出会い
2014年5月7日、水曜日。GWが明けて初日であった。GWには実家に帰った人や、4連休ということもあり、旅行した人も多くいた。その休日ボケからか、学校に来る人はいつもより少なく感じられた。私は実家には帰らず、GWを部活の課題作成に費やしていた。その課題に費やしているうちに、4日の連休も終わって、学校に行かなければならないと思うと、少し気が重くなったが、学校へ行った。そして、3限まである授業を済ませた後、所属している美術部ではなく、6月に合同合宿を行うことになっている、イラストサークルの部室へと向かった。しかし、そこには一人の男子しかいなかった。
「こんにちは」
「こんにちは、どなた?」
「美術部の新森です。合同合宿の話をしに来たのですが」
「今日、先輩たちは来ないかもしれません」
「あ、そうなんですか」
「椅子はいっぱいありますのでおかけください」
私はそこにいる男子がとても丁寧で優しい人だと思った。雰囲気的に同級生かな、と思ったが、彼は創作中の漫画に集中していたので、聞きにくかった。なので、私はノートを出して絵の下書きをすることにした。そんなことをしているうちに1時間が過ぎていた。そしてふと顔を上げると2人の目が合った。
「そういえば聞き忘れていたのですけど、先輩って何年生なんですか?」
「2年生です」
「僕はまだ入ったばかりの1年生です。よろしくお願いします」
「あ、そうなの。てっきり年上かな、って思ってた」
「名前をお聞きしてもいいですか?」
「新森梓です」
「僕は、名崎雷です。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。合宿は来る?」
「一応行くつもりです。大学に入って初めての合宿で楽しみにしてます」
「私たちも企画頑張るから、楽しみにしててね」
「はい!」
その後は黙々とそれぞれの作業を進めた。私は絵の下書きを5枚ほど書き、漫画を少し書いてキリが良かったので一旦作業を止めて、顔を上げて時計を見ると時刻は6時半を指していた。
「ああ、もうこんな時間」
「やっぱり今日は誰も来なかったようですね」
「いつもこんな感じなの?」
「活動日以外はこんな感じですね。普段の活動日は月曜日と木曜日なので」
「そっかあ。ちゃんと調べてから来るべきだったなあ」
「僕も最初に来たとき、活動日じゃない日だったのでほとんど人がいなくてびっくりしました。でも、活動日だと人は部室いっぱいに来るので、いろんな人と話せて楽しいですよ」
「そっか。私はそろそろ帰るけど、君はどうする?」
「僕も帰ります。今日はもう誰も来なさそうなので」
「じゃあ一緒に行こうか」
私は部室のドアを開けると外が大雨であることに気がついた。しかし、私は傘を持って来ていない。
「結構雨が強いみたいね。私は美術部の部室に荷物置いてくるね」
「あ、僕も一緒に行きますよ」
2人で一個下の階にある美術部の部室まで行き、私は荷物をすべて部室に置いた。そして、部室に傘がないか探したがなく、手ぶらで部室を出た。
「行きますか」
2人は部室棟の一番下まで出た。名崎は折り畳み傘を出すが、私は何も持っていない。
「もしかして、傘持って来てないんですか?」
「うん・・・今日雨降るなんて思ってなかったから」
「そうですか、じゃあ、僕も荷物置いてきます」
名崎はそう言って上へ上がっていった。3分くらいすると折り畳み傘だけを持って下りて来た。
「じゃあいきましょ」
「え?」
「傘の下に入っていいですよ」
「あ、ありがとう」
「先輩、もしかして自転車ですか?」
「そうなのよね。だから、家に帰るのが少し大変なの」
「僕の家に来ます?傘なら家にあるので貸しますよ」
私は一瞬迷った。今日であったばかりの男の人の家に行くのは罪悪感を少し感じた。しかし、このままだと家にいつ帰れるかわからなかった。
「好意に甘えさせてもらうね」
2人は自転車を手で押しながら、身体は傘の下に入った。折り畳み傘は普通の傘に比べて小さいので、2人はかなりくっついて歩いていった。かなり2人はゆっくり歩いていたが、10分くらいすると家に着いた。
「ここです」
名崎は傘を閉じて、オートロックの鍵を開ける。そしてエレベータに乗って、玄関を開けた。
「中にどうぞ」
「え?」
「濡れちゃってるし、少し家で休んでいってください」
「ありがとう」
私は少し申し訳ない気分になった。私がちゃんと学校に傘を持っていっていればこんな迷惑をかけずに済んだのに、と思った。
「タオルもどうぞ」
名崎は私にタオルを投げる。彼はとても優しい笑顔であった。私は傘を借りてすぐに帰るつもりだったので、少し戸惑った。でも、一旦ゆっくり指定校と思ったので、渡してもらったタオルで全身をふいてから、玄関のところへと座った。
「部屋の中に入って来ていいんですよ?」
「いや、でもそんなことしたら家をぬらしてしまうし・・・」
「なんなら風呂でも貸しますよ?」
「好意は嬉しいけど、さすがにそこまでしてもらうのは申し訳ないからいいよ」
「まあ、でもそんなところにいないで、中に入って来てくださいな」
私は家の中へと入る。名崎はすでにテーブルの上に私のための飲み物を用意していた。
「どうぞ」
私は「ありがとう」と小声でつぶやき、飲む。名崎はじっと私の飲む姿を対面の椅子から見守っていた。そして飲み終わると彼は席を立った。
「近くのスーパーまで買い物に行きたいんですが、一緒に来ます?」
「あ、うん。いいよ」
私は少し戸惑いながら返事をした。もし、一緒に行かないと言ったら、彼はどのような言葉を発したのだろうか。
「雨も大分弱まって来てますね、傘の中にどうぞ」
私は黙って彼の傘の中に入った。傘の柄が私の右胸に少し当たってはいたが、気にせず歩いていった。
「ここです。雨はかなり弱くなりましたね。完全に通り雨みたいだったので、少し学校で待機してれば良かったですね」
「でも、予報見たらずっと雨だったから仕方ないよ」
「そうですね、先輩はどうします?今なら雨弱いし、学校に戻って自分の家に帰ります?」
「あー。そうしたいけど、学校の方向どっちかわからない・・・」
「あ、それなら学校まで送りますよ」
「何から何までありがとう」
「いえいえ、困ったときはお互い様だと思っているので」
2人は学校の近くまで来る。学校の場所が分かると、私はもう大丈夫だと思い、これ以上名崎に迷惑をかけるのは止めようと思った。
「今日はどうもありがとう。もう大丈夫」
「どういたしまして。気をつけて帰ってくださいね」
「うん、本当にありがとう!」
私は曲がり角で名崎が見えなくなるまで後ろを向いて手を振っていた。名崎が見えなくなると私は走って自転車を取りにいき、自分の家に帰った。そのとき、連絡先でも聞いておけば良かったと後悔した。その後は名崎とほとんど会うこともなく、6月中旬の合同合宿の日を迎えた。




