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モブデブ  作者: 鈴木鈴
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 俺は一般人だ。平凡さには自信がある。高校でも大学でも、たぶん社会人になっても、大衆のなかの、ただの数字『いち』である。平々凡々の顔、背丈、話す内容、総合してだ。デブは多才であるものの、それすら一際飛び抜けているわけではなく、運がなければそれも埋もれてしまうだろう。

 ただ唯一、一般人とは決定的な違いを、俺たちは持っている。

 それを与えてくれた人に、俺たちがあのアルマジロを見捨てたら、怒られてしまう。


「とりあえず、添え木だな。腕折れてるし」


 四人にも聞こえるように、声を出す。デブは背負っていたリュックを開き、なにかないかと探しているが、なにを見てもオタク商品だ。なにか差し出してくれるとは思えない。俺の荷物もそんなものは入っていないので、周囲を見渡す。槍は長いし、鎧は形が……。

 パッと見杖だが、いかんせん回復魔法もない世界での、魔法が使える杖だ。おそらく貴重なものだろう、添え木にするぞとは言えないな。

 非常時でなければ!

 俺はスっと婆さんへ歩み寄り、相談を持ちかける。


「添え木がないんです。その杖を貸してください」

「すまないが、それは話し合わなきゃいかんねぇ」


 断られると予想していたが、意外な好感触。でも、相談って? アルマジロの意見はこの際ねじ伏せる予定だ。怪我人相手なら怖くない。猫娘もなんとかやり込めるだろう。問題はトカゲ男だ。腕前を見る限り、オークプラントをねじ伏せたデブには叶わないだろうが、俺が勝てるとは思えない。やはりデブの威光を借りるしかないだろう。

 婆さんはなにを思ったのか、杖を構えて呪文を唱え始める。杖に光が集まり……はじめて……ん?


「……て……はい……そう……が」


 なんか呪文にしては……。

 ふとアニ○イトで漫画を選別中、隣に立った不気味なオタクを思い出した。脇に立つオタクはずうっとニタニタと笑っており、十人が十人、こいつは「いつかやると思っていましたよ」と見た目で差別するだろう。そのオタクが手にとった漫画は、いままさに俺が手にとった漫画で、なんとなく落胆してしまう。――が、それはそのオタクも同じようだった。ニタニタ笑っていたかと思っていたら、急に顔を真っ赤にして、漫画を抱くように身体を丸めた。

「……い……し……ころ……から」

何かを呟いた。訂正、呟き続けている。まるで呪いでもかけられているような気分になり、一歩も動けなくなる。何度も何度も同じ言葉を囁くので、なんとなく聞き取ってしまった。

「僕が一番愛してるあんなやつに君の気持ちはわからないんだから」

 ころす――などと不吉な単語は一切関係なく、ただの重度な、可哀相な幸福相なオタクだった。なってこった、俺は見た目で差別しちゃった。すまないオタク気持ち悪い。

 彼のTwitterを理解したときだったの。棚を揺らしながらやってきたデブが、彼ごと持っていた本を押しつぶした。直後、彼は

「ころしてやる」

 とつぶやいて、クシャっとしていない漫画を手に取り出て行った。レジは通せよ。あぁ捕まった。デブは面白そうにオタクを見ていたが、なんとも複雑な気持ちになったのは、記憶に新しい。

 さて、現実に戻って、婆さんの呟きに耳を傾けようじゃないか。


「パンでいいのかい? バターも? 贅沢言わないで……ハム? 村は遠いからねぇ。鳥肉? ああ、あの串に刺さったやつ? あれは街に行かないとダメだって。パイなら作ってあげるから、ね、我慢してちょうだい。卵は、そうさね、約束だからね。 じゃ、さっきの報酬と合わせて、そうするよ。炒り卵と牛乳に浸したパン、それにミートパイでいいのかい?」


 ……婆さんは、スっと杖を俺に向けた。




「精霊さまのお許しがでたよ。使いなさい」




「使えるかあああああ!!!!!! なにそれなんだそれ! スクランブルエッグとパンってなんだよ! 呪文じゃねぇのかよ! 精霊ってなんだしっかり美味そうな朝食じゃねぇか焼き鳥要求するなよミートパイ食いたいよ! さっき呪文唱えると遅いなって思ってたらなになになに!? 食べ物要求してきたの妖精! 精霊だっけ!? 神秘性ゼロだよぉぉぉぉおおお!!!!」


 驚いた。ツッコミきれない事実が明らかになったことが驚いた。ブツブツ口ごもるオタクとどっこいどっこいだよ婆さん! この世界の魔法使いの感じに、いますごいガッカリしてるよ!!


「あ、あんた精霊さまの言葉がわかるのかね?」

「え?」


 婆さんの言い回しにスっと覚める。

 そうだ。この世界(と言っていいのか)に来てから、俺は日本語しか話していないし、日本語しか耳に入れていない。だがデブは違う。まずこの冒険者四人の言葉が理解できない。たぶん、英語ですらない言語だ。そこから察するに、この四人の言葉は俺にしか理解されず、俺が話す日本語しか彼らには伝わらないという、デブがぼっち確定した構図ができあがる。

 そこに加えさっきの婆さんの言葉だ。精霊の言葉がどういうものかわからないが、四人の中すら特別な言語なのは確かだ。

 おっかなびっくり杖を受け取る。耳を、さっき婆さんが呪文(ではなかったが)を唱えた最中、光が集まっていた、杖の先端の小さな水晶に近づける。


『聞こえるー? あははははー。オモシローイ。人間だー』


 聞こえた。しかも複数の声だった。この杖に、いったい何匹の精霊がいるのだろう。目を凝らしてもなにも見えないが、子どもっぽい声はいまだ響いてくる。


「お前ら回復魔法とか使えないの?」

『おおー。聞こえたー。うけるー。飯くれー。すげー。だせー! 飯くれー』


 UZEEEEEEE!

