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教え子の小さい机に肘掛けをしつつ、起きない篠原を半ば少し諦めた視線で見ながら、思う。
こんなに、まじまじと一人の生徒の顔を観察した事は無いが。
【篠原獅子】は、綺麗な顔をしている。
と、思った。
サッカー部に所属していたせいでか、少し日に焼けた健康的な肌と、栗色のサラサラな髪の毛。
年齢のせいか、女の子にも見える。
が、制服は男子生徒用だ。
男の子なのに、長い睫毛。
其れに縁取られた、パッチリとした、やや吊りぎみの目。
猫目。
そんな印象。
【獅子】だ、もんな。篠原は。
それに比べて、俺。
【音頭実重】
…普通だ。
否、三十路を過ぎた、おっさんに洒落た名前を期待するのも可笑しいか…。うん。
こんな俺にも、篠原のような時期が有ったのだろうか。
よく、名前の事で『ネズミちゃん』と、からかわれてはいたのは、思いだせるけど。
う〜ん…。
少なくとも、こんな整った可愛らしい顔はしてなかった。
残念ながら。
本当に、篠原の顔の作りは可愛らしい。
煩くない寝顔は特に。
子供特有のスベスベとして、柔らかそうな肌。
プラス、其れに綺麗なオレンジ色が注がれている。
自分が持ち得ない物に、急に、触れてみたいと言う衝動にかられた。
オレンジ色の唇に触れる。
…、よりにもよって、己の唇で。
予想通り、柔らかい。
皮膚が薄い分、その感触は特に感じられる。
口づけてから、余韻にでも浸ろうかと篠原の顔を見た、刹那。
ぱち。
機械にスイッチでも入れたかのような、目覚め方。
まだ、顔が近い。離れきってない距離。
当然、目が合う。
「ちゅうした…。」
小さい声だが、はっきり聞こえた。
完全に覚醒したのか、寝起きの声ではない。