第61話 現実を知って心折れかける
※この作品には、現実では法律違反となる建築行為の描写が登場します。
すべてフィクションであり、実際に行うと危険かつ違法です。
どうか絶対に真似しないでください。
「太郎さん、開始する前に計画を立てましょう」
リクの声が静かに耳に響いた。
……計画? いやもう、片付けも済んだし、現場監督のノリと勢いでガンガンDIYすればいいんじゃね?って思ってたんだけど。
『まず初めに。RC造、三階建て、地下1階。
この物件をフルリフォーム業者に依頼した場合――一億円以上の費用が必要です』
「…………は?」
脳が一瞬止まった。
え? 一億って、あの、ゼロが八つ並んでるやつ?
RC造の現場もいくつか担当したけど、金額感は職人や設計士に任せっきりだったから、まともに考えたこともなかった。
「いやいやいや、待て待て待て。俺、住宅メインの現場監督だから!
鉄筋の配筋チェックとかはしたけど、計算とか耐震基準とかは専門外なんだって!
リノベでそんなにかかるとか、もう心折れそうなんだけど……」
『さらにアスベスト問題、耐震問題なども追加されます』
「うわぁ……やめて。もうやめて。トドメ刺さないで……」
心のHPがゼロを突き抜けてマイナスに振れそうになったところで、リクがさらっと解説を始めた。
『実際に、古くなった県営住宅などが売りに出され、一般企業が落札。
最低限の耐震補強とリフォームだけ行い、格安で賃貸に出されるケースも存在します』
「……あ、それニュースで見たわ。
“古い団地がリノベしておしゃれカフェに!”ってやつだろ。
でもアレ、元手は会社の金じゃん。俺の財布、カスカスなんだけど」
ため息が勝手に漏れる。
『太郎さんの場合は、更地にするにしてもリノベーションするにしても、魔法を使用すれば費用を極端に抑えられます。
土地代だけでプラス収支でした』
「おお……魔法チート様々だな。
正直、RC造の補強なんて俺ひとりじゃ手に余るけど……リクがいるなら話は別か」
『ただし条件があります』
「はい出た。そうだよな、楽な話には裏がある」
『間取り等を変更する場合、建築士などの資格が必要です』
「……あー、それ聞いたことあるな。
現場で“耐力壁いじると確認申請いるから触るなよ”ってよく言われてたわ。
でも俺、資格持ってないし……やっぱそこ踏み込むとグレーどころか真っ黒じゃない?」
『正確には、壁紙の張り替えや床の貼り替え、設備交換程度なら問題ありません。
しかしRC造の耐力壁を抜いたり、間取りを変えたり、耐震に関わる部分をいじるのは違法改築になります』
「やっぱそうだよな。
俺、知らんうちに犯罪者コース踏みそうになってたのか……」
『ご安心を。自宅として使用する場合は、役所に確認申請を出さなければ分かりません。
ただし売却時には“違反建築物”と判定されるリスクが非常に高いです』
「うわあ……売ろうとしたら一発アウトか。
やっぱ資格の壁デカいな」
『ですので、売却を考える場合は更地に戻して土地だけを売る必要があります』
「グレーどころかほぼブラックだろそれ!
……いやでも、隠蔽カードでごまかせたりしない?」
『ええ。隠蔽カードを使えば、施工中も施工後も発覚する可能性は極めて低いです』
「こっわ! そんな使い方したら完全に裏社会の建設業者じゃん!」
『ただし、スキャン魔法を使用して強度の確認は必須です。
計算、計画はお任せください』
「……ってことは、自宅にするなら、自重無しで夢のマイホームにしてもいいってことだよな?」
『はい。アーティファクト級のカードも使用して、誰にもバレない秘密のお家も作成可能です』
「……おおお! やる気出てきたぁぁ!」
さっきまで沈んでたのに、急にテンションMAX。
俺、マイホーム作るわ。もう誰にも止められん。
『ではまず資金面を確認しましょう』
「げ、やっぱ金か……」
『現在までの費用です。
物件土地購入で580万円。
足場代金が70万円。
バッカン(廃材コンテナ)が5万円。
ここからさらに費用が加算されます』
「うわぁ……聞きたくなかった……」
『残置物の販売予定額が約410万円程度と予想されます。
合計すると――マイナス245万』
「現実ゥ……」
頭を抱えつつも、不思議と心は折れ切っていなかった。
だって、今回は“夢のマイホーム”というエサがぶら下がっているから。
現実は厳しいけど――魔法があるなら、俺だって夢くらい見ていいだろ。
作者より。確実にお読みください。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
今回の話では「資格なしの改築」など、現実世界では完全にアウトな工事について触れました。
これはあくまで物語上の演出であり、作者も主人公も違法行為を推奨する意図は一切ありません。
実際に同じことをすれば、建築基準法違反や重大な事故につながります。
どうか現実で真似はしないでください。
太郎が無茶をできるのは「魔法」と「フィクション」の世界だからこそ。
読者の皆さまには安心して笑っていただければ嬉しいです!
今、木造に変更しようか結構本気で悩んでます。笑




