1.毒娘
その時、長谷川沙世はかなり疲労した状態で、知らない街を歩いていた。季節は夏。彼女は全身から汗を流しながら、人気のない場所を探していた。
“ちくしょう、思ったよりも栄えてやがる…”
ふらふらと歩きながら、そう思う。徐々に意識は朦朧とし始めていた。
その日、彼女がしてしまった大きな失敗は三つあった。一つめは、自分が夏の暑さにどれだけ消耗しているのかによく注意を向けていなかった点、二つめは、恐らく電車は混まないだろうという甘い予想をしてしまっていた点、三つめは、慌てていた為に、知らない街の駅で降りてしまった点。
“早く誰もいない場所を見つけないと。できるのなら、動物もいない方が良い。早く、早くしないと、毒が、毒が出ちゃう!”
毒。
彼女は毒を創り出すという、特殊能力を持っていた。もっとも彼女自身は、その能力を酷く嫌っていた、いや、憎んでいたと言ってもいい。
こんな能力さえなければ、と彼女はよく思っていた。こんな能力さえなければ、自分はもっと普通に暮らせていたはずなのに。
彼女は疲労すると、その能力を上手く抑えられなくなってしまうのだ。そして、彼女は電車が苦手だった。特に、満員電車が。
少し離れた街で買い物をする為に、彼女はその日、電車に乗った。夏バテしているという自覚はあったが、電車が混んでいなければ問題ないだろうと考えていた。それが彼女の油断だった。
“クソ。なんで、あの時間帯に、あんなに人が入って来るのよ……”
彼女は電車の座席を好まない。必然的に近くに人が来るし、出来るだけ人から離れる為の移動もし難くなる。だから、その時も彼女は車内の隅に立っていた。そして、ある駅に辿り着いた時の事だった。いきなりたくさんの人が入って来たのだ。
彼女は満員電車を避ける為に、混む時間帯を把握している。だからそれは、彼女にとって当に不意打ちだった。もしかしたら、近くでイベントでもあったのかもしれない。
たくさんの人に囲まれる事で、彼女の気分は急速に悪くなった。繰り返すが、彼女は満員電車が苦手なのだ。そして、人々の体温により上昇した車内の温度が、更に追い討ちをかける。暑い。
耐え切れないかもしれない。毒が出てしまう。
そう不安になった彼女は、次の駅で降りてしまった。それは明らかに彼女の判断ミスだった。あと三駅くらいなら、耐え切れそうだったし、その駅の近くになら広い河原がある事を彼女は知っていたからだ。そこでなら、毒を吐き出しても何の問題はないはずだったのだ。誰もいない場所を探して、毒を吐き出す。それがいつもの彼女の、毒が抑え切れなくなった時の緊急対処方法だった。しかし、慌てて降りてしまったその街は、比較的栄えていて、そんな場所は見つからない。しかも、歩けば歩くほど彼女は疲労し、毒を抑えるのが難しくなっていく。毒を抑える事自体が、彼女の負担になっていたのだから、それは無理もなかった。
疲れた頭で、彼女は思う。
“なんで、わたしにはこんな能力があるのだろう?
なんで、こんな目に遭わなくてはならないのだろう?”
