7.朝の満員電車
初日の訓練が終わって帰ると、沙世は夕食と風呂の後で直ぐに眠ってしまった。アキの部屋に忍び込む為に、いつもよりもかなり早い時間に起きていたし、彼女があまり経験した事のないタイプの緊張の連続で、すっかり疲れ果てていたからだ。
アキとの訓練のお陰で、彼女は幻物質をそれなりに出していたから、疲れていても毒が自然と溢れ出す事はなかった。そして、随分と久しぶりに沙世はその日、心地良い睡眠を取ったのだった。自分が毒以外の物質を創り出せている。それが酸素と水素で爆発の危険性があり、毒を抑えられなくなった時に代わりに創り出す物質として適切ではない事は彼女にも分かっていたが、それでも彼女は嬉しかったのだ。
アキは更にこんな事も言った。
『訓練をし続ければ、きっと他の物質も創り出せるようになるよ。更に、物質を分析する能力や、化学反応を操る事もできるようになるはずだ』
その言葉に彼女の心は躍った。そうなれば自分は普通に生活できるようになるかもしれない。そんなことを思っている。アキが自分に優しく接してくれている事ももちろん嬉しかった。
彼女は人の優しさに飢えている。そして今、他人と接する事への恐怖で抑え込まれていたそれが、徐々に浮かび上がってきていた。本人も、それを自覚している。
信用してもいいのかな?
そう思う。
彼なら、わたしを、拒絶しないかも。
翌日、沙世はやっぱり上機嫌だった。その上機嫌の沙世を、立石望は少し斜に構えて見守っていた。
“分かり易く、上機嫌。予想通り”
そんな感想を持つ。
訓練を盗聴して、全てを知っている立石は、それを予想していたのだ。彼女は思う。訓練の様子からは、村上アキに何も怪しい点は発見できなかった。だけど、まだまだ油断できない。何しろ、まだ一日だけなのだ。沙世を安心させ信用させる為に、熱心に訓練だけをしているのかもしれない。
「立石。わたしね、毒以外の物質も創り出せたんだ」
突然に沙世は立石に向けて、そう喋った。しかも、少し頬を紅潮させながら。立石はそれに驚く。
“なに? この幸せオーラは?”
彼女は悪い予感を覚えてこう言った。
「あなたね。言っとくけど、天然ボケはやめなさいよ、天然ボケは! もう、ツッコミに回るのは嫌なんだから!」
沙世はそれにツッコミを入れる。
「何の話よ?」
それから、立石の言葉をどう解釈したのか、沙世はこう続けた。
「このわたしが毒以外を創れたのよ? 立石だって、それがどれくらいわたしにとって信じられない事かくらいは分かるでしょう? 少しくらい浮かれても良いじゃない」
それを聞いて立石は思う。“やや天然ボケ気味だけど、まぁ、いいわ”。そして、こう言った。
「あなたの睡眠ガスが、どうたらって話は何よ?」
沙世はそれにドキリとする。村上アキの部屋に忍び込んで、嗅がせた睡眠ガス。どうして彼女が知っているのか、と。
「何で突然に、睡眠ガスが出てくるのよ?!」
沙世はそう誤魔化そうとした。立石はそれに「別にぃ」とそう返す。
「ただ、村上アキの事を調べているうち、そんな単語に当たったから、何かと思っただけよ」
本当は沙世と村上の訓練を盗聴してそれを聞き、何があったのかと疑問に思ったのだが、もちろん彼女が正直に言うはずがなかった。
沙世はそれを聞いて、不安になる。“もしかしたら、村上君がどこかで喋ったのかな?”と。彼が秘密をばらしたのだとしたら、どうしよう? 別に約束はしていないけど。その曇った表情を見て、立石は舌打ちをした。
“そんな表情を浮かべないでよ。何を考えているのか手に取るように分かるじゃない。ああ、もうっ!”
