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生い茂る青葉―Story of the past―  作者: 賦羅和鼓卯小説掲載委託有限会社(発注者:天城孝幸)
13/28

13.17日の夜

 “ピロリ~ン♪”

「終わったかな?」

ケータイを取り出す千早。武からメールの着信だ。

「“お昼終わった。水族館入口で。”」

「“わかったよー。”」

ケータイをパタンと閉じると、ベンチから立ち上がって歩き始めた。もう太陽は真上を過ぎている。

 「あ、来た来たー。」

名古屋港水族館の前まで行くと、桃子が手を振っているのが見えた。

「じゃあ全員揃ったことだし、行きますか。」

武の声で、五人は名古屋港水族館へと足を踏み入れた。

 名古屋港を臨む位置にある名古屋港水族館。潮風の香りが、五人の鼻を刺激する。

「わぁー。海だ海ー。」

「ほんとだー。青いなー。」

桃子と翔太が海に興奮している。海のない県である山梨から、ほとんど出たことのない二人の気が惹かれるのは仕方がないことだった。

「入場料はっと…。ああ、二千円だったな。」

「江口、半分出してくれよ。なんとなく。」

「え、なんでそうなるんだよ。」

「桃子ー。五千円くずせない?」

「あー七海ちゃん、私がまとめて買ってくるよ。」

千早が一人で窓口へと向かう。平日にもかかわらず、短かったが列ができていた。

「高校生五人お願いします。」

「高校生五人ね。一万円になります。」

“名古屋港水族館”の文字がプリントされたチケットを渡されると、いよいよ来ちゃったな、という感覚がじわじわとやってきた。チケットを握りしめ、武たちと合流する。

「おまたせー。」

みんなにチケットを配っていく千早。

「はい。」

翔太にチケットを渡す時、一瞬だが確かに緊張感が走った。差し出されたチケットを、

「おお、ありがと。」

短く礼を言って受け取る翔太。小さなことでも、千早にとっては満足だった。

 「うわぁ…。」

館内を歩く五人。ひときわ大きい水槽に、シャチが泳いでいるのが見えた。

「でけー…。」

「桃子食べられちゃうね。」

「私はおいしくないよー。」

少し歩けば、こんどは動物の骨格標本。

「これ恐竜か?」

「なるほど、武はそれが恐竜に見えるか。」

「これシャチだよねー。」

「え、マジ?」

下を見れば、“○○シャチの骨格標本”のプレート。

「骨を見れば恐竜恐竜って、オマエは小学生か。」

「いやいや、まだティラノサウルスとは言ってない。中学生レベルでとどまっている。」

「ほら、次行くよー。」

足を運んだのは“深海ギャラリー”。深海生物なんかのコーナーだが、

「うへぇ、こんなのが生物かよ…。」

武の目線の先にあったのは、白いダンゴムシみたいな生物。

「まー深海だからね。何がいてもおかしくないんじゃない?」

「こんなのが海行っていたらやだわー。」

「別に行くわけじゃないじゃない…きゃっ!?」

次のコーナーに行こうとして振り返った千早。目の前の光景に、思わず身が引いてしまった。

「うおっと。大丈夫?」

「あ、ありがとう。」

ちょうど後ろに翔太。千早の顔が、ちょっぴりだが赤くなったのは言うまでもないだろう。

「なんだこれ?海底人?」

「真田君、潜水服って書いてあるよ。」

古代の潜水服の展示であった。パッと見、人間には見えずらいのは仕方ない。

「心細い服だなー。よくこれで行こうとしたよな。」

「俺なら行くな。まあこれ次第だが。」

そう言って、武は右手で硬貨の形を作る。

「ああ百円か。チャレンジ精神旺盛だな。」

「そうそう、ひゃく…って、百円で命張れるか。」

武のノリツッコミで、五人の間に笑いが起こった。

「千早、そろそろ時間じゃないのか?」

武の問いかけに、腕時計を見る千早。

「そうね、ちょっと早めに行った方がいいかも。」

「よし、イルカショー行くぞ。あと十五分くらい。」

「イルカ見れるのー?」

「七海ちゃん、イルカショー行ってイルカいなかったら、それイルカショーじゃないから…。」

「うるさいわねー。桃子は黙ってオットセイとでも結婚してなさい。」

「ハハハ…。滝本さんならお似合いかも。」

翔太の言葉に、恥ずかしいのか表情を困らせる桃子。七海がさらに横槍を入れている。

「桃子ちゃんと江口君、だいぶ打ち解けたみたいだね。」

「ああ、目標は達成したな。」

武の顔が笑っていた。一番の心配事が、ようやく払拭されたのだから。

「おーい、北館の三階に行くぞ。みんなついて来て。」

「真田が案内すると遅れるぞー。」

「おっしゃ、三分でつれてってやる。」

 ここから三階のスタジアムまで、五分はかかるのだが…。


 “バシャーン!”

「おおー!」

「高いなー。あんなにジャンプできるんだね。」

スタジアムで開催されているイルカショー。その様子を四人は夢中になって見つめていた。

「わーヒレ振ってるー。カワイイ~。」

「真田、お前もあのお姉さんに調教してもらえ。」

「よしきた。このスタジアムはブーイングで一杯になるからな。」

武の言葉に、笑いが出る四人。

“バシャーン!”

「うおっ。あれも届くのか…。」

「イルカ恐ろしいな。」

 四人から離れた、スタジアムの隅っこ。千早はここで、じっと立ちながらイルカショーを見ていた。

「あんなに綺麗に動けるのはすごいなー。」

そんな独り言を言いながら。

 この旅行の目的は、桃子と翔太の仲直りだと位置づけていた。ゆえに、自分が翔太に近づいてしまっては桃子の仲直りが阻害されてしまうと考えていたのだった。

 だが実際には、すでに二人は打ち解けている。それなのに、どこか近寄りがたい自分がいっしょに居てはいけないような気がした。

「…。」

みんな、自分のことを友達と思ってくれているし、自分もそう思っている。でも、どこか仲間はずれにされている感が否めなかった。

“バシャーン!”

イルカが、また高いジャンプを見せた。


 “ガチャ”

「はぁ~。」

自分の部屋に入る千早。名古屋から再び四時間の高速バスは、けっこうきいた。

 時間がなかったので、夕飯を食べていない。

「なんか残って…ないか。」

外へ行くのも面倒だし、そんなにお腹空いてないや。朝から敷きっぱなしの布団にゴロリと横になる。

 「…。」

千早は決心して、ケータイを開いた。この旅行が終わったら、やろう思っていたことがあるのだ。

「“お疲れ様。今日の旅行はどうでしたか?”」

翔太へとメールを送る。この文一つすら、練っていたものだった。

“ピロリ~ン♪”

数分後、返信が届いた。

「“ありがとう、とっても楽しかった。”」

ドキドキを懸命に抑えながら、キーを打つ。

「“そう、よかった。一生懸命計画した甲斐があったよ。”」

“ピロリ~ン♪”

「“西園寺さんは、こういうの得意そうだよね。将来そういう仕事についたら?”」

ふぅ。とため息をひとつ。手はもう、震えが止まらなかった。

「“ただ計画するだけだから、得意ってわけでもないよ。」

緊張しながら、改行してこう付け加えた。

「あ、どうしても言っておきたいことがるんだけどいい?”」

“ピロリ~ン♪”

「“うん、いいよ。なに?”」

返信に対して、千早は心臓をバクバクさせながらこう打った。

「“私は、江口君のことが好きです。”」

 私は、江口君のことが好き。一呼吸おいてから、送信ボタンを押した。

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