目に涙を浮かべながら。
能力を持たない身体とは言わない。せめて、もっと無害でコントロールし易い能力だったなら、と彼女はそう思っていた。もう少し、違った人生だったかもしれないのに。
能力。――この世界において、そういった特殊能力を持っていたのは、何も彼女ばかりではなかった。
ある時から、世界に異変が起こり始めた。何故か、今までの物理法則では説明のつかないような、特殊能力を持った生物が現れるようになってしまったのだ。もちろん、その生物には人間も含まれている。
多くの議論が交わされた結果、人間社会はこう結論出した。
――世界の法則が変わってしまった。
その様々な特殊能力は、これまでに自然科学によって導き出されてきた物理法則では説明がつかないモノばかりだったのだ。しかし、実際にその現象は起きている。その現実は否定できない。そして、自然科学とは、自然の法則の絶対性と普遍性を前提としている。もしも、世界の法則が変わってしまったのなら、それを当て嵌めることなどできなくなるのだ。だから人間社会は、渋々ながらもそう結論出したのだ。これまで世界を支配していた、自然法則が変わってしまったのだと。しかも、どんな風に変わってしまったのか、人間社会はまだそれをほとんど理解してはいなかった。
そして、
理解されないもの、異なったものは、差別の対象になる。それが“人間”であるのなら、尚更。それは、世界の法則が変わった後の人間社会でも変わらなかった。
国により対応方針は様々だったが、日本の場合は、その特殊能力者達を一つの場所に追いやった。特別な地域を作り、そこに彼らの為の街を作ったのだ。表向きの理由は、教育だった。特殊能力の開発及びに、コントロール能力を身に付けさせる為。しかし、実際はただ邪魔者を排除したかっただけだった。自分達の社会から。彼らの能力に、危険なものが多かったのもその原因の一つだった。
もちろん、実際にその街に住むかどうかは、本人か親の承諾が必要になる。頑なにそれを拒絶する親もいたが、かなりの数の親がそれに賛成した。世間の圧力に耐え切れず、という理由の親もあった。
だから、その地域には、半ば家族から捨てられたような子供が多くいた。当然、荒んでしまう子供達も多い。しかも、親からの援助も国からの援助も乏しく、貧しい境遇にいる場合も決して少なくない。その為、街は荒れていた。素行が悪くなる若者が、かなりの数いたのだ。当然、街にはいわゆる不良少年と呼ばれる子供達も多い。街を歩いていれば、彼らを見かける可能性はかなり高いのだ。その日長く歩いていた彼女は、だから必然的にその不良少年達と巡り会ってしまったのだった。
ふらふらと歩く長谷川沙世に、その不良少年達が声をかけたのは、初めはただの親切心だった。沙世の外見は決して悪くなかったし、明らかに弱っているその姿からは、仄かな色気も感じ取れたから、下心もあったのかもしれないが、いずれにしろ悪意はなかった。ただ、だからこそ、それは容易に怒りへと変わってしまったのかもしれない。
「君、大丈夫? 具合、悪そうじゃん」
と、少年の内の一人が声をかけると、彼女は邪険にこう返したのだ。
「近付かないで!」
それは相手を警戒して言った言葉ではなかった。彼女は自分の毒を心の底から、恐れている。それで、誰かを傷つける事を。しかもその時の彼女からは、既に薄っすらと毒が染み出していた。それで自然と、過剰に反応してしまったのだ。しかし、その少年にはそれは分からない。
「おい。心配してやってるのに、その態度はないだろう?」
そう言うと少年は、彼女の肩を掴む。薄っすらと汗の滲んだ肩。そこには毒も含まれてあった。その瞬間だった。
「いてぇ!」
少年はそう叫んで、悶絶した。彼女の毒に触れてしまったからだ。それを見て、彼女は悲愴な表情を浮かべる。
――どうしよう? この人、わたしの毒に触ったんだ!
そう思った。
軽いパニックが彼女を襲う。
彼女がここまで、他人を傷つけるのを恐れるのには、小さな頃から自分の毒でたくさんの人に迷惑をかけて来たという事もあったが、何よりの原因は、自分の母親に対しての深い罪悪感だった。長谷川沙世は、今までに二度、自分の母親を殺しかけているのだ。
一度目は、まだその胎内いる時。赤ん坊だった彼女の毒は微弱だったが、それでも少しずつ母親の身体を蝕み、帝王切開による早期出産に踏み切らなければ、母体はほぼ間違いなく死に至っていた。そして二度目は……
――満員電車の中だった。
「この女、何しやがった!」
自分の仲間が苦しむのを見て、他の不良少年達はそう叫ぶと、一斉に彼女に襲いかかっていった。拳で顔面を殴り、腹を蹴り、わき腹を殴る。当然、血が飛び、汗が散り、涙がこぼれた。沙世は彼らに背を向けた。自分の身を護る為ではない。自分の毒ができる限り、少年達にかからないようにしたのだ。しかし、時は既に遅かった。
「うぎゃああああ!」
悲鳴が響くと、不良少年達は悶絶し苦しみ始めた。彼女の毒の飛沫を浴びたし、直接身体に触れもしたからだ。
――わたしの毒を浴びたんだ。どうしよう? 死んじゃうかもしれない。 早く病院に連絡しないと。
はっきりしない頭で、長谷川沙世はそう思っていた。しかし、身体は動かない。元々酷く疲労していた上に、不良少年達から暴行を受けた所為だ。精神的なショックもある。倒れた身体をなんとか動かそうとするが、意識が朦朧とし首だけしか動かない。近くに、病院へ連絡が出来そうな店はないかと探すが、見当たらなかった。
――どうしよう?
