プロローグ きっかけ
ファンタジー小説を読むのが好きだったので、自分でも書いて見ようと思い立ったのです!
読むより書くほうが難しいですね...!
僕はクローバー・カネラ、色素がない白い髪に紫色の瞳、体の中身が透けるんじゃないかって位白い肌の男です。
よく女の子と間違われるのが軽い悩みですが、そんな悩みも今日でおさらばかもしれません。
実は僕、今まさに死にそうなんです。
目の前には熱で嗄らした咆哮を上げながら炎を纏った大きな熊が大腕を振り上げて飛び掛ろうとしています。
三名の仲間達は5メトルほど後方で目を見開いています。
メンバーの中で一番の剣の使い手で僕の師匠であるグリウスさんは既に熊にボロボロにされてて左腕をだらんと落としギリギリ立っていられる状態です。
なぜこんな事になったのかと言うと、30分ほど前なのですが。
場所は、魔族界本土より北西に有る『アルシア島』、島の南部のアルシア大森林地帯。
僕達の住んでいるアルシア自治領には人族界と魔族界を繋ぐ『転移水晶門』と言う物があります。
魔族界で取れた物を人族界で売るのがアルシア自治領での主な収益になります。
しかし、この『転移水晶門』が有ることで人族界からの空気が流入し通常の魔族が生きる事はできません。
魔族界には瘴気と惰気という空気があります、しかしアルシア島では『転移水晶門』を通して人族界の空気が流入してくる為、瘴気と惰気が薄いです。
そこで酸素と瘴気両方が必要な我々の種族『半魔族』の登場です。
人族と魔族の両方の特徴を持つが、濃過ぎる瘴気と惰気には耐えられないので本土に居る純魔族なんかには出来損ないの魔族などと見下される傾向に有る種族です。
とても肩身が狭く、成長して耐性を付けない事には魔族界本土で生活が出来ず、この独自の環境のアルシア島を離れれません。
そんなアルシア自治領の僕の住んでるフィーゼ・ホーム孤児院では一ヶ月に一度薬草採取に出かけます。
「陽が暮れると夜行性の魔物が奥地から出てくるでごわす、そろそろ帰り支度をしたほうがよろしそうでごわすな」
そう言ったのは森の神官のスキルを持つエモート・バルカルさん。
木の根っこから作ったような杖を背中に背負ってる人物だ。
2メトル程の大柄な男性で愛らしい熊のような外見をしていますが、作業着の下から覗く足は猛禽類を思わせる鳥の足です。
庭師として孤児院の植物を管理する傍ら、庭の片隅で畝をつくりで野菜を育てていたりします。
外見に似合わず繊細なことが好きで、綺麗好きでもあり掃除なども彼がしてくれます。
彼は僕達の住んでるフィーゼ・ホーム孤児院の職員です。
「十分に採れたぢゃろ、のぅ『リーダー』?」
ザラザラとした声でリーダーの部分だけを強調する女性はグリウス・カルチ。
僕の剣の師匠です。元冒険者で剣の腕も凄いのですが、盾も使える頼れる前衛です。
服装は修道服を鎧の様に魔改造した長手長スカートで頭には黒色の丸っこい耳付き帽子を被りオレンジ色のボサボサ髪で顔の半分を隠しています。
髪の隙間から覗く目は目蓋がないと思うほどに大きくギョロっとして、口は耳まで裂ける大きさ、薄黄緑の肌色は蛙を思い出します。
その外見から人族界でやって行くのは難しいと判断しアルシアに渡った所を院長に誘われ職員になったのだとか。
武装は腰には剛鉄で出来たブロードソードが付けられ、左手に剛鉄で出来たスモールシールド、スーモルなのに大きく見えるのは彼女が小さいからである。
「そうね、そろそろ帰りましょうか?この時間なら晩御飯に間に合うでしょう」
リーダーと呼ばれたこの赤毛おさげの女性はモネ・カネラ。
孤児院の院長をやってる僕達家族の母親のような存在です。
院長は元行商人で薬師の能力も持っている為、薬草を薬に変えて販売する僕達の稼ぎ頭でもあります。
魅惑的な体系を修道服で隠すようにした背徳感を刺激する妖艶さが漂う人物で、赤銅色の瞳と赤毛、頭には煙突の様な形状をした修道帽を着けている、背中にある薬草がパンパンに詰まったバックパックが一番目を引きます。
「は、早く帰って食べたいです...!」
おどおどしながら答える目鼻立ちが整った少年はエルフのビル・ターリアさん、僕よりも年下に見えるけど既に百歳を超える年長者です。