そして、こう言った。
「断っておくけど、別に村上アキは何も言ってないわよ」
立石望もやっぱり甘い。沙世の表情はそれだけで簡単に明るくなった。それを見て、“本当にこの子は、簡単に騙されるタイプだわ”と立石は思う。
「そんな事よりも、沙世。あなたは、村上アキがあなたを騙すつもりかどうか、私に調べてってお願いしたわよね? もしかしたら、すっかり忘れてない?」
それを聞いて、沙世は「あっ」と声を上げる。それからこう言い訳した。
「忘れていた訳じゃないのよ。少し、色々な事があり過ぎて、頭が回らなかったというか、なんというか…」
「つまりは、それって、忘れてたのでしょう? だから、私にツッコミを入れさせるなって!」
それから立石は溜息を漏らす。しかし続けて、ま、無理もないかとそう思う。自分が毒以外の物質を出せている。その事実に、頭がいっぱいになっていただろうから。もちろん、そこに男が絡んでいるのも見逃せないが。
「で、現段階の調査結果だけどね。今のところは、騙しているような感じはしない。ただし、気になる噂はチラホラあるわ。まだ油断はできないわね」
それから立石はそう言った。かつて付き合っていた彼女がいた、という話をしようかとも思ったが、また沙世の幸せそうな表情がぶっ飛ぶかと思って、それは控えた。滅多にない事だから、今は幸せ気分をたくさん味わっておくべきかもと考えたのだ。もちろん、ぶっ飛ばしてやろうかとも少しは思ったが。
「うん。多分、彼は誰かを騙せるようなタイプではないと思うわ」
沙世はそれにそう返す。しかし、立石はその言葉に呆れた。
「あなたの判断が、信用できる訳ないでしょう~ 身の程を知りなさい。身の程を」
少なくとも、誰かを騙すくらいは、村上アキは簡単にやってのける。そう、彼女は考えていたのだ。今回、悪意があるかどうかは別問題にして。
「ツッコミ役になっちゃいそうだから、これ以上は言わないけどね。って、もう、こんなボケくらいしか思い付かないじゃない! キーッ!
とにかく、あなたみたいに疑う事を知らない小娘が、人を判断しようなんざ、百年早いのよ!」
「だから、それ、何の話よ? しかも、これ以上言わないとか言いながら、言ってるじゃない!」
やや憐れみつつ困りながら、沙世はそうツッコミを入れた。
「ボケたかったのよ、とにかく、ボケたかったのよ!」
「だから、何の話!?」
(立石さん。クールなイメージが台無しですよ)
その日の村上アキの訓練も、問題なく進んだ。沙世は酸素と水素の存在を、確りと認識できるようになって来ていた。元々、積極的に感じ取ろうとはしていなかっただけで、彼女には感じ取れる物質もあるにはある。どうしても出すのを避けなくてはならないほど強力な毒。例えば、1グラムで約5500万人の命を奪えると言われるボツリヌス毒素のような毒は、何としても抑えなくてはならない。彼女はそういった毒に関しては積極的に感じ取り、創るのを徹底的に避けてきた。だから、能力が伸びる素地は元からあったのだ。それで成長が早い。もちろん、それはアキのサポートのお陰でもあったのだが。
「うん。いい感じだね。もう、酸素と水素の区別もつくようになってきたでしょう? それに、それを操れもする。思った以上に、成長が速いねぇ」
アキは沙世に向けてそう言った。
「操るのは、元からできてたから」
少し照れたような感じで、沙世はそう返す。それから、「村上君がいるって安心感もあるし……」と小声で続ける。もう彼女は、かなり自然に彼と話せるようになっていた。彼女にとっては、それも嬉しい。バカップルの道を突き進みそうな気配があるが。
