表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/145

第7話 魔力があったら魔法って使えるの?


 


シャワーを浴びて部屋に戻ると、湿った髪から水滴がぽたりと落ちた。

Tシャツを着てソファに腰を下ろすと、体が重力に吸い込まれていくみたいに沈んでいく。

スマホを手に取るが、指が動かない。疲れが骨の奥にまで染み込んでいる。


「……はぁ……」


でも、やらないわけにはいかない。

これまでで感じた魔力が、また幻だったら嫌だし、何より今は練習することだけが希望だった。


「太郎さん、練習を開始しますか?」


スマホから聞こえるリクの声が、妙に冷静で頼もしい。


「あー……その前にな、ちょっと聞きたいことある」


「どうぞ」


「俺、魔力があるのは感じるんだけどさ……これって、本当に魔法になるのか?」


 


沈黙のあと、リクの声色が少し説明モードに変わった。


「もし本当に“魔力”というエネルギーが存在し、それを人間が自由に扱えるなら、理論上は魔法を使える可能性はあります」


「ほう……」


なんかワクワクする答えが返ってきた。


「現実の科学でも、“体内のエネルギーを外部に放出し、環境に影響を与える”ことができれば、魔法に近い現象は起こせると考えられています」


「……なるほど? じゃあ俺もワンチャン魔法使いってことか?」


「可能性はゼロではありません」


心臓がちょっとだけ早くなる。

ゼロじゃないなら、やっぱりやる価値はある。


 


「ただし、魔法を成立させるには条件があります」


「条件?」


「はい。大きく三つに分けられます」


 


1つ目、魔力を感知・制御できる能力。


「魔力があっても、感じたり動かせなければ使えません。血流を自分の意思で止められないのと同じです」


「まぁ……たしかに」


俺は頷きながら腹の奥を意識する。

火種はある。でも、指先にはまだ届かない。

この条件は、まさに今の俺だ。


 


2つ目、魔力を現象に変換する仕組み。


「例えば火魔法を使う場合、魔力を熱エネルギーに変換できる器官やプロセスが必要です。物理法則を書き換える、もしくは体内にエネルギー変換機構が存在することが前提です」


「俺の体……変換器官とか絶対ついてないだろ」


「未知の可能性を否定はできません」


「いや、希望持たせるのやめろ」


 


3つ目、身体の耐久性。


「大きな魔法を使うと体に強い負荷がかかる可能性があります。大量の魔力を消費すれば、生命力を削るリスクもあります」


「命削るってサラッと言うなや!」


背筋が寒くなる。

ファンタジー映画の魔法使いって、あんな軽々と火球を撃ってるのに、現実なら寿命縮むのか?


 


「じゃあさ、俺が“火の玉ボンッ!”ってやるには?」


「小規模な魔法なら比較的簡単です。手のひらを温める、空気を少し動かす程度なら、魔力を微量変換できれば可能です」


「ほほう……」


ちょっとテンションが上がる。

でも、やっぱり男のロマンといえば――


「でも俺のロマンはさ、こう……『ファイヤーボール!』って叫んでドカーンって爆発させるやつなんだけど」


「中規模以上の魔法には膨大なエネルギーが必要で、制御を誤れば危険です。現状では実現は困難でしょう」


「夢のファイヤーボールが……」


肩を落としたが、頭の中ではもう想像が止まらない。

俺が両手を構えて魔力で、現場の重量物を魔法で楽々動かす。

クレーンいらず、腰痛ゼロ、安全第一。

職場で「神原さん、魔法すげぇっす!」って拍手されて……ボーナス爆上がり……。


「太郎さん、顔がにやけています」


「お、おう……ちょっと夢見てただけだ」


俺は咳払いしてごまかした。


 


するとリクが少し間をおいてから言った。


「太郎さん、質問があります」


「なんだ?」


「あなたは魔法を使えるようになったら、何をしたいのですか?」


「え?」


「目的が明確であれば、練習計画をより最適化できます」


目的……。

俺はしばらく黙った。

頭の中に浮かぶのは、疲れ切った帰り道、寝不足でふらふらの朝、休日もつぶれる現場。


「……別にすごいことはないんだよ」


「具体的にお願いします」


「疲れずに働けてさ、ちゃんと飯食って、風呂入って、寝る時間があって……普通に笑って暮らせたら、それでいい」


言ってから、なんか少し恥ずかしくなった。

夢、小さすぎないか俺。


「目標を再設定しました。“生活効率化”を第一目的に訓練を最適化します」


「うわ、なんか言い方がリアルで余計に小さく聞こえる……」


「目標の大きさは問題ではありません。達成可能性が重要です」


「……そうだな」


 


スマホをテーブルに置き、布団に潜り込む。

天井を見つめながら、魔法でできる未来をもう少しだけ夢見る。


現場に行く前に疲労回復魔法で体スッキリ。

資材を浮かせて楽に運び、残業ゼロ。

帰ったら家族と笑って飯を食って、ちゃんと寝る時間がある。

ま、まぁそんな家族は今のところいないけど……

そんな毎日が、本当に魔法で叶うなら――


「……なぁリク、俺、変われるかな」


「可能性は十分あります。条件が揃えば、必ず」


「……そっか」


小さく笑い、目を閉じた。

明日も練習だ。

そして、いつかは――この夢みたいな日常を現実にするために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
クレーン要らずがもう少し小さくなったとしてユニック要らずに成れば企業側はユニック費用の削減と考えて精々費用の20%程度の手当てで馬車馬の様に働かせると思いますが主人公が現場監督の場合、監督が実労働する…
38歳、まだまだ若い!!と感じますが。 相方のリクのテンポいい語り口が大好物です❢
38歳とかアラフォーで体力の衰えの足跡が聞こえるような年齢になって、人間ドックでオールAじゃなくなってみ。 起きたら胃酸、腰の痛み、眠気、なんか元気が出ないみたいなことがなくなるなんて、生まれ変わり…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