エルフの郷で培った狩人と野兵のスキルを僕に教えてくれた人で、動きやすさ重視の皮製の装備を着ていて目立つ自分の体長ほども有る大きな弓を背負っています、エルフの郷が人族に荒らされて命からがら孤児院に拾われた経緯があり極度に人族を嫌っています。
ビルの耳の中ほどから先が金属のプレートで覆われています、人族界ではエルフの耳を切り取り奴隷にしたと言う話を聞きます。
エルフの誇りの耳を傷つけるのだからもう郷には帰れないと言う意味合いらしいのですが、ビルさんはリング状のピアスを着けていたりと、もう既に吹っ切れているご様子。
フィーゼ・ホーム孤児院の為に森で食料調達をしてくれる職員です、よく一緒にハントに出かける仲の良いメンバーです。
「バリラさんのご飯おいしいんだよね!早く帰ろ!今日は何かなー!」
ビルさんの横で同じように声を上げたのが僕、クローバー・カネラです。
孤児院の職員で料理人をやっているバリラさんの料理を楽しみにしています。
服装は作業着にビルさんと同じく革のベルトなどにポーチを着け、短刀を納める程度の軽装です。
剣の腕はまぁまぁですが、ビルさんとのハントで培った技術で隠密には自信があります。
「じゃ決まりね、帰るわよ!」
院長の掛け声と共に薄暗い森を下り丘へ抜けようとしている時でした。
「あの...!何か...聞こえないですか...?ほら、後ろの方から」
ビルさんが少しおどおどしながら聞いてきたので神経を集中して音に集中してみると、確かに何か音がする、木の枝同士がぶつかる音のようにも思えるが、ハッキリとはわからない。
「いんや、ウチらには聞こえん様子じゃが・・・念の為警戒して置こう」
グリウスさんがメンバーの面々の顔を見て代表して答える。だけど野兵のスキルを持っているビルさんの索敵能力は高いので念の為グリウスさんが最後尾という形で早足で森を抜ける事になった。
そのまま森を抜けれればあんな事にはならなかったのだけど...
誰もが聞こえるほどに木々が揺れた。
かなり遠いが斜めに迂回するように木々が連なるように音をかき鳴らす。
「き、聞こえました...?まだ遠いみたいだけど...油断は禁物!広い丘まで走って離れましょう!森の魔物でなら丘まで逃げ切れば、そうそう外には出てきません!」
ビルの提案に全員がうなずき走り始める、薬草の詰まったバックパックを背負っているモネを守る形で歩調を合わせる。
木の根に引っかからないよう注意を払いつつも中々のスピードだった。
元冒険者に森を庭にしている三名に元行商人である、走って森を抜ける位は容易な事であった。
しかし、背後から迫りくる気配は着々と距離を縮めていた。
「ん?なんでごわしょう?今までと違って一直線にこっちに向かってきてますな?」
大きな体を揺らしながらバルカルさんが皆に問いかける。
「確証はありませんが...残り香を追ってきてるかもしれません...!なんたってこっちには青々しい匂いの発生源がありますからね...」
苦笑いを浮かべながら薬草の詰まったバックを指差すビル
「このバックを捨てろって言うの?せっかく時間かけて集めたのに?」
「いやそうは言ってないでごわすよ!そのバックの中身を守るためにおいどん達が居るのでごわすからな、安心してください!」
「時間は稼いぢゃるからちゃんと逃げよ?リーダー?ケヘヘ」
「もぅ!皆で逃げるのよ!」
モネの困惑する声にカルバルとグリウスが茶化しながら答える。
この時誰一人として後ろから迫る魔物がアルシア島で確認されている最高危険度よりも危険だなんて考えても無かったんだ。
例え追いつかれたとしても元冒険者率いるパーティだし、返り討ちに出来るだけの実力があると過信していたんだ。
実際に何度もこのパーティで薬草採取に出かけ危険度の高い魔物も倒しているからね、増長しても不思議ではなかったんだよ。
「蛇行する様に迫っている気配が直線的になった、迷わず丘を目指すつもりだ!このままでは追いつかれるかもしれない!」
背後から迫る気配に徐々に緊迫感が増してゆく、木々を揺らしながら迫ってくるだけでなく、木々にぶつかる音。
それでも歩みを止めない巨大な魔物の足音がするのである。徐々に言葉数は少なくなり緊張の色が伺えるようになる。
先頭を走ってる院長が苦しそうだ。
そのバックパックを肩代わりした方がいいのかも知れないけど、あの量の荷物を持って走れるのは院長だけなんだ...