ただ、その後でアキは表情を少し残念そうなものに変えると、こう言ったのだった。
「でね。明日は、少し僕に用事があるんだ。もしかしたら知っているかもしれないけど、僕は医者みたいな事をやっていてね。それで、病気を診なくちゃならないんだ。
訓練はするけど、短い時間で切り上げるよ。でもってね、そろそろその出来によっては、沙世ちゃん一人で練習し始めてもいい感じかな?とも思うんだ」
「え?」
「いつまでも、僕と一緒の時だけって訳にはいかないだろう? 沙世ちゃんが自分だけでコントロールできるようになるのが、最終目標なんだし」
彼女はその言葉に少し戸惑った。自分一人だけで訓練をするという不安感と寂しさ。しかし、それと同時に感じる自立心。アキが自分を認めてくれている喜びもある。
「分かった。やってみる」
少しの間の後で、沙世はそう言った。アキはニッコリとそれにこう返す。
「うん。ま、判断は明日になってからね」
そして、次の日。
「――凄い。相変わらず、酸素と水素がセットではあるけど、二つを個別に分かるようになってるじゃない。それに、比率も1対1に近付いている。酸素をより多く出せるようになって来ているって事だ」
と、訓練をし終えてアキはそう言った。沙世はその言葉に喜ぶ。
「イメージトレーニングだけはしてきたの」
と、それから返した。
「なるほど。これなら、もう沙世ちゃん一人でもできそうだね。自分だけで、練習してみると良いよ。
あ、これ買ってきたんだ」
そう言ってアキは何かを取り出す。それは柄の長いタイプのライターだった。
「これなら、手元から離れるから、火を点けた時に火傷しないと思ってね。爆発させて、創り出しているのが、酸素と水素だって確かめる用」
つまりは、プレゼント。男の子が女の子に贈るにしては、随分と色気のないプレゼントではあったが、沙世はそれでも喜んだ。
「ありがとう」
と、そう返す。
「うん。じゃ、名残惜しいけど僕はもう行くよ。練習、あまり無理をし過ぎないようにね」
アキはそれからそう言うと、化学実験室を出て行った。――しかし、その沙世の自主練習が切っ掛けとなって、後でちょっとした事件が起きてしまったのだった。
長谷川沙世は、その日もいつも通りの時間まで学校に残って練習をやった。酸素と水素を少量だけ創り出しては、それに点火して爆発させる。それを繰り返す。自分一人で問題なく、酸素と水素を創り出せているという点に、彼女は興奮していた。“村上君に頼らなくても大丈夫だ”。しかし、あまり遅くなると電車が混雑する時間帯になる。彼女が、満員電車を苦手としているのは相変わらずだった。
学生をはじめとする若い世代が中心のこの街で、夜に電車が混雑する時間帯は二回あった。一回目は、放課後に学生が下校する時刻。二回目は、部活を終えた学生と仕事を終えた若い社会人が帰宅し始める時刻。今の時間帯に帰らないと、二回目の満員電車を避ける為には随分と遅くまで待たないといけない。二回目の時間帯は、一回目ほどには混まないのだが、その代わりに幅が広いのだ。
沙世は家に帰ってから練習すればいいと考えてそこで帰った。しかし、その所為でまだ充分に練習できていない、という思いを強く残してしまった。
彼女は家に帰ってから、練習をし始めた。あまりに熱心にやり過ぎて、夕食を食べるのも忘れていたほどだった。途中で気付くと、軽くで夕食を済ませて風呂に入り、それからまた練習を再開した。そしてその所為で、早寝早起きが基本の彼女が、その晩は随分と夜更かしをしてしまったのだった。
