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疲れたおっさん、AIとこっそり魔法修行はじめました  作者: ちゃらん


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第66話 もう無理かもしれん――そこから始まる未来構想


 コケコッコーー!


 ……ん? またか。

 最近やたらとニワトリの声で目が覚める。しかも気のせいじゃなく、日ごとに声が大きくなっている気がするんだよな……。


 月曜の朝。

 憂鬱な気分を引きずりながら車に乗り込むと、視界の端に白い影がよぎった。


「あれ……ニワトリ?」


 ちらっと見えたニワトリは、のんきに地面をついばんでいた。

 視線を送っても、こっちなんてお構いなし。

 ただの鳥頭――きっと何も考えちゃいない。


「逃げ出したのか? ……いや、でもこんな所に?」


 気になるけど、時計を見るともうギリギリだ。

 考えてる暇なんてない。俺は急いでアクセルを踏み込んだ。


 ――ところが、走り出して数分。

 信号待ちでふと、背筋を冷たい汗が伝った。


「……おかしい。全く感知できなかった」


 結界を張ってるはずなのに、あいつの存在に一切反応しなかった。

 また“上位存在”寄り……いや、もう確実に何かおかしいだろ。


 でも――


「……ニワトリが鳴こうが、神様が覗こうが。定時出社は免れないんだよ……」


 俺はハンドルを握り直し、ため息をひとつ。

 そう、結界よりも絶対に破れないものがある。タイムカード。




出社早々、上司に会議室へ呼び出された。


『太郎くん、先週から5棟建ては順調なんだろ? なら納期、ちょっと前倒しできないか?』


「……は?」

順調だからって、それと納期前倒しは別の話だろ。


「資材がまだ全部揃ってないので、それは厳しいかと……」


『どうにかするのが君の仕事だろう?』


――出たよ。魔法の言葉「どうにかしろ」。

そんなの言うだけなら誰でもできるわ。


結局、俺はまた職人さんに頭を下げて回る羽目になった。

昼休みも削って電話して、スケジュール調整を頼み込み、菓子折り持って詫びに走る。


「……もぅ無理かもしれんな」

車の中で独りごちる声は、妙に重かった。


転職……頭をよぎるけど、三十八歳社畜おじさんの行き先なんて、あるのか?


『太郎さん、心拍数上昇。ストレス値も高めです。冗談抜きで、このまま続ければ心身に大きな負担となります』


「……やっぱリクから見てもそうか」


『はい。労働環境の改善が見込めない場合、退職を検討するのは合理的な判断です』


「でもなぁ……この歳で転職とか、条件合うとこなんて……」


『統計上、三十代後半からの転職成功率は決して高くはありません。しかし、技術職や現場管理職はまだ需要があります。

ただし――ブラック環境に戻るリスクも高いのが現実です』


「……現実的すぎて余計にしんどいわ」



 シートに頭を預け、ため息が勝手に漏れた。

 辞めたい気持ちはある。でも、また似たような地獄に突っ込むだけなら意味がない。

 そのジレンマで、心が擦り切れていく。


「なぁリク。……俺、他に道ないのか?」


 思わず漏れた問いに、AIの声が静かに返ってくる。


『道はあります。太郎さんの“魔法”を活かせる方向性を考えるべきです』


「魔法で……仕事?」


 思わず苦笑がこぼれる。そんな漫画みたいな――いや、実際もうやってるんだけど。


『壁や配管、電気設備を修復する力は非常に強力です。しかし、それを公にすると法律や資格の問題が発生します』


「……建築士とか、工事許可とか、だろ? そこは素人でも分かる」


『はい。ですが“物”の修理であれば話は別です。家具、家電、日用品――これらは資格なしで修理が可能です。

“思い出の品を直す”という名目なら、魔法を使っても怪しまれることはありません』


「……思い出の品、ねぇ」


 心の中で、古びたラジカセを直したときのことを思い出す。

 傷だらけでも、大事にされてきた道具が息を吹き返す瞬間――あの時の感触は、ちょっと嬉しかった。


『ネット上には、破損した小物や電化製品を修理してほしいという依頼が一定数あります。

ハンドメイド作品、楽器、古い時計、オーディオ機器……対象は幅広いです』


「おお……そうか、そういうのか」


『匿名で受注・配送して修理、返送する形態なら、自宅にいながら成立します。

太郎さんのスキルを最大限に活かしつつ、法的リスクも回避できます』


 ――ネットで修理。

 職場で「どうにかしろ」と怒鳴られるより、自分の手で“壊れたものを直して喜ばれる”方が、ずっと健全じゃないか。


「……悪くないな」


 自分の声が、少しだけ明るく聞こえた。

 今はまだ構想段階。でも、やってみる価値はありそうだ。


『副業として始め、需要を確認してから本格的に移行することも可能です』


「おっ、保険もかけられるってことか。さすがリクだな」


 車の窓から見える灰色の空を見上げる。

 社畜人生に閉じ込められた自分に、ようやく別の道が見え始めた気がした。


――転職か、独立か。

まだ答えは出せない。けど、この“修理屋”という選択肢、頭の片隅に置いておいて損はなさそうだ。



読んでくださりありがとうございます。

これまで「社畜あるある」やリノベ中心の話でしたが、ここからは少しずつファンタジー要素も強くしていきます。

もちろん日常や社畜目線も残していきますので、変化も含めて楽しんでいただければ幸いです。

迷走するかもしれませんがゆる〜くお付き合いいただければと思います。

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― 新着の感想 ―
一度した契約の前倒しとか。なんで?!
太郎に必要なのは「休息」です、社畜あるあるは程々にしないと悲しい結末しか得られない。 朝ユックリ目を覚まし、ノンビリ珈琲でも飲みながら、今日の予定を考える…そんな一時が有っても良いじゃない? リクと漫…
これがノーと言えない日本人の姿… 最近の若い人なら気にせず不平不満を口にするんだけど、相も変わらずなこの社長を見るに新人が入ってきてないのだろうか? ますます先の無さそうな会社ですね…
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