第17話
内臓を持ち上げられる不快な感覚を堪えながら、うまく身体を空中で捻って自分の吸い込まれる先を見据える。
僅かな灯りが見えるから、まだ奥底の機能は生きているのだろう。だが、共に落下していく瓦礫たちが、我先にと地底を目指し、私のことも蹴落とさんと襲いかかってくる。
「っのぉ!【ハードブリーズ】!」
生活術式【ハードブリーズ】、軒先に積もった枯葉などを吹き飛ばすための、強風を放つだけの術式だ。誰にでも使えるただのブロワー術式でも、空中遊泳をしている最中であれば、それはスラスターとして機能する。
両掌と両足の裏からそれぞれ同時に起動させ、出力を調整すれば、体勢を整え、瓦礫を避けるくらい容易に……
「うわむっっず!? めちゃくちゃぐるぐるおrrrrrr」
案の定そうそううまくいくわけもなく、空中で錐揉み回転する羽目になってしまう。口から乙女の尊厳を撒き散らしながらも、僅かに残った冷静な思考を全力で回転させ、瓦礫の被弾を回避していく。当然全て避けられるわけではないが、それでも致命傷や重傷を軽傷程度には抑えられている。
「うぶぇ……ぁやっべもう地面んんんん!!!」
気づけば眼前まで迫っていた床に、慌てながらも重力の方向へと【ハードブリーズ】の向きを揃え、全力で放出する。瓦礫のシミになる直前でなんとか制動したが、強烈な慣性が一瞬だけ私の意識を刈り取り、術式の制御を手放してしまう。
結果、軟着陸する直前で落下し、瓦礫まみれの地面に叩きつけられる。
「っか、は……!? い、っ……!!」
背中から全身を貫く衝撃が、私から呼吸を奪い、ひび割れる痛みと焦燥感を与えてくる。
幸いというべきか、落下物レースで私はビリっけつだったようで、追い討ちの瓦礫が降ってくることはなかった。
おかげで、痛みが引くまでしばらく悶えることができた。降り注ぐ石槍に貫かれては、いくら私でもただでは済まなかったろう。
「あ゙ ー死ぬかと思った……って、ここどこ?」
痛みが引いてきた頃に、ゆっくりと身体を起こしてみる。節々に軋むような痛みはあるものの、動けないような怪我は負っていない。全身に痣は大量に作ったが、屋敷にいる回復術師に頼めば一瞬で治ってしまう程度だ。
自分が寝そべる瓦礫が安定していることも確認し、現状を確認するため、ゆっくりと立ち上がる。調査のためと、父様が用意した、魔獣の革製の動きやすい服装で来たのが功を奏したのか、服の破けやほつれ、多少の擦過傷は目立つが、それ以上の傷はない。衝撃などを服が吸収してくれたおかげで、これだけ軽傷で済んだのだろう。父様には感謝してもし切れない。
立ち上がってぐるぐると周囲を見回してみても、砕けたコンクリートや鉄骨のかけらしか目に入ってこない。落下する時に見えたあの灯りも、他の瓦礫が全て砕いてしまったのだろう。
「灯りも全くない……の、割に、妙に視界が明るい……?」
天井は200m近く上にあり、そこにも光は僅か程もない。であれば、今の視界を彩るこの光源は一体なんなのか。上下左右と視界を巡らせて、ようやく気づく。
「床……というか、瓦礫の下からだ。しかもこれ、光源じゃない……マナの流れだ」
瓦礫の隙間から間断なく舞い上がるマナを、私の左眼が捉え、それを脳が光源だと誤認していたのだろう。
うまくどかせそうな瓦礫を、術式で砕いたりどかしたりして、底に眠るものを掘り出してみる。
底にある何かを覆う瓦礫を除けたその瞬間、私の顔目掛けて、大量のマナが襲いかかってくる。
マナを捉える左眼は、見事にそれら全てを視界に写し……
「あ゙ ぁ゙ ぁ゙ ぁ゙ っ!! 目が、目がぁ!!!」
強烈な閃光を浴びてしまった左眼は、一瞬で脳をキャパオーバーさせ、弾ける痛みとなって眼窩を貫く。
マナの流れと、眼窩の痛みが落ちついてきてからようやく、顔を出した何かの正体を探るべく覗き込んでみる。
そこには、砕けて明滅するミスティカ鉱や、強く虹色の光を放っているミスティカ鉱が、大量に転がっていた。
無傷なものたちを見比べてみると、全て同じ規格で揃えられているため、これらを正確に言い表すのであれば、”ミスティカインゴット”というべきだろう。
確かに、旧文明の遺跡では大量のミスティカ鉱が見つかるとは聞いたことがある。そして、それ以外の自然物は滅多に見つからないとも。まさかこんな形で眠っているとは。
「私たちが使うミスティカ鉱は、みんなこうやって精錬されたものなのかな……探せば、精錬の技術とかもどこかにありそうだけど」
そもそも、これだけ大量のミスティカ鉱があるのであれば、どこかに必ず鉱脈があるはずなのだ。しかし、現在に至るまで、ミスティカ鉱の鉱脈は発見されていない。旧文明が採りつくしたのか、はたまた、全く別の方法で精錬してたのか……。
だが、それを考えるのは今ではない。現状最も憂慮すべきは、暴れ出した異形の遺構機の対処だ。私が落下してからもうしばらく時間が経っている。すでに地上へと出ていてもおかしくはない。
与えられた時間は、短い。