モネはバックパッカーという行商人の常時発動能力で荷物持ちの重量制限増加&重量ペナルティの低下と言う便利系スキルを所持している。
その為自ら進んで荷物持ちをしていたのだが、それが裏目に出た。
普段訓練などしない為容赦なくモネのスタミナを奪って行く。
行商人経験が有るとは言え過去の事である、スタミナの持続力は減っていた。
絶え絶えの息のまま走り続ける事―数分、森の木々が少しずつまばらになって行く、森の出口が近いのだ。
「っ――はぁ!もうすぐっ―森をっ―はぁ―抜けます!」
モネの搾り出す声
「そのまま走れ!丘に出ても止まらず走るんぢゃ!」
グリウスの悲鳴にも近い声が飛ぶ。
真後ろから聞こえる巨体が大地を踏みつける音に歩みを止めたら一瞬で背中から襲われそうな恐怖感がある、グリウスは最後尾を担当している為一番に狙われるリスクが有る、悲痛な叫びだった。
冷や汗が止まらない、背後を振り向けば自分はどうなってしまうのか。
確実に背後に『何かが居る』という恐怖と木の根に足を取られればそこで終わってしまうと言う恐怖、しかし体を強張らせてはいけない。
木々の葉で陽光の通りの悪い薄暗い森走る―喉の水分がなく喉がひつっきそうになる、それでもひたすら走る、足を止めるわけには行かない―薄暗い風景が目の前で失われ、なだらかな丘に出る。
陽は傾いているがまだ明るい午後である、駆け抜ける風が丘の草を揺らす、ゴツゴツした岩場や砂利などがあるなだらかな丘であるが、ここを下れば街に着く。
丘までたどり着けば森の魔物は出てこない、木々の隙間を縫うように獲物を仕留める事も木々を使って逃げる事も出来ないからである。しかし歩みは止めれない、グリウスの叫びが足を突き動かす。
ミシッ―っと言う音とともに何かがはじける様な音が響いた、音の方向を確認する。
後方よりわずかに左10メトル程離れた地点の木々が宙を舞っている。
投げ出された木片と共に白い小さな獣が宙を舞っている。
なんだ!?あの白いのは――
投げ出された白い小さな獣に強烈に惹きつけられ、クローバーは踵を返し森の方向へと進んでいた。
「おぃ!――」
急に進路を変えたクローバーを見て後方のグリウスが静止の声を上げるが、歩みは止まらない。
クローバーは足の筋力を一時的に増加させるスキル『疾走』を使い一気に距離を詰める。その勢いのまま宙を舞う白い獣を受け止める、腕の中にいるのは小さな白い狐だった、腹から右肩に掛けてぱっくりと裂けており脂肪の膜や肋骨が見えている、出血量もかなりの物だが、致命傷はギリギリ避けているようだ。
「ヴォォオ――!!!」
駆け抜ける風とともに咆哮が上がった。
突然の声に当然そちらを向く――驚くほど大きな熊がそこに居た。
木々が倒された所からの王者の風格を思わせる悠然とした態度で歩む巨体。
白い獣を追いかけ仕留めたと思えば別の生物に出会ったのだ威嚇の咆哮を上げている。
とっさの判断で逃げる事を思い出す、隠密系上位スキル『影纏』一時的に存在感を消し獲物に忍び寄るスキルを逃げる為に使う。
「こっちぢゃ!注意はウチが引く!」
グリウスが前に出て盾を剣で叩いた。
クローバーの突然の行動にメンバーが足を止めていた。
『疾走』を使いメンバーの下まで駆け寄ろうとした瞬間、影が覆う。
クローバーの頭上に巨大な壁――全長4メトルはあろうかと言う巨大な熊が飛び掛っていた。
大きい...嘘だろ!?まずい!