――朝。
村上アキは驚いていた。
いつも通りに登校しようと最寄り駅に行くと、そこに予想外の人物の姿があったからだ。長谷川沙世。駅の改札口の隅にこっそりと立っていたのだが、それにアキが気付かないはずはなかった。
「どうしたの? 沙世ちゃん」
と、アキは自分から話しかける。
この駅は沙世の最寄り駅ではない。彼女の住む場所からここは、少し離れている。歩いて来れない距離ではないが、だからといってわざわざ来る程でもない。
――僕と一緒に登校したかったから、ここで待っていた。
一瞬、そんな期待をアキは抱きかけたが、沙世の性格上、それはないと思い直す。彼女がそんな積極的な行動に出るはずがない。暴走する理由もないのに。
沙世はアキの問いにこう答えた。
「ちょっと、寝坊しちゃって……」
小さな声。
それだけでは何の事かアキには分からなかったが、それでも曖昧に「うん」と頷いてみた。何にせよ、彼にとっては嬉しい事実だったからだ。それから無言のまま沙世は駅のホームにアキと一緒に並んだ。たくさんの人々。彼女はそれを始終、不安そうな様子でじっと眺めていた。それから電車が到着する。ホームの人々がそれに乗り込む。もちろんアキ達も。乗ってから、ようやく沙世は口を開いた。小さな声で、
「わたし、満員電車が苦手なの…」
と、そう言う。アキが注意深く見てみると、彼女が微かに震えているのが分かった。
「昨晩、夜更かししちゃって。それで寝坊しちゃって。いつもはもっと早い時間に起きて、満員電車を避けているのだけど…
遅刻しようかとも思ったのだけど、村上君の事を思い出して……」
その言葉でアキは納得した。彼女の行動の意味を悟る。
“なるほど。電車の中は、密閉されているから、もし毒を出してしまったら、大変な事態になる。だから、彼女は満員電車が怖いんだ”
と、そう思う。しかしそれから続けて、こうも思った。
“でも、体調が悪いのならまだしも、彼女一人でも、これくらいの時間なら問題なく毒を抑えられるはずだ。
怖いのは分かるけど、僕に頼ってばかりだと彼女の為にはならない……”
彼特有の融通の利かなさが、出てしまったのだ。アキはそれから、こう言おうとした。“悪いけど、一人で危機を乗り越えるべきだよ”と。しかし、
「悪いけど……」
と、口を開きかけて彼は固まる。
“うっ!”
沙世の表情を見たからだった。
沙世はその時“どうしよう? やっぱり、迷惑だったかな?”的な表情で、アキをじっと見つめていたのだ。不安そうで、見捨てられるのを心底恐れているような怯えた瞳。
「どうしたの?」
沙世がそう訊いてくる。
少しの間の後、
“無理”
と、そう思うとそれからアキは動いた。
「ううん。なんでもない。それくらいなら全然平気だから、気にしないで。僕が見守っているから」と、そう答える。
そして、“沙世ちゃん。君って子は、あれだけ好意を示されたら、もっといい気になっても良さそうなものなのに……”と、そう思った。
まだ、僕が不安なのか……。
それからその言葉通りに、アキは沙世を見守り始めた。もしも、毒が出たら、それを中和する為に。そして、それで異変に気が付いたのだった。
まず、息苦しそうにしているのが分かる。軽く顔も青ざめてきた。それで手を翳し、アキは独自空間を創って沙世を調べると、動悸も激しくなって来ているのが分かった。緊張も強い。
“これは……、パニック障害?”
