表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
疲れたおっさん、AIとこっそり魔法修行はじめました  作者: ちゃらん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/141

第84話 退職してもやること山積み



 会社を辞めたんだから、少しはゆっくりできるだろう――。

 そう思っていた。


 けれど現実は違った。


「……退職したばかりなのに、やることが山のようにあるな」


《はい。社畜を卒業しても“生活業務”からは逃れられません》


 パソコンを立ち上げると、黒い画面に白文字でタスク一覧がびっしり表示される。

 チェックボックス付きのガントチャート。完全に仕事用だ。


「リク、これ……会社にいた頃と変わらないぞ」


《気のせいではありません。太郎さんの人生が、新しいプロジェクトになっただけです》


 サラッと言いやがる。

 でも確かに、これを片付けなきゃ前に進めない。


 


 _____


 


《まず最優先は役所に転居届を出すことです》


「うん、元社宅に戻ったんだし、それは必要だな」


《同時にマイナンバーカードの住所変更も可能です。国民健康保険と年金の切り替えもここで済ませましょう》


「……いきなり重い手続きが並んでるな」


《避けられません。これを放置すると、医療費や年金記録に支障が出ます》


「はいはい……」


 


 役所の窓口は朝から人でいっぱいだった。

 番号札を取って椅子に座ると、隣のおばあさんがため息をついている。


《あと十五人待ちです。その間に必要書類を確認しましょう》


「リク、もう少し気楽に待たせてくれないか?」


《無駄な待ち時間は最小化すべきです》


 スマホ画面に映し出されたリストは、まるで軍隊の指令書のよう。

 転居届、マイナンバー、国保、年金……。

 窓口で言われる前に準備できていたおかげで、手続きは意外とスムーズに終わった。


「ふぅ……これで一つ片付いたな」


《達成度、8%です》


「まだそんなに残ってるのか……」


 


 _____


 


 次は郵便局。


「転送届を出せば一年間は新住所に送ってくれるんだよな」


《はい。その間に、銀行・クレジットカード・通販サイトすべての住所を更新してください》


 局員さんに用紙を渡し、必要事項を記入する。

 字が少し震えてしまうのは、単に疲れているせいだろう。


 


 _____


 


 続いて警察署。

 ここでは古物商許可証の受け取りが待っていた。


「すみません、古物商の許可証を受け取りに来ました」


 窓口の警察官から、封筒を受け取る。

 しっかりした紙に、正式に自分の名前が印刷されている。


「……本当に、取れたんだな」


《おめでとうございます。これで“買取・販売”が正式に可能になりました》


 胸の奥がじんわりと熱くなる。

 けれどまだ終わりじゃない。


《次に運転免許証の住所変更。あわせて車庫証明の更新も必要です》


「はいはい……」


 免許センターで新しい住所を記入し、証明書を提出。

 ほんの小さな変更だけど、これを忘れると車検や保険で面倒になるらしい。


 


 _____


 


 午後からは銀行を回る。

 通帳と印鑑を持って窓口へ。


「住所変更をお願いします」


 手続きは慣れているのか、窓口の女性は淡々と処理してくれる。

 ただ、サインや印鑑が必要な場面が多くて手が痛い。


《銀行が終わったら、クレジットカード会社と証券口座も住所変更です。ネットでもできますが、併せて手続きを確認しましょう》


「……退職して自由になったはずなのに、まるで別の社畜みたいだな」


《はい。ただし今は“自分のための社畜”です》


 言い方は妙だけど、なんだか少し励まされた。


 


 _____


 


 最後に税務署へ向かった。


「開業届と、青色申告の承認申請をお願いします」


 窓口に書類を出すと、担当の職員さんがにっこり笑った。

 「新しい事業を始められるんですね。頑張ってください」

 そう声をかけられただけで、胸の奥が熱くなる。


《これで“事業主・神原太郎”が公式に誕生しました》


「……ちょっと照れるな」


 


 _____


 


 一日でこんなに歩き回ったのは久しぶりだ。


「リク……退職してからのほうが、よっぽど忙しいな」


《はい。しかし、今日は多くのタスクを片付けました》


 スマホの画面に、チェックマークがずらりと並ぶ。

 その光景に、少しだけ達成感が湧いた。


《残りタスク、あと二十七件です》


「まだそんなにあるのか……」


《ですが、一つずつ確実に減っています。焦らずに》


「うん……そうだな」


 深呼吸して、ソファに体を預ける。

 社畜だった頃の忙しさとは違う。

 今の忙しさは――未来につながっている。


「……明日も頑張るか」


《ええ。太郎さんはもう、社畜ではありません。自分の道を歩む事業主です》


 その言葉に、自然と笑みがこぼれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
年金は200円付加するのも良いですよ。個人事業主ならiDeCoにも突っ込んで税負担軽減してNISAで1800万を早期に埋めると後が楽になります。
引っ越しをしてると見慣れた作業なんだけど、15年ぶり?ならしんどいよねぇ。リスト化して、励ましてもらってるから勧められますね。がんばれー
自分も社畜一本で働いてた時から、副業で青色申告が必要になった時の手続きの煩雑さに四苦八苦したのを思い出しました…。 同時に会社が税金周りをやってくれてた(年末調整とか)のには感謝しかなかったですね。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