第10話
庭師さんに謝り倒してなぜか飴ちゃんをもらった後、私は父様の執務室へと突撃していた。
「父様っ! 遺跡で云々かんぬんって聞きました!!」
「その前にまずはノックをするところから覚えようか」
「ごめんなさいっ!」
早速怒られてしまった。でもあんな話を聞いて落ち着いてもいられるわけがない。
ワクテカが収まらず少し跳ね上がりながら、父様に迫っていく。
「それでそれで、私も遺跡に向かっていいんですよね!」
「あぁ。お前も貴族の端くれだからね。一度は見ておくべきだろうと判断した。安全上のことも考えて……正直気が進まないが、リファの乗るミスティカドールも用意してある」
「ほあっ」
わたしの、みすてぃかどーる。
わたしがのる、みすてぃかどーる。
「……リファ? 聞いているのか?」
「はっ! すみませんセツナの間トリップしてました!」
「とりっぷ……? まぁ変なことを口走るのはいつものことか」
あれ、もしかして私、父様にも変な子って思われてる?
誠に遺憾だけれど反論できる材料がない。
「先日、中古の”トレイラス”が1機手に入ったんだ。”教習機”であれば滅多に事故は起こらないだろう」
「”トレイラス”!!」
”トレイラス”は、この国で最も一般的な”教習機”だ。
武装は皆無。運動性は一般的な中量級”突撃機”の7割程度。装甲も一発殴られればすぐにひしゃげる程度。ぶっちゃけ戦闘には全く適さない。なんだったらパワーも全然出ないので、”作業機”にすらなれない。
その代わり、圧倒的な生産性と整備性を持っている。
「初心者が乗っても事故になりにくく、仮に事故が発生しても簡単に修理できる」と、初心者用の機体として確固たる地位を築いているのだ。
「当然、ライルの”ライトブリンガー”も同行する。リファが事故を起こしそうになったら、即座にその頸を刎ねるよう伝えてある」
「すっごい物騒な言い方しますね父様」
「……本当は、リファをミスティカドールに乗せるのは、私は反対だったんだ。だが、義父上とララトリアから、もういいだろうと押し切られてしまった……」
父様は頭痛を堪えるように俯いていたが、対照的に私のテンションは爆上がりしていた。
一年にも及ぶ雌伏の時を耐え忍び、ついに”ミスティカドール接近禁止令”が解除されるのだ……!
あの時暴走させてしまったのを、ほぞを噛み枕を濡らして反省し続けたあの夜が報われる……!
「もうこの際、”ライトブリンガー”の手のひらに乗るだけでも、太ももの整備ハッチに乗り込むだけでもよかったのに……まさか、ミスティカドールに乗せてもらえるとは……っ! 嗚呼、生きててよかった……!」
「そ、そんなにか……? あと整備ハッチの中に潜り込むのはやめなさい」
父様がかなり引いている上に何かほざいているが、私にとってはそれほどに大きな出来事なのだ。
生きる意味が、光明が、私に降り注いだのだから!!
「早速ドックに行ってきますね!」
「あっこら! まだ話は……」
今はただ、ミスティカドールしか目に入らないとばかりに、父様の執務室を飛び出していった。
すぐに父様に捕まり、お説教を受けたのはまた別のお話。
◆◇◆◇◆◇
頭頂部に漫画のようなタンコブを拵えながら、私はミスティカドールの整備ドックへとやってきた。
ここにくるのも、あの事故以来初めてなので約1年ぶりだ。あれ以前は毎日のように入り浸っていたことを考えると、我ながらよく我慢したものだと感心する。
鉄とオイル、そしてマナの匂いを感じながらドックへと踏み入れる。
そこには、以前同様、”ナイトイーグル”、”ガイアクリーヴァ”、”アイギスクロス”、”フラワリング”、”ライトブリンガー”が、それぞれハンガーに佇んでいた。
あの時全力で破壊してしまった”アイギスクロス”と”ライトブリンガー”は、無事に修理されたようで、以前と変わらぬ面持ちのまま整備を受けていた。
「はぁ〜……この空気、この匂い……達しそう……」
「リファ、今なんて言った?」
「いえ何も?」
恍惚としていたのを父様に見咎められかけたが、なんとか誤魔化した。
そうしてドックを見回していくと、端のハンガーに見慣れぬ機体があった。
武装も何もなく、カラーも保護塗装以上は何もなし。他の機体と比べると細く、装甲も最低限しかついていない。どう考えても生み出すパワーはあらゆる機体に劣っているだろう。
その代わりとして、低い調弦率でも十全に動作し、事故を起こしづらい設計になっている。
初心者が乗り込む”教習機”として過不足ない性能を追い求めた、誰もが一度は乗り込む機体。ミスティカドールを語る上では絶対に外せない、間違いなく歴史に名を刻む、唯一無二の名機。
「”トレイラス”……!」
私が乗り込む予定のミスティカドールが、そこにあった。
この国のミスティカドール乗りたちの中で、”トレイラス”に乗ったことがないという人物は、よほどのことがない限りいないだろう。ほぼ全てのドール乗りたちの最初の相棒であり、教師だ。
「もともと、昨年の暴走事故の時も、”トレイラス”に乗せる予定ではあった。他家と予定が被り、借り出すことができなかったのだが。どうせリファは、10歳の適性検査で異様な数値を出し、学園へ行くことになるだろうから、せめて”トレイラス”程度には乗せておかねばなるまい……というのが、義父上やララトリアと話し合って出した結論だ」
「父様は私のことなんだと思ってるんですか?」
難しい顔をして黙り込んでしまった。黙秘は悪口と取りますよ父様!




