第11話
”トレイラス”と邂逅してから数日。
調査隊の面々と顔合わせをしたり、ライ兄様と打ち合わせをしたりして、着々と準備を進めてきた。
ライ兄様は、調査隊の護衛という扱い。私は調査隊の隊長という立場に収まるらしい。
「私が隊長ぅ……? 考古学の知識なんて皆無ですよ?」
「あくまでも形式上の隊長だよ。こういうのは貴族の関係者が務めることが多いんだ。威厳とか立場とか、そういうものらしいよ」
「はぇ〜、そういうもんなんですね」
そんな会話もありつつ、ついに調査の当日になった。
”深淵の森”の前には、6機のミスティカドールが並んでいた。
ライ兄様の”ライトブリンガー”、私の”トレイラス”。
そして調査隊が乗り込む、4機の”エクスプローラ”だ。
”エクスプローラ”は、遺跡発掘等に使われるミスティカドールだ。”作業機”に分類される。全体的に軽量に仕立て上げられており、またマニピュレーターの動作精度とセンサー機器類の精度が高い、探索や発掘に向いた機体だ。
『皆様、本日はよろしくお願いしまス』
”エクスプローラ”のうちの1機から通信が入る。今回の調査隊のリーダー、アルグレアス氏だ。
特徴的な語尾の長身で痩せぎすの男性で、国内を巡って様々な遺跡の調査発掘を行なっているらしい。
今回の遺跡は、以前侍女の1人が我が家の資料室で見つけた、古い地図に描かれていたものだという。
その報告を聞いた父様が、ベテラン研究者であるアルグレアス氏を呼び寄せた、というのが経緯だ。
『件の遺跡までハ、ミスティカドールの足で約3時間の場所にありまス。ただ……』
アルグレアス氏の乗る”エクスプローラ”が、私の方をチラリと向く。
『リファリード殿の機体が常歩しかできないと聞きましタ。なのデ……早く見積もってモ、5時間以上はかかるかと思われまス』
「面目ない……」
ミスティカドールは、調弦率が低ければ、それ相応の動きしかできない。
私の今の調弦率、大体1〜3%程度だと、普通に歩くとか、少し屈むとか、そのくらいの動きしかできないのだ。
通常、このような行軍の時は、ミスティカドールに備え付けられた中速巡航機能を用いて、それなりの速度で進むのだ。凡その体感だと、時速60km程度で突き進んでいく。
だが、低調弦率の常歩は、せいぜいが時速30kmちょっと程度しか出ない。かなり鈍足になるのだ。
最も、調弦の逆……”ナイトイーグル”に乗った時のあの現象を起こせれば、自由に動けることだろう。
『それト、”深淵の森”には魔獣も多く棲息すると聞きまス。その対処はライルネント殿にお任せしまス』
『任せてください』
”ライトブリンガー”から、ライ兄様の頼りになる声が送られてくる。ライ兄様の実力を鑑みれば、一調査隊が雇うにはとても豪華な護衛だ。
大抵はミスティカドールを個人で所有している傭兵に依頼を出すらしい。その辺の斡旋システムもあるようだが……ぶっちゃけそのあたりは興味ないのでよく知らない。
『それでハ、時間も押してますし出発しましょウ。道中で改めテ、遺跡について説明しまス』
8機のミスティカドールが、深い森へ向けて歩み始める。
ライ兄様が先頭。私は後ろから3番目に配された。
『まずハ、遺跡の概要についてでス』
アルグレアス氏から通信が入る。
今回の目的地である、前文明の遺跡についてだ。打ち合わせの時点で聞いてはいたが……専門用語が多すぎてよくわからなかったので、正直とても助かる。
『これから向かう遺跡ハ、おそらく前文明の軍事施設だと思われまス。前文明でハ、軍事系施設の殆どを地下に建造していましタ。その理由はまだ判明していませんガ、隠蔽、あるいは防衛のためだったと推測されていまス。そしテ、今回の遺跡も地下にあるだろうと推測されまス』
「なぜ地下にあるとわかったんですか?」
『ミスティカドールによる光学望遠、及び術式による地上走査に引っ掛からなかったからでス。ケルビーニ伯爵家で見つかった資料によれバ、あの位置に何らかの施設があることは確実でス。ガ、目視と地上の走査で見つからなかったのデ、地下にあると推測されるのでス』
不意に浮かんだ疑問を投げかけてみれば、興味深い回答が帰ってきた。
まさか、ミスティカドールでそんなことができたなんて……!
光学望遠……”ナイトイーグル”のスコープユニットのようなものがあるのだろうか。はたまたそれ専用のミスティカドールがあるのだろうか。それに、地上を走査する術式があるのも初めて知った。
打ち合わせで聞いてなかったのかって? 多分寝てたので聞いてない。
『地下遺跡となれバ、地表部分は土壌で覆われているのが容易に想像できまス。なのデ、最初は地面を掘る作業から始まります。それで運よく入り口を引けれバ、即時探索に移れまス……ガ、外れた場合が悲惨ですネ』
そういえば、事前にもらった資料には、「調査の前準備」という項目で数日分を消化する予定表が組まれていた。てっきり遺跡近傍に簡易拠点でも作る時間なのかと思ったが……まさか、土木作業に充てられていたとは。
……”土木作業”?
「あの〜、もしかしてなんですけど。その掘削中って、私は何をすれば……?」
『近くで立って見ていてくださイ』
「あ、はい……」
案の定、私は戦力外らしい。多少なりとも役には立ちたかったが……今の状態では難しいか。
というか、おそらく数時間はかかるだろう掘削作業をずっと何もせずに見ているのは、あまりにも暇で気が狂ってしまうかもしれない。普通に嫌だ。
「せ、せめて見張りとか?」
『ライルネント殿の機体の方ガ、優秀なレーダーを有していまス。意味はないでしょウ』
「そんなぁ……!」
本格的に私のやることがなさそうだ。
こんなことなら、月刊ミスティリアのバックナンバー全巻でも持ってくればよかった……!
『っ! 敵襲!』
突如、ライ兄様の鋭い声がコックピットに響いた。
その瞬間、”ライトブリンガー”は前方に立ち、6機の”エクスプローラ”は、私を中心に散開した。
魔獣が襲ってきた時用に打ち合わせておいた陣形だ。
”ライトブリンガー”が敵の矢面に立ち、その後方で他の機体が散開する。仮に後ろまで敵が抜けてきた場合でも被害を減らすためだ。
私が中心になるのは、単純に動けないからだ。調弦率が低ければ、散開なんていう高度な動きはできない。
なので本来は、私はここで転回し、逃げるべきなのだが……
「どうせだし、いっちょやったりますか!」
自分を外側へ引っ張る力に身を任せ、機体と深く一体化する──