――どうしよう?
半ばパニックに陥った状態で、そう頭の中で連呼する。
誰か助けて。
そう、声を出そうとした。しかし、出ない。搾り出すように、彼女は口を開く。もう一度、必死に口を動かす。
“誰か助けて!”
やっと空気を震わす声が出る。もっとも、それがどれだけ大きな声だったのかは、声を出した本人には分からなかった。そしてその声は、それほど大きくはなかった。不良少年達の苦しむ声の方がよほど大きかったかもしれない。しかし、それでも助けはやって来た。
足音。
薄れかけた意識の中で、彼女の耳はタッタッタという誰かが走って近付いて来る音を捉えていた。
誰?
黒い影が、少年達に近付いていくのを彼女は見ていた。そして、その黒い影は苦しんでいる少年達に手をかざす。ゆるやかな光りがこぼれるのを彼女は見る。そして、その途端に少年達の苦しむ声が小さくなる。次々とその影は、その動作を繰り返し、その度に不良少年達は癒されているようだった。
「ホイミンか、助かった」
少年のうちの誰かがそう言った。
「サンキュー、村上」
そんな声も上がる。
何? ホイミン?
長谷川沙世は不思議に思う。
この人は、誰なのだろう?
やがて、その影は彼女に近付いて来た。手をかざす。光りが見えた。
黒い影。
――村上アキは、その目の前にいる少女が何者なのか、訝しく思っていた。毒。彼がその日感じ取って、追いかけて来た毒の発生源が彼女である事は分かった。しかし、その目的までは分からない。
目の前の少女は、酷く悲しそうな顔をしていたし、暴行を受けて倒れてもいる。何より、「誰か助けて!」という声を彼は聞いていた。もしも毒を撒く行為に悪意があったのなら、助けを呼ぶなんて真似はしないだろう。
村上アキは、ある都合から、よくこの街を歩いているのだ。そしてその日彼は、街を歩いている最中に、不穏な何かを感じ取ったのだった。空気に微かに毒が混じっていると気が付くまでに大して時間はかからなかった。そして、しばらく分析をして、それが本物の物質ではないと悟る。自分が創り出しているモノと同じ、幻の物質。時間が経てば消えてなくなる。もっとも、幻と言っても、存在している間は間違いなく現実に作用するのだが。それで彼は、その毒が能力者によって、創り出されたものだと判断した。
それで何かの厄介事を予感した彼は、その毒の発生源を探していたのだ。その途中で、彼は誰かの苦しみ叫ぶ声を聞く。毒により、何かが起こったのだと考えた彼は、その声に向かって走っていき、そこで苦しんでいる少年達を見つけたのだった。そしてその時に、長谷川沙世の「誰か助けて!」という悲痛な叫び声も聞いた。
辿り着いた彼は事態を理解すると、状況を判断し、緊急に対処しなければならない、毒に侵されているだろう少年達からまずは治療をし始めた。自らも幻の物質、幻物質を創り出し、毒と反応させて消去する。それと同時に対症治療も行っていく。
思ったよりも不良達は重傷ではなく、直ぐに回復したようだった。苦しみの嗚咽が、瞬く間に消えていく。
そして、一通りやり終えると、彼はそれから元凶であると思える少女へと向かったのだ。毒を創り出す事で何をしようとしていたのかを見極めるつもりでいたのだが、そこで先にも述べたような疑問を感じてしまったのだった。
悪意があるとは思えない。
それから村上は、手をかざす。彼女に危険はないと判断しての行動だった。光を出す。幻物質を創り出し化学反応を起こす時に発生する光だ。この光と共に彼は彼独自の空間を創り、そしてその空間内で幻物質を生成し操る。その空間と幻物質には、まだ他にも効果があった。明瞭にではないが、対象の情報が感じ取れるのだ。しかもそれには人の心も含まれている。そしてその時に村上アキは、その空間によって、初めて長谷川沙世の内面に触れたのだった。彼は目に涙を浮かべる。その彼の表情は、悲しんでいると同時に喜んでもいた。
