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クリスマス

作者: 貴幸

今日は私の大好きな漫画、「I will be back」新巻の発売日。

とても人気でどこも売り切れ。

いろんな本屋を駆け巡り、私はようやく本を見つけた。


うきうきしながら外に出るともう外は暗く、イルミネーションが夜空の星を隠すように綺麗に輝いている。

周りは手をつなぐ男女で溢れており、私は場違いな気持ちになった。


「そっか、今日クリスマス…だっけ。」


クリスマスにも関わらず本を探していた私はなんて惨めだろう。

…しょうがないじゃないか、好きな人に一緒に過ごしませんかなんて言う勇気がないのだから。

きっとユウトは今頃カナと二人で楽しく過ごしているんだ。

そして夜にはそ、その…夜の営みを…


「あれ?ユウカちゃん?」


「え?」






少しくらい気持ちになっていたところ、声をかけられ振り返ると、そこにいるのはユウト。

いつも着てるウィンドブレーカーとは違う、コート姿に私の胸はドキドキと音をたてる。


「…ユ、ユウトくん、偶然だね?」


「あぁ、今日発売の本探してたらこんな時間になっててさ。」


今日発売…まさか。


「ユウトくん、もしかして探してるのってコレ…?」


袋から本を取り出し見せるとユウトは目を見開いた。


「そう、コレ!もしかしてユウカちゃんも好きなの!?」


「うん、好き…!」


私が応えるとユウトは嬉しそうな顔をみせた。


「うおお、マジか!面白いよなコレ…!…っと、話すのはまた今度にしようか。」


あぁ、きっとユウトくん誰かと待ち合わせしてるんだろうなぁ。


「ユウカちゃん、これから誰かと遊んだりするんでしょ?」



「私!?私なんかそんな遊ぶ人なんかいないよ!?ユウトくんこそ誰かと待ち合わせしてるんでしょ?時間使わせちゃってごめんね?」


袋に本をしまいたち去ろうとするとユウトに手を掴まれた。


「えっ…、あの、えっと…」


心臓が跳ね上がった。

あれ?ちょっといい雰囲気だったりするの?これ…


「俺誰とも待ち合わせしてない…よ、もし暇ならイルミネーションとかあるし、一緒に歩かないかな?せっかく会えたんだしさ。」


イルミネーション?一緒?歩く??

いろんな単語が混ざさり私の頭の中にデートの文字が浮かぶ。

違う、断じてデートではない、だって私の片思いなんだもん。


「私でいいなら…」


私がこたえるとユウトはホッとしたような顔をして私の手をイルミネーションのある方向へ引っ張っていくのだった。





きっと、何も知らない人から見ると私達はこのカップルの大群の一つなのだ。

何も言わなければその手は離されず、意識されることもないのだろう。


指摘すればきっと彼はごめんと謝って手を離し距離を置いて歩くのだ。

それなら今この時間を私だけでもいいから楽しみたい。

この手のあたたかさをなるべく自分の思い出と感触に保存したい。

本を中心に私たちの会話は弾み、ついにクリスマスらしい話へとなった。


「やっぱ、周りカップル多いよね。」


「そ、そうだね。」


繋いで無い方の手に力が入る。


「俺らもさ、こうやって手繋いでたらカップルに見られんのかな。」


私は申し訳ない気持ちがどんどん膨らみ、手を自分から離した。


「こうすれば、多少は大丈夫ですね。」


残念そうにしてる自分の顔を見られたくなくて前かがみになる。

前髪を留めるピン留め、外してこればよかった。

しかし離した手はまた、ユウトによって掴まれた。


「寒い…でしょ、繋いでいてよ。」


ぐいっと引っ張られるとユウトは私と繋いだままの手をコートのポケットの中にいれた。

肩が触れそうなほど近い。

冬の寒さなんて忘れてしまうくらい身体が熱くなるのがわかった。

どうすればいいのかわからず沈黙しているとユウトは口を開いた。


「ご、めん。寒いでしょとか言ったけど、俺が手、ただ繋ぎたいだけ。…恋人同士に見られたいだけだったんだ。」


ユウトがそっぽを向きながら言った。

耳が赤いのは寒さのせいなのだろうか。

それとも、少しでもドキドキしてくれているからなのだろうか。


「…ユウトくん、私、まだユウトくんが好きです。」


下を向きながら言った私の言葉はちゃんと届いただろうか。

ユウトからの返事はないまま、目も合わせられず私はイルミネーションなど見ず、ずっと下を向いて歩いたのだった。










「イルミネーション、綺麗だったね!」


何事もなかったかのように私は笑顔で語る。

ユウトも綺麗だった、と私の言ったことなど聞こえてなかったかのようにこたえた。

いや、本当に聞こえていなかったのかもしれない。


「じゃあ、ユウカちゃん今度また、本の話でもしようよ。」


「うん、よろこんで…!」


本当に何事もなくユウトは別れを告げて帰って行った。

いつのまにか離されていた手を見つめる。

大丈夫。

私はいつまでも、あなたのこたえをまっているから。


私は自分を勇気づけるように、負けないように拳を握ってみせた。

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