巨大熊は存在の薄くなったクローバーを見つけ飛びかかった、熊からの距離が一番近かった為、既に攻撃態勢に入っていたのだ。
「『根手』!」
突如として木の根がロープの様に絡みつき巨大熊の足を掴み勢いを止める。バルカルのスキルである、空中で勢いを止められた熊はそのまま地面に落下する。
間一髪の所をクローバーが潜り抜け走る。
「『根縛』!」熊が落下した所へ拘束の根を複数張り巡らせるバルカル。
影纏を解除してメンバーのに駆け寄った。
「助かりましたよバルカルさん、院長この子死にかけてるのでお願いします」
「えっ、え!?この子を助けに行ってたの!?」
「おぃ!どう言う事ぢゃ!」
グリウスが振り返りもせず声だけを荒げる。モネに狐を渡すクローバー
「気がついたら足が勝手に動いてました、すみません!」
「今は逃げる事を考えのるでごわす!抑えきれないでごわすよ!」
バルカルの声に皆が後退する。
ひぃぃぃー危なかった!バルカルさんのフォローが無かったら今頃・・・うぅ考えたくも無い!うわ、血がべっとり!くぅー帰ったら捨てるかぁ。
でもなんたってあの熊は狐を追ってるんだ?狐も丘に逃げ切るつもりだった・・・?狐を放置して逃げてれば熊はこちらに気づかなかったかも知れないけど、自然と体が動いてしまったので仕方ない・・・。
ギチギチを根が切られて行く音がする、拘束から逃れようとする巨大熊、長くは持たないだろう。
「えっと...あの熊は恐らくブラックベアーだと思います...」
「そうでごわすな、しかし通常の二倍は大きいでごわす、親玉って所でごわすかね」
ビルとバルカルがアルシア大森林に生息する危険度20レベルの熊の名称を上げる。
危険度20レベル程度であればモネ以外は一人でも狩れるほどの実力は有る、しかし今回現れたのは通常の倍はあろうかと言う熊である。
無傷で済むとは思えないのだ。
ならば選択肢は一つ、諦めるまで逃げるのみ!
「ブゴォォォ――!!!」
熊がその巨体を持ち上げ咆哮を上げる、拘束から逃れたその目には怒りの色が見て取れる。
距離にして40メトル以上の距離が開いている――が、その後ろ足に力を込め『疾走』。
―魔物ですら使える基本的な強化スキルである―その巨体からは想像を絶する速度がでる。
うわっ!なんたってこんなに速いんだ!
追いつかれる、そう確信し逃げる事を諦める面々、その中でただ一人が行動する。
「『鉄壁』」防御盾スキルの『防壁』の一段階上のスキルを発動させるグリウス。
踵を返し、地面を踏み込む。
速度の乗った熊の突進がグリウスと衝突する。
グググッ―と音共に突進が止まる、グリウスは圧倒的な体格差を前にしても、たった数歩分押し込まれるだけで耐えて見せた。
「どうぢゃ!悔しいか!おっ!?」
「師匠!さすがっ!」
熊を挑発しているようだが、その表情からは押し込まれるギリギリの力加減だった事が見て取れる。
「『根縛』!」
すかさず入る拘束を後方に飛ぶ事で回避する熊、待ってましたとばかりに距離を離した熊に矢を放つビル。
矢は命中するが硬い獣毛に阻まれ掠り傷程度になっているようだ。
熊が距離をとり様子を窺っている、突進を止められた事で警戒しているようだ。
束の間の時間、逃げる事は出来ないと判断し次の行動を組み立てる。
「ぐぬぅ、どうやら二度も捕まえさせてくれんでごわすな」
「うぅ...矢も効果は薄いみたいだ...急所を狙って見るよ!」
「なぁモネ、リーダーなら分かるぢゃろ、こうなってしまった以上おまんが居る意味はない、街まで戻れ」
吐き捨てるような言い方だった。
「ちょっとまって、皆を置いて行くなんてできない!」
「院長!僕からもお願いだ、その子を連れ帰って手当てして欲しい」
熊と対峙しながらもモネだけでも逃がそうと皆が熊の目線から庇う様に隊列を組む。
「っ...判ったわ!街に着いたらすぐに救援を呼んでくるから!諦めないで!絶対に助けるから!」
モネはそういい残しながら、ヘトヘトになった体に鞭を打ち走り出した。
モネの足音が遠ざかるのを振り返らずに確認した。
「ごめんみんな、僕が勝手な行動をとって巻き込んでしまって・・・」
「どの道あのスピードぢゃ追いつかれちょったろ」
「そんな事より早く帰って晩御飯にしたいでごわすな、熊鍋なんてどうでごわすか?」
「そ、それは...フラグってヤツでは...?」
「なんぢゃ!おまんら冗談言う元気があるなら前に立つか?」
「い、いえ、いいです!」
「遠慮するでごわす!」
バルカルとビルが緊張感を取り戻したが、依然として熊は一定距離を保ち窺うように動いている。
さっきとは違って熊の様子から守りに入っているのだとすれば逃げ切れるかも...?
