第14話
キャンプを築いてから3日。私はこの間、”トレイラス”の整備に主に携わっていた。
術式周りは私の方が詳しかったのでチャチャっと直して、歪んだりひん曲がったパーツ類は、私が術式を使って直したり、”エクスプローラ”用に持ってきた予備パーツの一部を流用させてもらったりして修繕を行なった。
結果的に、本来の性能の7割程度までは出せる程度に修理がなされた。が、そもそもの性能が低いので、体感ではあまり変わりはない。
また、魔獣の類もほとんど出ることはなかった。たまに小型の狼型魔獣がやってきたりもしたが、そこは私の【ストリングレイ】でスパッとやっつけた。人と同程度のサイズの魔獣の死骸を見るのは初めてだったので、流石にちょっと気分が悪くなってしまったのはご愛嬌というものだ。
そんなこんなでやることがなくなり、暇になった私は、”トレイラス”の動作確認ついでに、灰鉄色の巨人に屈伸させたり、変なポーズを取らせたりして遊んでいた。
『リファリード殿……暇なのハ分かりますガ、危険でス』
「ごめんなさい」
適当に遊んでいたらアルグレアス氏から怒られてしまった。声色にも若干焦りと苛立ちが混ざっており、あまり茶化したりはできそうになさそうだ。
というのも、この3日間、全力で発掘を続けていたものの、めぼしい成果が全くと言っていいほど得られなかったのだ。
術式による地中ソナーを行ったり、実際に幾分か掘ってみても、有力な情報が得られなかったのだという。
正直この地中ソナーとかが、どの程度の精度で探査しているのかわからないので何ともいえないが、それでも毎日少しずつ、報告のたびにむくれてくるアルグレアス氏を見ていると、ちょっと哀れな気持ちにはなってくる。
「あのー、よかったら手伝いましょうか?」
掘削用ドリルを装備し、地面をガリガリと削っている”エクスプローラ”、アルグレアス氏の乗機に話しかける。
『……リファリード殿。お気持ちハ嬉しいでスが、その機体でハ何もできないデしょウ』
案の定にべもない返答が返ってくる。が、私にはとある秘策があった。
「今の”トレイラス”であれば、かなり深く掘削できるはずですよ」
『……”トレイラス”で? 一体ドうやっテ?』
「そりゃあもう、簡単な話ですよ」
私は意識を”外側”へ向け、”トレイラス”と一体化する。
『虹色の陽炎……マサカ!?』
何かを察したアルグレアス氏が、他の機体と共に退避していく。一体私が何をすると思っているんだ。そんな大規模な破壊をするわけがないじゃないか。
「一体私のことをなんだと思ってるんですかねぇ……まぁいいや」
機体のマナを練り上げ、術式を象る。ただし、以前使った【ヴァーディクトレイ】とはまた違うものだ。
「さーて、どのくらい深く行けるかなーっと。【グランドカーヴォフ】!」
上級土属性術式【グランドカーヴォフ】。主に広範囲に渡って深い塹壕を造る場合などに用いられる。大抵は専用の”魔砲機”がいて、そいつらで一斉に発動させることで、数kmにも及ぶ、ミスティカドールでも入れる程度の塹壕を造ることができるのだ。
術式自体は大昔から知れ渡っているため、特段秘されているものでもない。月刊ミスティリアの特集に載る程度のものなので、パッと見てすぐに覚えてしまった。
術式を起動させ、指定した機体前方の半径10mほどの円状のエリアに、思いっきり深い穴を開ける。
脆く乾燥した土壌は簡単に崩れ去っていき、小さな奈落をどんどんと深くしていく。数十m掘り進めても、まだまだ地下へと潜って行く。
『……リファリード殿、その辺りハすでニ調査済みでしテ』
通信が入ったその瞬間、地面を掘り進めていた術式が何かと干渉し、霧散した。
「お? なんかあったっぽいですよ!」
『……ウソォ』
アルグレアス氏の気の抜けた声が通信に乗って響いてくる。
掘り進められた穴を覗いてみると、入り口付近以外は真っ暗で何も見えない。
術式が霧散した位置の感覚からして、深さは200m程度か。もしかしたら、地中ソナーもこの術式の霧散にやられて、情報を持って帰れなかったのかもしれない。
「うーん、暗くて見えませんねー」
『……ワタシが覗いテみましょウ』
危険はないと判断したのか、アルグレアス氏の”エクスプローラ”が大穴に近づき、中を覗き込む。
そういえば、”エクスプローラ”には光学センサーの他に、熱感知、音響、そしてマナ感知センサーが積まれていると聞いたことがある。それらの有効範囲がどの程度かは知らないが、この大穴の奥底を覗ける程度の性能はあるのだろう。
『……リファリード殿。あまり言いたクありませんガ、大手柄でス。それモ、特大の大戦果でス』
神妙な声色で、アルグレアス氏がそう告げる。一体私は何を掘り当ててしまったのか、逆に怖くなってきた。
『旧文明遺跡、その入り口ヲ、的確に掘り当てていまス」
「わぁお……そりゃあ大戦果ですねぇ……」
こんな偶然があるものなのか……はたまた、何かしらの手に導かれたが故の必然か。
何れにせよ私は、結構なやらかしをしてしまったらしい。




