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手を繋ぎませんか?(彼氏ver)

作者: 碓氷夏恵

大好きな彼女が亡くなった。

いわゆる不慮の事故だった。

昨日と変わらない毎日が続くことを僕は知った。


学校では僕たちが付き合っていることは隠していた。からかわれるのを彼女が嫌ったからだ。だから、彼女の彼氏ではなく彼女のクラスメイトAというのが周囲から見た僕の印象だろう。


学校では彼女の突然の死に泣いてる女子たちもいたが、1ヶ月もすると彼女たちは普通に笑っていた。


僕はみんなが彼女を忘れているようで傷たまれなかった。

僕だけは彼女のことを忘れないためにスマホに残っている彼女のメールや彼女がくれたプレゼントを見て思い出した。

忘れないように。


ある日クラスに転校生がやってきた。

女子だ。

僕の隣の席が空いていたので、担任は転校生にそこに座るように言った。転校生は座りながら僕に『よろしくね』と笑顔を向けた。

その笑顔は亡くなった彼女にどことなく似ていた。


転校生は、人懐っこい性格ですぐにクラスメイトと打ち解け、僕とは音楽で意気投合した。


しばらく経って、転校生から告白された。

『大好きです』と言われた。

僕は後日返事をすることにした。


その日の夜、亡くなった彼女の夢を見た。

彼女は少し寂しそうに何かを言っていた。けど、その言葉は聞こえなかった。


翌日、転校生の告白の返事をした。

僕は彼女のことを忘れないために転校生と付き合うことにした。最低なことだとわかっていたが彼女のことを忘れそうだった僕には断る勇気がなかった。


それから、何回かデートをした。転校生は僕を色んなところに連れていった。



お互いの距離が短くなったときに僕はあることに気づいた。


彼女のことが思い出せないことに。


いつから彼女のメールを見てない?


彼女はどういう顔をしていたか?


彼女の好きなもの、嫌いなものは何だった?


「どうしたの?」

心配そうに見つめる転校生。

僕は彼女を忘れないために転校生と付き合ってるのに、何故彼女を忘れてしまったんだろう。

「ごめん、疲れたから先に帰る」

「大丈夫?一緒に帰ろうか?」

転校生は僕の肩に触れようとした。

「触るな!!」

僕は転校生の手を払った。

「あっ」

振り返ると転校生は驚いた表情で僕を見つめていた。

「ごめん」

僕はすぐにその場を離れた。


家に帰ってから、僕は食事もせずに布団にくるまった。


いつから彼女のことを思い出せていなかった?


彼女はどんな人だった?


彼女を忘れないために転校生と付き合ったのに、何故彼女を忘れてしまうんだ。


思い出すのは彼女の顔ではなく、転校生の顔。


僕はクラスメイトと同じように彼女を忘れて日々を過ごしてしまうのか?


僕は忘れないために転校生と付き合ってたのに。


なんで忘れるんだよ!!


その日、彼女の夢を見た。

彼女は僕に背を向けて去っていく。どんなに僕が追いかけようとも彼女に追いつかない。

そこで、目が覚めた。


本当は気づいていたんだ。彼女に似ている転校生を見ていたのが、いつの間にか転校生自身を見ていたのに。


僕はあることを決めた。


僕はすぐに転校生に電話をした。今すぐ会えないかと。

1時間後に僕の近所の公園で会うことにした。僕はその1時間でやるべきことをすぐに行った。


1時間後

僕は昨日のことを謝った。

そして、転校生に彼女のことを全て話した。彼女を忘れないために転校生と付き合ったこと。

「ごめん、キミにはヒドいことをしたと思ってる」

僕は頭を下げた。

「けど、キミと付き合ううちにいつの間にかキミ自身のことを見てた。キミのことが愛しくなってたんだ」

「だから、僕は過去を断ち切って」

僕はカバンに入れた彼女のものを全部地面に落とした。

「ケジメをつける!!」

ライターで燃やした。

彼女のものがゆっくりと消えていく。

これでいいんだ。僕はゆっくり目を閉じ、言い聞かせた。

前に進まなきゃいけないんだ。


「彼女が生きてた証を無理矢理消さないで!!」


誰かが言った。

転校生は手で火を消していた。やけどするのもいとわないで火を消そうとしている。


「おい、止めろ!!」

僕は転校生を止めようとした。

「絶対、やだ!!」

転校生は僕を払って火を消す。

「ケジメをつけるって言っといて、そんな悲しい顔をしないでよ。これは今までのあなたを作った一部なんでしょう?それを無理やり否定したら、本当にあなたの中から彼女が消えちゃう!!」

「そんなの絶対私が許さない」

一生懸命火を消す転校生。


転校生は目を逸らさずに目の前のことを見ている。

僕は目の前のことに目を逸らしてなかったことにして見ている。

僕が転校生と付き合ったのは彼女に似ていたからじゃない。彼女の目を逸らさずに見ていることに惹かれたんだ。


僕はペットボトルに入っていた水を燃えている彼女のものにかけた。彼女のものは半分ほど燃えてしまった。


「ごめん」

僕は転校生をぎゅっと抱きしめた。

「私は今のあなたが好きなんです。だから、あなたのことを1から教えてください。私は過去のあなたを含めた全部が大好きなんですから」

そう言って、転校生は僕の頭を優しく撫でた。


また彼女の夢を見た。

彼女の顔は晴れやかな顔だった。

『今まで心配かけてごめん。

僕の一部を作ってくれてありがと』

僕は彼女に言った。

彼女は頷いた。

『僕はもう行く、だからもう一度言う』

『ありがとう。さようなら』

彼女は寂しげな表情だったが、笑っていた。


そして、彼女は言った。


『行ってらっしゃい』


やっと彼女の声が聞こえた。


最期に見たときと同じくひまわりのように笑って彼女は僕を送り出している。


僕は泣くのを我慢して、彼女に背を向けて歩いて行く。


『本当にありがとう。行ってきます』


数ヶ月後

「手を繋ぎませんか?」

転校生は突然帰り道でそんなことを言い出した。

そういえば、付き合いだしてから1度も手を握ったことがなかった。

「不思議そうに見てますね。私がここにいる証を掴んでみませんか?」

イタズラっぽく笑う転校生。

「ああ、いいよ」

僕たちは手を繋いだ。

「お化け屋敷は苦手なので、そのときは強く握って下さいね」

転校生は僕の顔を覗きこんだ。

僕も目を逸らさずに前に進もう。


『大丈夫だよ。1人じゃないよ』

不意に後ろから彼女の声が聞こえた。

僕はもう後ろを振り返らない。


前を向こう。





これで2作目。今回は書くのに少し時間がかかりました。誤字脱字ありましたら、ごめんなさい。

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