「君は…」
と、呟く。
その彼の背後では復活した不良少年達が、彼を、というよりも長谷川沙世を取り囲み始めていた。
「村上! その女をこっちに渡せ!」
少年の一人が、そう叫ぶ。それを聞いた瞬間、彼はスクッと立ち上がると、沙世を庇うように少年達の前に立ちはだかった。
「彼女に君達を攻撃する意図はないよ。むしろ、君達を護ろうとしていた。彼女は今、毒の塊だ。その彼女に、君達が勝手に触れたというだけの話。
それでもまだ、彼女を攻撃するというのなら、僕は君達を二度と治療しない」
その村上アキの態度からは、この少女を傷つけるのなら、自分が相手をする、と言わんばかりの迫力が感じ取れた。この街で、彼の相手をするというのは、少し厄介な事だった。それで少年達は怯む。アキは更に続ける。
「分かったら、早く何処かへ行ってくれないか?」
「なんだと?」
「君達の為を思って言っているんだ。これから僕は、彼女の毒を何とかする。ただし、毒が漏れないとも限らない。
巻き込まれたくはないだろう? それとも、また彼女の猛毒を体験したいのか?」
その言葉を聞くと少しの逡巡の後、「チッ、仕方ねぇな」と誰かが言い、少年達は大人しくその場を引き上げた。
アキに治療してもらったとはいえ、猛毒の苦しみを経験した彼らの多くは、多少なりとも沙世を恐れてもいたのだ。だからこそ、その言葉に大人しく従ったのだろう。
少年達が去ると、彼は沙世に近付いていった。沙世は弱々しくこう言う。
「わたしは悪くない……」
こんな毒がなければ… 彼女は再びそう思う。その彼女に向けて、アキはやさしくこう言った。
「うん。分かっている。君が一番、傷ついている」
それが、身体の事を言ったのか、それとも心の事を言ったのかは、沙世には分からなかった。しかし、いずれにしろ、彼はその両方を癒した。
手をかざして、彼女の疲れを少し取ると、その後でアキはこう言う。
「ごめん。少し抱き締めるよ。
全身から、疲れと毒を、効率良く除いてしまいたいから。あと、傷も…」
それから彼は、その言葉通りに彼女を抱き締めようとする。彼女はそれにわずかばかりの抵抗を見せた。
「駄目…。わたし、毒だから……」
しかし、アキはこう応える。
「うん。僕は大丈夫だから…」
何が?と、そう沙世は思った。だが、それでも自然と彼を受け入れていた。そして、彼女は何年かぶりに、人に抱き締められたのだった。
あたたかい……
抱き締められながら、彼女はそう思っていた。光が発せられる。その光に包まれると、徐々に身体が楽になっていった。毒も消えているようだった。そして、しばらくが過ぎると光は消え、ただ彼の温もりだけが、彼女には残っていた。もっともそれは、物理的な温度ではなかったのかもしれないが。
「よし」
村上アキは静かにそう言うと、ゆっくりと彼女を放す。少し、惜しそうな感じで。そして沙世もまたそれは同じだった。
「疲れも傷も、そして毒も大体は何とかしたと思うけど、まだ元気は出ないでしょう? 送っていくよ。君の家は何処?」
そう言ったアキに対し、沙世はほぼ無意識のうちに頷いていた。まだ、彼女は夢見心地だったのだ。彼女は、自分が他の誰かに抱き締められるなど、もう一生涯ないだろうと思っていた。しかし、それが現実に起こってしまった。しかも信じられない事に、その相手は自分の毒が平気で、それを消し去る能力まで持っている。精神的ショックを受けた後の、不意打ちの幸福感。彼女はこの時激しく揺れ、茫然自失となり、それに酔ってもいた。だから上手く頭が回っていなかった。