手強い相手だと警戒してるなら逃げ切れるチャンスがあるかもしれない、無駄に戦うよりもチャンスは有る。
「コレじゃー埒が明かないですよ、少しずつ後退してみますか?」
「それがええぢゃろ」
クローバーの提案に息を合わせ徐々に後退していく、熊も徐々に近づいてくるという着かず離れずの状態になった。
しかし均衡は崩れた。
熊が一番近いグリウス目掛け飛び掛る、たった一歩で詰め寄られる。
グリウスが前に出て速度が乗る前に止める、見計らって矢が飛ぶが効果は無かった。
「ダメじゃ、逃がす気は無いようぢゃ!」
「な...なら!倒しましょう!救援を待っている間グリウスさん一人に負担を掛け続ける分けには行きません...!」
「だね、師匠ばっかりに良い格好とられてちゃ格好つかないからね!」
「その通りでごわす『根縛』!」
木の根が熊を捕らえに地面から出るがひらりと避けられる、それどころか避けた勢いを利用してビルに向かって飛び掛る。
この熊フェイントを使ったのか!?考えてたのはこっちだけじゃないって事か!
正面からの攻撃であればグリウスが受けるが、グリウスの側面を通り熊がビルを狙う不意打ちだった。
近距離においてビルのスキルは意味を成さない、先に倒しやすそうな子供から狩るのは自然界において常識である。
「あぶない!」
とっさにビルの腕を掴み引き倒すように跳ぶクローバー。
巨椀がビルの居た場所を薙ぐ、倒れ込む様に回避に成功する。が、二度目はない。
クローバーとビルは眼前にいる獰猛な肉食獣を前に抵抗する事の出来ない体制になっている。
追撃の一手が容赦なく下される。
ガシッ――
「ナイスフォローぢゃ、クローバー!やるようになったのぅ!」
グリウスが壁となる事で追撃を防ぐ、一瞬の隙に立て直したのだ
「グゥゥ――」
低いうなり声を上げて盾を振り回そうとする熊、しかしびくともしない。
「さぁ!二人とも立つのでごわす」
バルカルに支えられすぐさま起こされる。
「反撃と行こうぢゃないか!」
グリウスの掛け声とともに陣形を立て直し反撃にでる、ビルは弓を引き距離を取りながら放つ。
足の関節を狙う攻撃だが今ひとつ効果を上げれていない様だ。
クローバーは影纏を使い離れる。
「『根手』!」
グリウスの盾にしがみつく熊の両腕にロープ状の根が絡みつき両腕を封じる。
その隙にグリウスが距離をとる、動きを封じられた熊が根を噛み千切ろうとしている隙に、ビルとクローバーは動く。
「当たれ...!」
「気が散ってる今がチャンスだ!動け無くしてやる!」
ビルの研ぎ澄まされた一撃が放たれる―目標は熊の顔面だ、クローバーは接近し後ろ足の腱に向かい短刀を振るう。
悲鳴にも似た咆哮が上がる、右目を失い左足が使えなくなった熊がそこに居た。
クローバーはすぐさま影纏を使い距離をとった。
痛みに絶叫を上げた熊は力任せに根を引きちぎった、どうやら戦意が薄れる所か増したようだ。
狙うは一番近くにいるグリウス、熊は力任せに巨椀を振り上げる!
「それを狙っていたんぢゃ!コレで終いぢゃ!『鉄壁』『疾走』」
グリウスは遭えて踏み込む、速度を上げ強化したシールドを力の乗り切っていない巨椀に叩き付ける。
『シールドバッシュ』
突風が吹き荒れ、力の乗り切っていない巨椀を弾く。
熊が大きくよろめいた、その隙にシールドバッシュ成功時にのみ発動できるカウンター技を発動させる。
「『龍牙夢想』」
熊の首筋目掛け放たれた一撃は、その硬い獣毛を諸共せず、皮を裂き―肉を裂き―骨―まで行かなかった。
分厚い筋肉で止められてしまった、横薙ぎに切り裂こうとしたが、身長差の為肩のあたりに入ってしまったのが原因のようだ。
「ちぃ―」
グリウスは己の身長を恨んだ。
「危ない!」
ビルの叫びが上がる、とっさに盾を構えるグリウスを衝撃が襲う。
「『根縛』!」
熊の横薙ぎの巨椀が振るわれていた、速度の乗ったその一撃は易々とグリウスのシールドを砕き、骨までも砕いた。
グリウスはとっさの判断で力を逃がすために自ら跳んだのにも関わらず大きく弾き飛ばされながら熊の桁違いの攻撃力に苦笑する。
「うぐっ」
吹き飛ばされたグリウスを影纏のまま受け止めるクローバー。
根に拘束される熊は拘束を解こうと暴れている。
「師匠、小さいのに意外と重いんですね」
「馬鹿が、鎧のせいぢゃ。デリカシーは無いのか」
そんな冗談を言っているが状況は一気に不利に傾いた。
バルカルの元までたどり着き、グリウスを卸すがかなりのダメージを受けているようだ。
立つのがやっとみたいだ、これ以上無理させるわけには・・・師匠がいなければ一人一人潰されて全滅だ、この拘束されているタイミングで殺るしかない!
