の姿にされた
絶対絶命のピンチだった
『誰か助けて!!!』
私は涙を流しながら必死に心の中で助けを求めた
その時、その叫びが届いたかのように部屋の扉が凄い勢いで開いた
私は驚いて泣くことも忘れて音の方に顔を向けようとしたが男のせいできなかった
それと同時に上に乗っていた男が突然いなくなり、その直後誰かのうめき声が聞こえた
それから私の視界に移ったのは煉君だった
彼は無言で私の手足の縛りと猿轡を外し、体を起こしてくれた
ホッとしたためか私は一度ひっこめた涙をまた流した
すると彼は私を抱きしめた
しばらくの間私が少し落ち着くまで彼は黙って優しく抱きしめてくれた
「ごめん、また俺のせいで・・・」
その後、ポツリと彼は謝罪をした
私は涙を流したまま黙って彼の言葉を聞いた
「やっぱ桜に嫌われようとしたのは間違えか・・・」
その言葉に私はハッとして彼を見上げようとしたが私の意図に気づき、彼の腕に力が入ったため彼が今どんな表情をしているのか確認できなかった
そして、そのまま彼は続けた
「こんなことになるなら手放さずにずっと・・・」
「え?」
鼻声の私は彼が何を言っているのか意味が分からず、つい疑問の声を発してしまった
それを聞いて彼は私を離し、体ごと横を向いた
そして彼は一度目を閉じて大きくて重いため息を吐きながらまた目を開けた
その目はまるで何か大きな決断をしたように澄みきった真っ直ぐで強い色を宿していた
「俺は桜が好きだ・・・多分男として」
「っ―――!?」
突然の告白に私は一瞬言葉に詰まったが何とか答えをしぼり出した
「・・・でも私は―――」
「分かってる!お前が篠原を好きだってことは・・・」
私の答えにかぶせるように彼はすぐに私が言おうとした先の台詞を封じた
「じゃあ――」
「でも!今日こんなことになった。だから、離れても近付いても同じなら俺は近付く方を選ぶ・・・そして俺は必ずお前を振り向かせる」
今度の妨害は私の心を封じた
「・・・え?」
『私は拓海君が好き、だから煉君の言葉に返事はできない・・・できないはず』
そうやって心に暗示をかけるようにしている私はその行動の本当の意味には気づかずに言い聞かせた
でも、目は自然と煉君に向く
すると、丁度こちらを見た彼と目があったが突然相手が何かに気づいたかのようにあわあわとし出し、顔を赤らめながら自分の制服の上着を手渡してきた
「こっこれ、早く着ろ!」
「え?」
そう言って自分の今の姿を見下ろしてすぐに状況を把握した
段々と自分の顔が耳まで赤くなるのを感じた
すぐにそれを手にとって自分の姿を隠した
「・・・見たよね」
「・・・わりぃ」
沈黙が怖くて思わずそんなことを確認してしまった
「今すぐ記憶から抹消して!!」
「無理!」
「なんで即答なのよ!!」
「・・・男の性だ」
「なにそれ!」
そんなやりとりをしていると自然と空気が和らいだ
そして最後には2人同時に吹き出した
その後煉君が私を家まで送ってくれた
ただ、監禁場所から出る時に人の体がいっぱい転がっていたが・・・
「今日はありがとう・・・」
「いや、こっちこそ俺のせいで・・・」
家の前で私は彼の上着を返しながら感謝の意を伝えた
彼はそれを受け取ろうとして手を伸ばしながら返答をした
だが彼は上着をとると見せかけて私の腕を引っ張り、私を腕に閉じ込めた
「っ!?」
「明日から覚悟しとけよ?」
そう耳元で呟き、私から離れる際彼は私の頬にキスを落とした
それから彼は私の手から上着をとり、挑発的な笑みを残して去った
私はそれを呆然と見送った
胸に手を当てると鼓動がいつもより速くなっていたが、私はそれに気づかないふりをしながら家に入った
しかし、彼女は知らなかった
その一部始終を見ていた者がいたということに―――――――