 なんだよなんなんだよ! 精霊ってなんだよ学童保育にくるガキがよ遊んでやんねぇぞ! 頬を引きつらせながら、同じ質問を繰り返す。


「お前ら、回復魔法、使えるよな、精霊だもんな!!」

『使えるー! うそー! 魔法使えないー。でも人間使えるー。ずっけー』


 使えるのか使えないのか明確にしてほしいが、すごい言葉を聞いた。


「人間ってどっちが使える!? 俺か? デブか?」

『声でけー。人間声でけーなー。お腹すいたー。腹減ったなー。パン飽きたー』


 埒があかないな。万聞は一行に如かずでいこう。


「デブ! 俺たちどっちか魔法使えるぞ!」

「なにぃ!? ストップは男のロマンだよね」

「死ね! 使い方わかんねぇから、呪文で行くぞ!」

「おけー!」


「ベ「ケアル!」」


 ちょ、おまっ! 戦争が始まるぞ!

 デブのほうを見ようとして、デブの右手の光に目がいった。星の模様が光っている。マジかよ……そりゃシリーズは多く出しているが、ビアンカの健気さわかんねぇかな。でもⅤを何回出すんだよとは素直に思うわ。何周させる気だよ、初代だって四回は周回したってのに、あの頃の努力なんだったんだよデボラってなんだハンマー装備させるなよ夫婦喧嘩で勝てる気しないよそして結局可愛いよ。

 デブの右手から溢れる光は、そのままアルマジロへと流れ込む。――さきほど、杖から出た光の比じゃない。なんと神々しい光なのだろう。


「ああああああなにこれぇ! こわいよおおおお!」


 あのね黙っててねデブ。いま綺麗なの。みんなすごい見とれてるんだから。

 アルマジロは、一瞬眉間に深いシワを寄せたが、ジワジワと消えていく光と比例するように、そのシワも消えていった。

 上体を起こしたアルマジロは光が収まるのを確認して、右手をギュギュと握り締める。本当に治ったようだ。


「マジかよ……」


 俺の声か、デブの声かわからなかったが、となりを見るとデブは自分の右手を見てアワアワ言っているので、俺の声だったのだろう。

 もう一つ確実なことは、デブが魔法を使い、それが成功したとうことだ。

 素直にすごいと思うが――現実感はなくなった。これは夢なんじゃないかなと考え直す。


「もう夢でもいいお……主人公は俺だお……」


 そうか。まぁお前はそうだろうな。俺だって夢でいいから魔法使いたいよ。


「魔法使いになったけど質問あるっと……あれ?」


 スマホをフリックしながら、デブは首をかしげた。いまさら、ケータイが通じないよーとか言いだしたらぶん殴らなきゃいけないが、


「電波ないんですけどー」


 一度殴って、四人の今後の対応を聞くことにした。

 四人はいま、アルマジロを中心に集まっている。これ幸いと、低姿勢で話しかけることにした。


「俺たちは、ちょっとした魔法でこんなところに来てしまったわけですが、このとおり敵意はないです」


 万が一にも言葉の食い違いがあってはならない。慎重に四人に話しかける。ちょっとした魔法という単語であのおばさんが頭をチラつき、ひどく不愉快な気持ちになった。しかし、彼らに『日本という国のとある店に美熟女がいまして、その店の中の門を通ったらここに来てしまったのです。あのばばあをぶっ飛ばす方法を教えてください』とは聞けない。無駄を省き嘘を交え、ペラペラと舌がまわる。


「帰りかたを模索していまして、あの門、あの門に詳しい人、いませんか? でなければ、情報がほしいので、そこまで連れて行ってもらえると、助かります」


 四人は顔を見合わせ、小声で話し始める。俺に言葉が通じることを警戒してだろう。まぁなんにせよ、ここは離れるだろうから、さっきデブが広げたリュックの中身をもう一度しまう。最近のアニメグッズが多いな。趣味が本当に合わん。

 そういえば、電波入らないとか確認してなかったな。勝手にここを異世界やら夢のなかやらと決めつけていたが、外に出れば電波の一本くらい立つかもわからん。そういう細かなところに気づかせてくれたデブに、ずいぶんひどいことをしてしまったな。しっかりと脳を揺らしてしまったのだろう、立とうとしているのだろうか、デブはビクンビクンと動いて気持ち悪かった。

 あれと友だちなのかと丸めた背中に、声がかかった。


「いいよ。連れてってやる!」


 猫娘だ。やけに不遜な態度だが、まぁいいだろう。お互い、立場が対等になったということは、大きな前進だと思う。決して「命の恩人になんて口の利き方だ、とくにアルマジロは泣いて感謝するべきだと俺は思うね」などと底の浅いことは考えていない。


「その代わり、お願いがある」


 代わりかよ! 対等じゃなかったよ!





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