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疲れたおっさん、AIとこっそり魔法修行はじめました  作者: ちゃらん


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第93話 この依頼は受けるべき...か?



 テーブルに置いたノートPCの画面には、一枚の古びた壺の写真。

 ひび割れた表面、うっすらとした黒ずみ。

 ただの古道具に見えなくもないが、背筋にひやりと走るものがある。


「……これ、受けるべきか?」


《曰く付きの可能性は高いです。ただ、写真だけでは断定できません。現物を確認する必要があります》


「確認って……受け取った瞬間にドカンとか、やだぞ」


《結界で二重に隔離すれば直接被害は防げます。問題は“触れる前”にどこまで制御できるか、です》


 リクの声はいつもどおり落ち着いていた。

 俺の方は胃が重くなっていく。


「まぁ……生活のためには、危ない橋も渡らないとってか」


《ただし、事前準備を怠らなければリスクは最小化できます》


「お前、そういう冷静なとこが逆に怖いんだよ」



 窓際でカラスが羽を揺らす。

『クァッ……楽しませてもらおうではないか』


「絶対に楽しむな!」

  



 荷物が届くまでの間に外壁の塗装だ。


 売家の屋根でやった防水塗装の感覚を思い出しながら、太郎は壁の前に立った。

 外からは隠蔽でボロい社宅に見えているが、実際には黒一色の外壁がどんと構えている。

 正直、真っ黒は気が滅入る。だからといって派手に変えるつもりもなかった。


「そういや材料屋で白の遮熱塗料を仕入れてあったな。……まぁ試してみるか」


《下塗りの代わりにそのまま散布して問題ありません。ただし黒下地ですから、発色は変わるはずです》


「黒に白か……グレーになるかな」


 バケツの塗料を念動で持ち上げ、霧状に散布する。

 売家の屋根での経験から魔力の振動数はすでに調整済みだ。

 霧はふわりと壁面に広がり、リペアで補修した傷跡にもしっかり馴染んでいく。


 一度塗りを終えた段階で、色がはっきり変わっていることに気づいた。

 漆黒だった壁が、落ち着いたグレーに。


「……おぉ、思ったより悪くないな」


《下地が透けています。中塗り一回で止めると、このまま“深めのグレー”仕上げになります》


「真っ黒より柔らかいし、白より汚れ目立たないし……これでいいや」


 その後、塗り残しやムラを確認してから二度目の散布。

 ただし完全に白にせず、透け感を残す程度で止めた。


《はい、防水・断熱・遮熱、すべての効果を確保できています》


「なるほどな……現実なら下塗り・中塗り・上塗りで結構な値段になるコースだっけ」


《太郎さんの場合、材料費のみ。節約効果は計り知れません》


「社畜感覚で言うと……サービス残業を取り返してる気分だわ」



 並行して、業者オークションからジャンク品の仕入れも行い、ネットオークションとサイトの更新も進む。

 残っている修理したブランド品も、リクが出品。

 俺は撮影と梱包担当だ。


「お、売れた!」


《即決落札です。これで今月分の生活費は確保できそうです》


「マジか……変な汗出てきた」


《現実感が出てきた証拠です》


 画面に次々と落札通知が流れる。

 社畜時代には絶対に味わえなかった感覚だ。



そして――その日が来た。


 配送業者が荷物を抱えて敷地に入った瞬間、空気が変わった。

 胃の奥がぎゅっと縮まるような、嫌な気配。


《来ました。結界、展開します》


「俺もやる」


 二重の結界が荷物を包み込む。

 業者は何も気づかない。笑顔で伝票のサインを受け取って去っていった。


 


 結界の内側で、俺は息を整えた。

「……間違いなく呪物だな」


 念動力で箱を開ける。

 中から出てきたのは、あの写真どおりの壺。


 ただし――壺の表面をムカデや蜘蛛、蜂、蛇が這い回っていた。

 実体はない。幻覚のように、黒い影が蠢いている。


「っ……気持ち悪ぃ……!」


《これは中国の蠱毒に似た呪物でしょうか。クリーンをお願いします》


「クリーン!」


 魔力を流し込むと、表面を覆っていた黒い影が霧散する。

 続けて両手を合わせ、強くイメージ。


「浄化――!」


 光が走り、蠢いていた気配が完全に消え去った。


 窓辺のカラスが静かに目を細める。

 (……こやつはやはり、人の域を既に超えておるな)




 残ったのは、ただの壺。

 だが、ただの古道具とは言い切れなかった。


《スキャン完了。嫌な魔力は消えています。むしろ……どこか穏やかな反応が出ています》


「……あれ? これ、ニワトリの気配に似てないか?」


《確かに敵意はありません》


「でも、何に使うんだ……?」


 


 考え込む俺に、カラスが口を開いた。


『その壺に、お主のいつもの水を溜めておけ』


「は?」


『試してみればわかる』


 


 ニワトリが「コケッ」と鳴き、庭先で羽を揺らした。

 どうやら、次の実験が始まるらしい。


 

嬉しいことにレビューをいただきました! 感謝です!

めちゃくちゃ励みになりましたし、「おすすめです!」なんて言葉をいただいて泣きそうです。。。

もし他にも「ちょっと書いてやるか~」という優しい方がいたら、レビューを書いていただけると作者は喜びの舞を踊ります!今度は踊る!!w

(もちろんブクマや感想も大歓迎です!)

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