空の青はきれいな青だったはず
私の名前は西島光。いや、正確に言うと「元」の名前だ。この「光」という男にも女にも取れる名前のせいで私は苦労したものであった。
季節は秋である。おそらく。それほど暑くもなく寒くもない季節である、といえば容易に想像がつくと思う。但し、私が今いる世界は「秋」と呼べる季節でもなければ「春」でも「夏」でも「冬」でもない。なぜなら昨日までにいた世界とは別の世界にいるからだ。
私が住んでいた世界はごく普通、平凡極まりないものであった。しかし、人とは違う点が1つだけあった
それは「孤独」であった。
私は人とかかわりを持つことがとても嫌いであった。友達といえる人は一人もいなく、まともに話をする相手も一人もいなかった。私は、毒のあるイソギンチャクとクマノミが一緒に生活をしている意味がわからなかった。いくらお互いが利益を得る、といってもめんどくさいことが多いのではないか?と無駄な推理を働かせ、自分の論を正当化させようとしていた。要するに私は、変な理論を独自に構築する偏屈人間だった。
私は何から何まで一人でやった。しかし、仕事は長くは続かなかった。私の特技である、へんてこな理論を正当化することによって人間関係に支障をきたすようになったからだ。一度歪んだ人間関係を修復するためにはかなりの労力を要する。そんなことに労力を払うのが嫌だった私は上司に辞表を提出した。仕事をやめた私は、後悔するなんてものとは無縁で逆に今まで重くて仕方がなかった肩の荷がドスンと落ち、晴れ晴れした気持ちであった。
気が遠くなるような長い間、一人で生活をしていると人間として大切なものを失ってしまうような気がした。その大切なものがなにであったか私には今にもわからない。しかし、確かに大切なものを私は失った。
私は日本人であった。だから支局当然日本語を話した。日本に生まれたほとんどの日本人が日本語を話すように。
会社をやめた私は一人で生活保護金で最低限で質素な生活を営んでいた。ある日、昼食のためにガスコンロでお湯を沸かしているとをしているとブツブツと声が聞こえた。
「あつい・・・・・・あつい」・・・・。」
この部屋には私以外人間はいない。要するに、日本語を話すこと、会話ができるということは絶対にありえない。
「誰だ?」
と私が叫んだ。久々に口を開き、声をだした。それは実に二年ぶりのことであった。それでも、声はやまない。ましては、次第に大きくなっていく。