「ケフ、とんでもない馬鹿力ぢゃち、一撃貰っただけでこの様ぢゃ...ぢゃがもう一発は耐えてみせる!」
フラフラの足で尚も一歩前に出ようとするグリウスをバルカルが背中で押しとどめる。
「ビルさん!考えがあります、今すぐ火矢を準備してください!バルカルさんは拘束を優先でお願いします!」
「了解でごわす!」
「うん!」
クローバーは熊に向かって歩き出す。
「さぁ!僕を見ろ!しっかりと見るんだ!これからお前を殺す者の姿だしっかりと目に焼き付けておけ!」
クローバーはわざと存在が移りこむように優雅に歩く。
熊の方が小さく見える錯覚を覚える。
「師匠の借りを返すぞ」
拘束を解こうとする熊の気が散るようにゆっくりと自分の存在を見せ付けるように歩みを進める。
「くそ、結構良い値段したんだぞこれ」
そしてクローバーはポーチの中に入っている商人から買ったライター用のオイル缶を取り出す。
ビルとおそろいの物だ。
「『根縛』!」
迫り来るクローバーに気を取られながらも拘束をはずした瞬間熊がさらに拘束される。
「グゥゥゥゥ!」
「どうせなら、その口も動かないようにしてもらえば良かったな」
即座には拘束を解けないと判断した熊が唸り声を上げて威嚇するが――オイル缶を熊目掛けて投げ放ち短刀で両断する。
宙を舞ったオイルが熊に降り注いだのと同時に――火矢が突き刺さる。
突如として業火に包まれる熊は火事場の馬鹿力とでも言うのか、拘束を一気に引きちぎり視界に写るクローバー目掛けて飛び掛った。
そして冒頭に戻る、というわけだ。
どうやら今、走馬灯を見ているらしい。
どうしたらいいか、脳が高速回転して周りがスローに見えている。
一秒をさらに刻んだような感覚。
しかし着実に時間は経過している、熊がゆっくりと飛び掛っている。
今なら簡単に避けれそう―
足に力を入れ後方に飛ぼうとする。
熊の首元で止まっている剛鉄の剣に目が留まる。
―アレは師匠の剣か――よし
跳びながら回避すると同時に剣の柄を蹴り上げる。
宙を舞った剣目掛け熊の頭を踏み台にして飛び上がる。
短刀を捨て剛鉄の剣の持ち手を握り締める。
渾身の一撃を叩きいれてやる!
浮遊状態から引力によって落下へと変わる、眼下の燃え盛る熊を見据え―
「叩き潰す!!!!!」
初歩的な剣技である、潰すように切る剣を振るうだけの純粋な技ソードスマッシュ。しかし落下ダメージを加算させ一点に集中したその一撃は巨大熊の頭蓋骨を砕くには十分だった。
ビクビク動く熊はまだ息が有る様だったが抜かりなく追撃を行う――砕いた頭に剣を着き入れ捻る様に掻き混ぜる事で絶命したようだ。
その後院長の救援要請で駆けつけた冒険者と自警団の人達に状況を説明し熊を引き取ってもらい、冒険者に護衛してもらいながら帰る事となった。
グリウスさんは全治二ヶ月の骨折だったけど、僕は軽い火傷程度で済んだ。
帰ったら院長に恐ろしく臭いポーションを飲まされて気絶したグリウスさんを皆して寝室まで運ぶ事になった。
グリウスさん一番がんばってくれたのに一番ひどい仕打ちを受けている気がする、明日会ったら御礼を言わなくては...可哀想に...
あ、そういえば白い狐さんが包帯巻かれて寝ていました、無事でよかった。