そして、そのまま村上アキを連れ立って電車に乗り、自宅まで行ってしまったのだ。彼女はマンション暮らしだった。と言っても、かなりの格安の、少し強い地震が起こったら潰れてしまうのじゃないかと思えるほどの質素なマンションだったが。
それから玄関でアキと別れ、簡単な夕食を取り、風呂に入り、寝床に入ってもまだ彼女の茫然自失状態は変わらなかった。夢を見ているような心持ち。そして、朝起きて、昨日の出来事を思い出すと、そこで初めて冷静に物事を考えられた。
まず彼女は、昨日の出来事が夢であると思おうとした。あまりに都合が良すぎる。信じられなかったのだ。しかし鏡を見ると、自分の顔には確りと殴られた痕があった。しかも、治りかけていた。これは、治療されたからだろう。あの、村上とかいう少年に。
それから、彼女は自分に妙な感情が生まれているのに気が付いた。村上とかいう少年が忘れられないでいる。ただ、それを彼女は恋心だとは思わなかった。それどころか、彼女はそれを危機感だと考えた。いや、考えようとした。彼女には、今まで深く他人と接した経験がない。もちろんそれは彼女の毒が主な原因だ。それは、彼女の中で無意識に他人を恐れる気持ちとなり、それが他人を拒絶する生き方を彼女に強要させてもいた。しかし、だからこそ彼女は強く人を求めてもいたのだ。まだ、母親に抱かれていた幼い頃の記憶。彼女はその温もりを求めている。ただ、実際にその誰かが現れれば、他人を恐れるが故に反動形成された、拒絶しようとする思いも強くなる。また、好きになれば嫌われるかもしれない、という恐怖心も強くなる。相手に迷惑をかけたくない。
その彼女にとって、自分をやさしく触れ包んでくれた、あの少年の刺激は強烈過ぎた。近しい関係になりたいという想いと、拒絶する想いがぶつかり合う。彼女は自分の心を、そのまま観る事ができない。酷く不器用。それで、彼女はこう考えたのだった。
あの男には、毒の存在を知られてしまった。つまり、自分がかなりの危険能力者である事を知られてしまった可能性が大きい。もしかしたら、国の機関、特殊能力者管理局に通報されてしまうかもしれない。何とか防がなければ。
近付きたいという意思はあるが、それが仲良くなりたいという想いには結び付かない。歪んだ形でそう現れる。それが、一応は理に適った思考であっただけに、余計に性質が悪かった。
……長谷川沙世、彼女は今のところ、Bランクの危険能力者となっていた。しかしそれは、彼女が必死に自分の能力を隠していたからに他ならない。本来は少なくともAランク、または最上位のSランクの危険度を持っている。もしもそれを特殊能力者管理局に知られてしまったら、彼女は隔離されてしまうかもしれなかった。
――そんな刑務所みたいな暮らしだけは、絶対にしたくない!
彼女はそう思ってから、冷静になる。村上とかいう少年が、自分の素性をそれほど知らないだろう点に思い至ったからだ。しかし、それから大変な事に気が付いた。
「しまった! 家を知られた!」
そう。
村上は彼女を家まで送っている。つまり、家を知られているのだ。
「――なんとか、なんとかしないと!」
因みに彼女は、基本はツッコミだけど、偶にはボケます(しかも、やや天然)。
一方、村上アキは、
「やった、家を知っちゃった!」
と、健康な青少年らしく、女の子の家を知って浮かれていた。
……もちろん、どうやってお近付になろうかと考えていたのだ。長谷川沙世が、何を考えているのかも知らずに。
因みに彼は、基本はボケだけど、偶にはツッコミます。