表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

第12話



 一年前の感覚を思い出し、“トレイラス“に身を委ねる。

 すると、私の身体はいともたやすく白い空間へと飛んでいき……気がつけば、“トレイラス”と同化していた。


 案の定、あまり好ましくない感情が私の中に流れ込んでくる。恐怖、苦痛、嫌厭……でも、不思議と心は凪いでいる。流れ込んでくる感情は、私のものではない。自分を俯瞰し、しっかりと切り分ければ、なんの影響もない。


 心の中で軽く一息ついて、正面を見据える。

 ライ兄様の“ライトブリンガー“の先に、小高い小山があった。硬い岩盤で覆われたその小山は、細かく震えながら、こちら側へと近づいてきている。

 麓の方へ目を向ければ、鎌首をもたげこちらを見据える、害意の籠った目と、力強く地面を掴み、歩みを進める巨大な足がある。


 『岩窟亀だ。ちょっと分が悪いね』


 岩窟亀。全高50mを悠に超える、巨大なリクガメだ。

 背負う甲羅は硬く、生半可な攻撃では傷一つつけることはできない。露出している頭や足を狙う他ないのだが、表皮も鱗状の外皮で覆われており、簡単には貫けない。

 移動速度が遅いため、懐に入るまでは簡単だが、そこからが難しい。仮に背を向けて逃げようものなら、その口からとんでもない太さのビームが飛んでくる。これを回避するのは超能力でもない限り無理だ。

 最も、重量級突撃機(アサルト)さえいれば、案外対処は容易なので、中級Dランクに位置付けられている。


「──と、魔獣総覧・中級魔獣編に書いてありましたね。」


『解説ありがとうございまス。確かにライルネント殿の機体とは相性が悪そうですネ』


 そう、ライ兄様の”ライトブリンガー”は、機動力で相手を圧倒するタイプの機体だ。武装も最低限、王国のミスティカドールに共通して装備されるエネルギーブレードが2本のみ。他の中級魔獣であれば、エネルギーブレードだけでも十分なのだが、とにかく硬さに秀でた岩窟亀には通りが悪い。露出している眼球や口腔を狙おうにも、そんな隙を作ることすらまず難しい。

 ライ兄様の”ライトブリンガー”は、鈍重で硬い相手とは、殊更に相性が悪いのだ。


 『ひとまず、僕が懐に入って囮になる。その間にリファたちは退避、を……』


 通信越しに、ライ兄様が息を呑む音が聞こえてくる。


 『リファリード殿、一体何ヲ……!?』


 『リファ、危険だ! 今すぐに機体を捨てて!』


 制止の声が頭の中に響いてくるが、練り上げたマナはもう止まらない。

 以前改造した術式、その大元になったものを即興で再現し、真っ直ぐに伸ばした腕で狙いを定める。


「ライ兄様こそ、ちゃんと避けてくださいね!」


 ピンと立てた指先に光が集う。異変を察知した岩窟亀が、奈落のように暗い大口を開け、マナをかき集め始める。

 止められないと悟ったライ兄様が、他の機体も含めて退避させた。


 タイミングは、今しかない!


「くらえっ、【ヴァーディクトレイ】!!」


「Qrrrrrraaaaaa!!!!」


 私と、岩窟亀。

 両者から強烈な閃光が放たれる。


 周囲の全てを焼き尽くさんとする二条の光の帯は、ちょうど中間地点で衝突し……


 星が割れたかのような爆発を引き起こした。


「ふぐぉぉぉ目がぁぁぁぁ!!!」


 通常であればバイザーの光量調整で対処できる光の嵐も、今の”私”ではもろに受けてしまう。

 ミスティカドールの目の良さが、ここに来て私に牙を剥いてきた。


 真っ白になって戻らない視界に悶絶していると、ふと横を何かがすり抜けていった。


 『相手も目を回してる! 今なら……!』


 ”ライトブリンガー”が高速で岩窟亀へと向かっていた。

 僅かに戻りかけている視界が、橙色の軌跡と、岩窟亀の眼孔に両の腕を突き立てる鉄の巨人の姿を拾う。そのまま内側から食い破るように、2本のエネルギーの刃が、岩窟亀の頭部を引き裂いた。


「おわぁ……兄様えっぐいことしてる……」


 『それはこっちのセリフなんだけどね、リファ』


 残心を取っていたライ兄様の機体が、次の獲物を見定めるようにゆっくりと私へ向かう。

 どうにかして逃げたり誤魔化したりしたいが……先ほどの【ヴァーディクトレイ】で機体のマナを使いすぎたせいか、それとも”ライトブリンガー”から発される狩人の気配に呑まれてしまったのか、うまく身体が動かない。


 『機体から立ち上る、通常の灰色じゃない、虹色の陽炎……一年前の事件と同じだ。つまり、あれだけ”やめろ”と言われておきながら、またやった(・・・)ということだよね、リファ?』


「あー、いや、えっとぉ……」


 尻餅をついて後ずさるだけの私を、無機質なスリットカメラが、異様な圧を掛けながら見下ろす。


 『しかも、戦術級術式の【ヴァーディクトレイ】を、魔装の補助なしに使った。これがどれだけ脳に負担をかけるか、知らないわけじゃあないよね?』


「はい……」


 どんどん縮こまる私と、相反するように圧を増していくライ兄様。

 2本の光剣をだらりと下ろしたその姿は、さながら”白い悪魔”というべきか……


 『何か、申し開きはあるかな?』


「ごめんなさいでした……」


 気がつけば、機体との同化は解け、虹色の陽炎も消え去っていた。

 魔獣には打ち勝ったが、ライ兄様の圧には完全に敗北してしまった。今の私は情けない声をあげながら腹を見せる小型犬と大差ない。


 『あノ、それはいいんですガ、一旦ここから離れませんカ? 他の魔獣が寄ってきてしまいまス』


『……そうですね、そうしましょう。リファ、この話は一旦後だ』


 アルグレアス氏の助け舟で、なんとか私は一命を取り留めることができた。

 この恩は、遺跡探索で目一杯成果を見つけることでお返ししよう……!


 無茶をさせたせいでひどく軋む”トレイラス”をなんとか繰り、全員でその場を後にした。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