第15話
旧文明の遺跡の入り口を掘り当ててしまった数日後。軽い調査を終え、危険はないと判断されたため、遺跡に潜ることになった。
遺跡がかき消すのは、あくまでも指向性を持ったマナの流れ、つまり術式から放出されるもののみのようで、ミスティカドールが触れる分には問題がないらしい。
アルグレアス氏曰く、このような仕掛けを持った遺跡を見るのは初めてらしい。話に聞いたこともないようで、この先に未知が待っているんじゃないかととても浮かれていた。
遺跡に潜入するのは、アルグレアス氏と、調査隊の”エクスプローラ”が3機。それと、私の”トレイラス”だ。ライ兄様の”ライトブリンガー”と、もう1機の”エクスプローラ”は、地上待機組になる。
本来であれば、私も地上待機組のはずだったのだが、大人気なく駄々をこねた上で、自衛できる程度の戦力であることを証明したので、晴れて許可が出た。このためだけに、わざわざ中Eランク程度の魔獣を数体探し出して討伐した。【ストリングレイ】をミスティカドールのサイズ感で放つと、普通に強力な溶断ビームになるのがわかったので、ある意味収穫かもしれない。
地上組の”エクスプローラ”に、オプション装備として持参していたクレーンユニットが装備される。四つん這いになって、背中から2本の支柱を伸ばすその姿は、首が2本になったキリンのようだ。知らない人が見れば魔獣にしか見えないだろう。この支柱1本あたりに、ミスティカドールが1機釣り下がることができる。
地下に降りるのは4機のため、2回に分けて降りていくことになる。先陣を切るのは、私とアルグレアス氏だ。
単純に、ある程度戦える私と、知識と経験のあるアルグレアス氏から向かうというだけだ。
『リファ。本当に気をつけてね。旧文明の遺跡は本当になにがあるかわからないから。本当なら僕が行きたかったんだけど……』
『ライルネント殿にハ、地上を守っていただク必要がありまスから』
「だいじょーぶですよ兄様。私の実力見たでしょ!」
『”トレイラス”であれだけ戦えるのはすごいと思うけど、それはそれだよ』
ライ兄様はいつまで経っても心配性だ。いや、心配かける方もかける方か。
「とにかく! いい感じに成果を持って帰るので、大船に乗ったつもりで待っててください!」
クレーンから垂らされるハンガーに乗っかり、少しずつ下降していく。
2分くらいかけて、大穴の底、遺跡の入り口に降り立つ。
6m四方程度のハッチで閉ざされており、その周囲にいくつかハンドルのようなものがついている。
残りの”エクスプローラ”2機が降りてきてから、それらのハンドルを回していくと、金属が軋む音を響かせながら、ハッチが開いていく。
「おぉー……これが遺跡……」
開いたハッチの中を覗き込んでみると、カタンカタンと音を立てて、内部の光源が起動していく。ハッチ下の空間には、リフトらしきものと、奥の壁面を覆うシャッターが見える。いずれもパッと見ただけで動かなそうとわかる程度には錆びついている。
『この特徴かラ見るニ、やはりここハ軍事系の施設ノようですネ。このタイプの昇降機ハ、地下軍事施設によく設置されテいまス』
「地下から機体とかを迫り上げてるんですかねぇ……効率悪そう」
『おそらくハ、そうせざるを得なイ事情ガあったノでしょウ。そこはまだ研究途上でス』
アルグレアス氏に続いて、4機のミスティカドールが一斉に地下遺跡へ降り立つ。4機分の重量が一気にかかったことによって、昇降機が破断してしまったが、どうやらこの程度ならよくあることらしいので気にしないことにする。場合によっては、この衝撃で生きていた警備が作動して大変なことになることもあるとか。今回は特になにも起動しなかったので、比較的当たりの方らしい。
『でハ、進みましょウ』
”エクスプローラ”たちが、錆びついたシャッターを力づくでもちあげ引きちぎり、向こう側の光景が顕になる。
そこには、ミスティカドールの爪先ほどのナニカが整然と並べられていた。
馬をつなげる御者台を持たない馬車。4枚の羽が頭についた卵形の棺桶。ベルトの足に頭から長い筒が伸びた鉄の亀。
「……自動車、ヘリコプター、戦車」
俗に言う”現代兵器”が、沈黙していた。
なぜ、こんなところに見慣れた陸戦兵器が立ち並んでいるのか。この世界が、地球と同じような進化を辿ったのか、はたまた地球の末路なのか……
『やはリ、ここは軍事施設だっタようですネ。当時の一般兵器群でス。こういウ所にハ、大抵”遺構機”も同様に保管されテいることガ多いでス』
「これが一般兵器群……?」
陸戦兵器が一般、つまり主流だったとしたら、なぜミスティカドールが生まれた……?
基本的に、人型の陸戦兵器は非効率で弱いとされている。それでもロマンがあるから、創作ではよく取り上げられるのだが、現実的な運用は難しいはずだ。
もしかしたら、”ミスティカドール”には何か秘密が……
そんなことを考えていると、アルグレアス氏たちがどんどんと先へと進んでいく。
陸戦兵器たちが立ち並ぶエリアの先に、また1つシャッターが降りている。気がつけば、”エクスプローラ”たちが再びシャッターを開け放っていた。
『おォ……これは、大当たリでス……』
通信にアルグレアス氏が嘆息する声が乗ってくる。その声に釣られて、新たに開かれたエリアを覗いてみる。
「う、っそぉ……」
そこはミスティカドールの整備ドッグのようだ。旧文明の量産型が何十機と並び、異様な圧力を放っている。今にも動き出しそうだが、よくよく見てみればどの機体も錆びつき朽ちて、既に死んでいる。
だが何よりも、最奥に鎮座する”それ”に目を奪われる。
通常の機体の3倍、いや足元がフロアを吹き抜けているので5倍以上はあるだろう巨大な体躯。鬼のような六眼を湛えたフェイスが侵入者たる私たちを見下ろしている。
胸部に嵌め込まれたドールコアは六芒星のように配され、怪しく輝いている。普通なら1機しか搭載できないはずのそれが複数ある時点で、他の機体とは一線を画すものだとわかる。
『これハ、数ある”遺構機”の中でモ、さらに特異ナ機体。人型を外れタ、異形の機体』
「……”異形機”」
六眼が、私たちを捉える。




