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見返すと痛い…。
「…結婚。」
黙っていた篠原が、言いにくそうに口を開いた。
「…は、無理か。」
そうだね。
「僕、まだ15だから。」
そこか?
無理なのは。
「じゃあ、恋人だ。恋人になって、先生。」
再度、俺を見上げながら言う。
今度は、可愛らしく微笑みながら。
だがそれは、本末転倒では無いかね?
そこは、浅はかな中学生。
先生が恋人なら、テストの点数でも有利になるとでも思ったのか。
『篠原。先生、悪かったとは思っているけど…』
恋人にはなれない。
…と、口にしようとしたんだ。
良い年こいた大人として。
だけど、不意に抱きついてきた篠原に遮られる。
「ダメだって言うんなら、皆に、先生が僕にキスをしたって、言います。」
い…犬とか、猫にも、するのに。
『皆、って?』
「母にも言います。」
篠原母。
あ、あの、超人無敵のPTA会長か。
『…。』
バレたら、大変だ。
色んな意味で。
最悪な未来を想像して固まる。俺。
固まった唇に、柔らかいモノが触れる。
「恋人同士になったら、し放題ですよ?」
にこ。
胸元からのキスと、天使の微笑み。
いかん。堪えろ。
音図実重。
理性を総動員するんだ。
この子は、教え子。
中学生なんだ。
「ね?先生?」
『うん。』
だらしなく、丸め込まれてしまった。
俺の理性、全滅。
幼く、小さくても『獅子』は『獅子』。
小物な俺なんか、相手にもならない。
時計を見ると、7時を回っている。
冬が近づいている今日この頃、日が落ちるのも早く、外はもう真っ暗だ。
『篠原、もう遅いから送ってくよ。』
篠原の肩を両手で挟んで、俺から引き剥がす。
『先生、準備してくるから、篠原も帰り支度しなさい。』
「はい。先生。」
『数学は明日、教えてあげるから。』
あれ?
明日じゃダメなんだっけか…?
ま、いいか。
帰る準備に、教室を後にする。
『準備が終わったら、校門の所で待ってなさい。』
と、最後に伝えた。