アキはそう思った。それから、“ただ単に苦手なだけって訳じゃなさそうだ。もっと根が深いな、”と、そう判断すると翳した手から光を出す。アキが誰かを治療する時に、発生させる光だ。
少しだけ驚いた顔で、沙世は不思議そうにアキを見た。
「うん。対症療法しかできないけど、苦しみを和らげてあげるから」
と、アキはその反応にそう応えた。
“少し、甘すぎたかもしれないな”と、そう思ってもいたが。沙世は少し、楽になったような表情を浮かべる。
村上アキの後頭部に空手チョップ(古い)が炸裂したのは、朝のHR前だった。技を繰り出したのは三城俊。彼は、にやにやと笑いながらこう言った。
「見たぞ、アキ、てめぇ」
何の事やら、とアキは応えようとも思ったが、表情が自然と崩れてしまうので諦めた。彼は機嫌が良かったのだ。
「もう彼女と一緒に登校なんて、進展が速いじゃないか、この野郎」
「まぁ、本当にそれだけだったらその通りなのだけどね。残念ながら、そうじゃないんだなこれが」
「どういう事だよ?」
そう質問した三城に向けて、アキは今朝の事情を話し始める。聞き終えると、
「なるほどな。そういうタイプとも思えなかったら意外だったけど、なんだお前、単に利用されただけか」
三城はそう言う。それに少し刺のある口調でアキはこう返した。
「そういう言い方はやめろよ、俊。彼女に対しては特に。あの子は、そんな子じゃない。心細くて、僕を頼って来ただけだ」
いつもの冗談ではなく、そこに本気の気配を感じ取った三城はそれに何も返さなかった。しかし、それから気を取り直すと、今度はこう尋ねる。
「しかし、いつものアキらしくないじゃないか。いつものお前なら、“自分で乗り越えないと駄目だ”とか言って、助けたりはしないような気がするけどな」
鋭い三城君。それに、アキは不敵に笑いつつこう返した。
「ふ、俊よ。僕は今回で悟ったんだよ」
「何が?」
「彼女には、甘いくらいでちょうど良い!って」
それを聞いて、三城は止まる。それからゆっくりと口を開いた。
「お前それは、ただ単に惚れた女には甘いってだけの話じゃないのか? 淡白だと思っていたが、やっぱそんなもんか、お前も」
すると、アキはそれに反論するように話し始める。
「ふ、俊よ。例えば、小さな子供がいたとしよう……」
「何を語り出してるんだ、お前は?」
「まぁ聞け。その子供は、お前にかまってもらいたいのだが、邪魔になったら悪いと思って遠くから控え目に見ているんだ。甘えたいけど、どうしよう?って表情で……。
そんな瞳に見つめられたら、お前ならどうする?! 抱き締めるだろう? 優しく接して安心させてやろうって思うだろう?」
それに三城は静かにこう返す。
「ふ、アキよ。例えば、彼女がお前の傍にいたとしよう……」
「何を語り出してるんだ、お前は?」
「まぁ聞け。彼女は、お前に頼り切ってもう離れられないんだ。お前がいなくなったら、捜し求める… そんな状態になったら、お前はどう思う?」
アキはこう答える。
「そりゃ、気持ちいいな…」
「やっぱりか。ただ単に、彼女の態度がお前のツボに入っただけじゃねぇか!バカ!」
「ええい、お前に彼女の何が分かる!」
それからしばらく、二人の言い合いは続いた。……野郎共の、不毛な会話でした。
一方、その頃、長谷川沙世は。
「あんた、今“惚れてまうやろ!”って顔してるわよ」
と、立石望から問い詰められていた。もちろん立石は、沙世が村上アキと一緒に登校して来たという情報を掴んでいる。
「一発ギャグネタは、直ぐに風化するわよ」(もう、風化してるかも)
と、沙世はそれをツッコミで誤魔化す。が、もちろん立石には通じない。そして、
“……これは、もし騙されているのだとしたら、重症になるわね。今の内に、予防しておいた方がいいかも”
そう、立石は思っていたのだった。
そんな立石の心中を知るはずもなく、沙世は、
“そういえば、ありがとうって、村上君にお礼を言い忘れちゃった。今日の放課後の訓練の時にでも言わないと”
と、そんな事を思っていた。
幸せそうな顔で。
“あの時の沙世ちゃん、可愛かったなぁ。
いいもん見た。あんな可愛い生き物が、この世に生息しているだなんて…”
朝のHR中の、村上アキ。
三城との言い合いが終わった後、アキは今朝の満員電車を思い出して、その余韻に浸っていた。しかし、それからこう思う。
“でも、彼女にとっていつかは乗り越えなくちゃいけない問題の一つでもあるな。
ただ、彼女と付き合っていく上で、本当に深刻なのは、僕の方の事情かもしれないけども”
彼は久々に表情を歪めた。