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キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン。
授業の終わりを告げる鐘の音。
『はい。今日は此処まで。』
パタンと音を立てて、教科書を閉じる。
さぁ、可愛い子達よ、重苦しい空気からの開放だ。
まだまだ、戦いは終わらないが今日の所は、辛い諸行はひとまず終わりにしよう。
徐々に、生徒達の声で華やぐ教室。
教師の俺も、何となく気分が上向きになる。
授業中の物とは全然違う空気。
ピリピリした真剣さも必要だが、息抜きできる空間もクラスには必要だ。
「音頭先生、問2が分からないんですが。」
黒板を消していた俺に、教科書を片手に生徒の一人が質問をして来た。
授業以外にも、勉強しなくちゃならない。
受験生の悲しさ。
一服している暇も無いようだ。
『どこだ?篠原?』
「問2です。」
教科書を指差す。
『どれどれ?此処は、こうやって解くんだ。分かるか?』
「…分かりません。」
『…。』
分からないのが悔しいのか、口を尖らせる【篠原 獅子】。
『ん~。篠原は、数学以外は優秀なのにな~。』
軽口のつもりだったのだが。
むむむっ。
篠原が、むくれたのが分かった。
科目に向き不向きがあるのだろう…。
頑張ってる受験生に一言多かった。
「分かるまで、やります。教えて下さい。」
『おう。』
やる気が有るのは、とても良い事だ。
最近、篠原は頑張っているのか、よく質問をしに来ている。
…が、少しこの調子だと理解に時間がかかりそうだ。
…と。
不意に思い出した。
『あ〜。しまった、篠原。今日、先生、これから職員会議だったんだ。』
「え〜。」
不服そうな篠原の声。
『悪いな〜。』
「じゃあ、教室で待ってます。」
『明日じゃダメか?』
「ダメです。」
即答。
本当、根性あるな。
【篠原 獅子】は、確か、サッカー部だったはず。
クラス担任の俺は、生徒達が何の部に所属していたかも覚えている。
折れない根性は、サッカー部で養ったか…。
ここは熱意ある生徒に従おうか。
受験生には、一刻一秒を争う問題なのかもしれない。
「先生が来るまで、自習してます。」
『分かった。会議は1時間くらいで終わるだろうから、終わったら顔を出すよ。それまで、自分で考えてみなさい。』
「…はい。」
素直に自分の席に戻る、篠原。
クラスの生徒達の半分程は帰ったのだろう。
ポツポツと無人の机が目立ち始め、賑やかさも少なくなっていた。
職員会議は、授業が終わったら直ぐだ。
小うるさい先生方もいる。
よって、遅刻はマズい。
身支度を整え、俺は足早に自分の教室を後にした。