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第16話

 


 それに気づいたのは偶然だった。

 アルグレアス氏たちが量産型の遺構機(レガシー)を調べている間、ずっと六眼の異形機を眺めていたのだ。

 鋭い刃のような六眼が、音もなく輝き始め、そこからマナの光が私たち、侵入者に降り注ぐ。直感的に、私たちのミスティカドールを解析しているのだと悟った。


「奥の遺構機(レガシー)、起動しています!」


 『なんデすっテ!?』


 私を含め、4機のミスティカドールが一斉に遺構機と正対する。その瞬間、遺跡内にけたたましく警報が鳴り響き、同時に異形機から自動音声が発される。


 『不明な侵襲を確認。適格者診断……適格者なし。自動防衛システム、オフライン。自律起動による対象排除プロトコル、執行』


 ミスティカドールですら人形のように思えるほど巨大な腕が、強烈な風切り音を轟かせながら、私たちを捉えようと伸びてくる。退避の警告ですらできないような刹那の瞬間、他の”エクスプローラ”たちはなんとか逃れ、入り口の大穴の辺りに向かい始めたが、通常の”調弦”で動かしていた私の”トレイラス”は、いとも簡単に掴まれてしまった。


 『リファリード殿!?』


「早く逃げて! こっちはこっちでなんとかします!」


 そういう間にも、”トレイラス”はミシミシと嫌な音を立てながらどんどんひしゃげていく。


 『……信じますヨ!』


 アルグレアス氏たちはなんとか入り口まで辿り着いたが、どうも私はこのままでは脱出はできなさそうだ。

 この巨大な遺構機はパワーも段違いなようで、”トレイラス”ではどうにも対処できない。


「くっ、しゃーない……”調弦”切断! 頸部爆砕ボルト、起動!」


 座席の下に備え付けられた赤いレバーを思いっきり引くと、予めセットされていた術式が起動し、”トレイラス”の首が爆発する。

 爆砕によって吹き飛んだ頭部はそのまま床に激突し、それと同時に残った胴体は巨大な拳に握りつぶされ、鉄屑と化した。


「ふぐぇ……! くっそこのぉ……!」


 全身を打ち据えた衝撃に悶えながらも、術式を発動させ、コックピットハッチを吹き飛ばし、外へと転がり出る。無惨に潰れた”トレイラス”を横目に、巨大な遺構機を視認する。

 遺構機は”トレイラス”を握り潰した姿勢のまま、硬直していた。肉眼で眺めるとその巨大さと異質さが際立って見える。


 『対象の離脱を確認。機密保持プロトコル発動。追撃・殲滅を実行』


「は? 追撃!? それはちょっとまずいんですけど……!」


 慌てて周辺を見回し、何かできることがないかと探る。すると、まだマナの流れが残っている量産型遺構機が数機見つかる。十全に動くとは思えないが、それでもあるものに賭ける他ない。

 動きそうなうちの1機に駆け寄り、さらに一縷の望みに賭けて、爪先に触れマナを流す。


「うまくいくかはわかんないけど……人と機体をマナの糸で繋いでるなら、コックピットの外からでもいけるはず……! 神様仏様、いるかわかんないけどミスティカドールの神様なんとかお願いします……!」


 すると願いが通じたのか運が良かったのか、うまいことマナの糸が伸びてきて、身体中に絡みつく。引き込まれるような感覚に抗うことなく身を投じれば、不思議なことに、ミスティカドールの視界と生身の肉体の視界の両方を見れるようになった。


「な、なにこの感覚……」


 生身の体が手を挙げれば、それに連動して量産型遺構機の腕も上がる。1歩踏み出せば、同じように異形の遺構機へと歩みを進める。


「なーんか慣れないけど……とりあえず!」


 錆びついて軋む身体(機体)を奮い立たせ、異形の遺構機へと手を向ける。巨大な遺構機は地上へ出ようとしているのか、天井に手を添え、持ち上げようと試みている。それだけでも凄まじい力がかかっているのか、遺跡全体が悲鳴を上げ、天井が軋むにつれて土埃がパラパラと降り注いでくる。


 なんとか動く程度の量産型の出力は、やはり経年劣化でかなり衰えているようで、数日前に岩窟亀に放ったような術式は使えなさそうだ。が、それの廉価版程度であれば、形にはなるだろう。

 遠隔でマナを練り上げ、この数日で幾度も使い練度を上げた術式を発動させる。


「これで止まってくれたら万々歳! 【ストリングレイ】!」


 鉄錆で軋む量産型の掌から、子供程度なら呑み込めそうな光の矢が放たれる。異形の遺構機の右肘に狙い通り吸い込まれていった光は、関節部に寸分違わず命中し、爆散する。


「やったか!? せめて関節を破壊できれば……!」


 『不明な術式の行使を確認。”MM-08-72”への不正アクセスを検出。該当機体を即時処分』


 多少の痛痒でも与えたかに見えた右腕は、装甲が若干赤熱化した程度で、ほとんど無傷だった。

 異形の遺構機が何がしかを告げた直後、そのまま右腕が振り下ろされ、たった今起動させていた量産型を、いとも簡単に押し潰してしまう。

 地面に叩きつけられた雪玉のように、方々に破片が弾け飛び、ついでと言わんばかりに健在だったはずの他の機体へ突き刺さっていく。


 当然、鋼鉄の塊が軽く吹き飛ぶような衝撃を受けて床が無事なわけもなく。


「えっ、は、ちょぉっ!?」


 耳を(つんざ)く金属の破断音をいくつも響かせながら、大穴が全てを呑み込まんと口を開ける。

 飛ぶ術など持たない私は、空中に溺れながら真っ逆さまに奈落へと落下して行った。



 

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