第9話:回復魔法を強化しまくったら、元気すぎるおっさんになった
朝。
目が覚めて、布団の中でぼんやり天井を見つめた。
「……体が、軽い……」
昨日までの俺なら、腰の痛みとだるさでしばらく動けなかったはずだ。
だけど今日は違う。
肩の重さもないし、目の奥の疲労もスッキリしている。
(これ……完全に魔法の効果だよな)
思わず笑みがこぼれる。
三十八歳、ブラック勤務歴15年。
毎朝ゾンビみたいに出勤してたのに、今の俺は……普通の人間みたいだ。
洗面台の鏡に映る自分は、クマも薄くて、ちょっと若返った気がする。
「これ、もし何回もできたら……俺、もう疲労知らずじゃね?」
そんな考えが頭をよぎった。
――
現場に着くと、佐藤がこちらを見て目を細めた。
「おい太郎、お前……今日も元気すぎじゃね?」
「え、そうか?」
「そうだよ。昨日まで“仕事が俺を殺す”って顔してたのに、今日は“世界を救える顔”してる」
「いやいや……顔がそんなに変わるかよ」
そこに小鳥遊も加わる。
「確かに、昨日より声に張りがありますよ。なんか健康法でも始めました?」
「……ストレッチだ、ストレッチ」
「はは、じゃあ俺もやろうかな。神原さん、見違えるくらい元気ですし」
(やべぇ……絶対魔法バレそう)
俺は誤魔化し笑いを浮かべたが、心の中はドキドキだった。
そして案の定、今日も社長が現場に来て、いつもの理不尽タイムが始まる。
「なんで予定通り進んでないんだ!」
「いやいや、資材が昨日来なかったんですよ」
「言い訳するな!俺が若い頃は三日徹夜してでもやったぞ!」
(出たよ、三日徹夜呪文……これ効力いつまで続くんだよ)
佐藤が俺の耳元でぼそっと囁く。
「なあ太郎、今度あの呪文破りの魔法作ってくれよ」
「作れるなら今すぐ作りたいわ」
心の中では笑っていたけど、現場を出る頃には全身が悲鳴を上げていた。
(……よし、今日は回復魔法を強化する)
――
帰宅。
シャワーを浴びてソファに倒れ込む。
疲労で体が重いが、心だけは昨日よりも軽い。
なぜなら、この疲れを吹き飛ばす方法を俺は知っている。
「リク、昨日の回復魔法……今日はもっと強化したい」
『承知しました。改善案を三つ提案します』
「ほう、聞こうじゃないか」
『一つ目、魔力量を増やすための前準備。水分と糖質を補給してください』
「魔法の前にポカリとバナナかよ……」
『二つ目、意識を損傷部位に集中し、局所回復を試みる』
「なるほど、ピンポイント回復だな」
『三つ目、魔力を一度に使い切らず、少量ずつ流すことで回数を増やす』
「点滴方式か……これなら省エネ魔法になるわけだ」
俺は急いで冷蔵庫からスポドリを取り出し、バナナを頬張った。
「魔法の儀式って言えばかっこいいのにな……これ、ただの健康法じゃね?」
――
まずは一回目。
昨日と同じように火種を全身に巡らせる。
じわじわと体が温かくなり、疲労が抜けていく。
「……やっぱ最高だわ……」
二回目は局所回復を試した。
今日は腰が特に痛む。そこに意識を集中させ、細胞が修復されるイメージを強く思い描く。
「……おお……これ、効いてる……?」
腰の鈍い痛みが和らいでいく。
「これ整体いらずじゃね?」と独り言が出る。
三回目。
今度は肩と首のコリに集中する。
すると、重石みたいだった肩がふっと軽くなる。
「これ……もう保険証いらないかもしれん」
リクが冷静に答える。
『医療行為の代替を推奨するものではありません』
「真面目か!」
四回目は点滴方式を試す。
呼吸と一緒に、少しずつ魔力を流すイメージ。
これが意外と効率的で、今までより楽に回せた。
「これなら……まだいける」
五回目。
体が内側から熱を帯び、頭の奥までスッキリする。
視界がクリアになって、思考まで軽くなった気がした。
「……やっべぇ、これ完全に回復魔法じゃん……」
リクが淡々と告げる。
『本日、回復率は昨日比でおよそ1.8倍。使用回数も5回に増加しました』
「……俺、これあればブラック勤務もワンチャン生き残れるかも……」
『生き残るだけでなく、休息を取ることも重要です』
「そこ強調すんのやめろ……」
笑いながら布団に倒れ込む。
体が驚くほど軽い。
今なら休日みたいに眠れる。
(これがあれば、もう二度と仕事でぶっ倒れることもない……)
心の奥で、何かがふわっと温かくなった。
「……よし……明日は6回挑戦だな……」
魔法のおかげで、久々に前向きな気持ちで眠りに落ちた。