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一匹オオカミの孤独

「最低!!」


突き飛ばされながらも俺はそれを受け入れた

俺はそう叫ばれて当然のことをした

その言葉は心に突き刺さったが表情には一切出さなかった

でも彼女が俺に背を向けた瞬間それも崩れてしまったが・・・

扉が完全に閉まってから俺はその場から逃げるように走り出した


そして気が付くとさっきの公園に来ていた

それからベンチに座り、項垂れた

するとさっきの彼女の叫びが耳の中で流れる


『最低!!』


「分かってるよそんなこと・・・」


最初はただ気まぐれで彼女を誘ってみただけだった

俺はいつも周りからは腫れものを触るような態度をされる

ある時は恐怖する目である時は人を見下すかのような目で俺を見る

それが段々と俺をイライラさせる


『俺がお前らに何かしたのかよ!?』


だからその鬱憤を晴らすかのようにこの機会を利用した


朝靴箱を開けると手紙があった

中身を読むとそれはラブレターと言うやつだった

しかも他の奴宛てだ

こんな間抜けなことをした奴の顔を拝もうと俺は相手が指定してきた場所に向かった

彼女が俺の姿を見た瞬間、その瞳には恐怖の色が宿った


『こいつも他の奴と一緒か・・・』


そう思い日々のイライラが溜まっていたこともあり、俺はすぐに1つの計画を思いついた


だが、一日過ごしてみてそれは間違いだったと気づいた

はじめはそうでも朝から彼女には驚かされることばかりだった

こんなにも感情を露わにされたことがなかったからだ

いつも避けられただ拒絶されるだけ、なのに誰一人俺のことを何も見ない何も聞こうとしない

まるで透明人間のようだ

だから、それは俺にとって凄く新鮮なものだった

初めての感情、初めての感覚今日一日で色々な初めてを経験した

それだけで十分だった


彼女を悲しませたことは後悔したが、キスをしたことは後悔していない

なぜなら、彼女には嫌われる必要があったからだ

もし、このまま俺が彼女と関わっていれば今日のように厄介なことに巻き込まれるだろう

そしてあの時、思い知らされたのだ

他人と関わってはいけない、その逆もまた・・・・


「これ以上あいつを危険な目には合わせられない」


今日の思い出さえあれば例え明日彼女にどんな態度を取られても耐えられる

そんな風に自身に暗示のように大丈夫だと言い聞かせる

そうやって心を落ちつけて、立ちあがった時目の前に影が差した


「見つけたぜ、相崎煉」

「・・・・・・」

「さっきはよくも舐めたことしてくれたなあ!」

「・・・・・・」

「おい、聞いてんのか!」


リーダー格っぽい奴が1人そう叫んだが俺がずっと黙っているので、痺れを切らして俺の顔を殴りつけた

その瞬間俺は凶器的な笑顔で目の前の奴らを見つめた

男達は一瞬その笑顔に気圧されたが自分達の人数を考えてすぐにこちらの方が優勢であるとふんだ

俺は拳を手に打ち付けながら叫んだ


「お前ら覚悟はいいな?死にてえ奴から来い!!」


数十分後生き残っている者は無い

彼らがケンカを売った相手はここら辺では有名な男だった

その名は”笑顔の死神”と・・・

なぜならその男は戦っている間だけ笑みを浮かべているからだ

そして事を終えた後に彼以外立っている者は無く、地面には死体のように人の体が転がっている

それを見て男の表情は何事も無かったかのように元の無に戻る

それが相崎煉にまつわる噂である


「やっぱ俺にはこれしかねえか・・・」


拳を握りしめ、ポツリとそんなことを呟きながら俺はそそくさと家に帰ろうとした

しかし、その時ポツポツと雨が降り出し、段々と雨脚が強くなった


「やっべ、早く帰らねえと・・・あ」


おもむろにポケットに手を遣るとクシャッとした音がした

それをすぐに濡れないように上着の下に入れて自分の家まで走った

鍵を開けて家に入るとすぐに手にしたものを取り出し、濡れていないか確認し大丈夫なことを確かめるとホッと一息吐いた


「良かった、濡れてない・・・」


最後には桜に返すつもりだったが今更と思い、クシャクシャになった手紙をジッと見つめた


「いいよな、このまま俺が持ってても・・・・・」


そのたった一通の手紙が俺の灰色の人生に射した一筋の光だった

例えそれが自分のために書かれたものではなくても・・・

今日という日が俺に一時でも幸福というものを与えてくれた

幻のような一日、だからこれ以上はもうなにも望まない

俺の周囲が環境が家庭が全てが他人との関わりを俺に拒絶させる


その夜、一匹オオカミの青年は初めて知った幸福を噛みしめながら、1人孤独に耐え涙を流した

いつまでもいつまでも―――――

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