第59話 呪物の果てに
『警告。今の波長……以前の“ランタン”に酷似しています』
リクの声を聞いた瞬間、太郎は無意識にあの忌々しいランタンを思い出し、唇を噛んだ。
「……また、あの手のやつか」
再度スキャンを走らせると、魔力の発生源がはっきりと浮かび上がる。棚の奥に眠っていた未開封のカードパック。そこから嫌な気配が漏れ出していた。
「……元凶はあれか」
息を整え、結界を展開。パック全体を光の膜で包み込み、念動力で慎重に引き寄せる。指先に冷たい汗がにじむ。
結界ごと机の上に置き、念動力でパックを開封した。
――次の瞬間。
黒いモヤがブワッと吹き出し、結界の膜を押し破らんと暴れだした。
「っ……!」
『太郎さん、魔力を込めてください!強化しないと破られます!』
「わ、わかってる!」
言われるまま、額に汗を滲ませながら魔力を注ぎ込む。膜は一瞬軋んだが、厚みを増して光を強めると、やっと黒いモヤが押し返され安定した。
だが中は黒い霧で覆われ、何も見えない。
「……クリーン」
唱えると、白い光が中を満たし、モヤが徐々に薄れていく。
――そして。
「……っ!」
そこに浮かび上がったのは、不気味な小さな“パーツ”だった。
鎖につながれた両腕。
同じく鎖につながれた両脚。
そして、小さな頭部。
それらが結界の中で宙に浮き、バラバラのまま震えていた。
「……なんだよこれ。合体するのか?」
じっと観察してみたが、腰にあたる部分が存在しないため、どうやっても組み合わさることはなさそうだった。
「……なんか、昔こんなのあった気がするな」
妙な既視感に苦笑しつつ、太郎は深呼吸して手をかざす。
「……よし、浄化だ」
ヒールの魔力を強くイメージし、光を注ぎ込む。
パーツはひび割れた陶器のように亀裂を走らせ、崩れるように消えていった。
漂っていた嫌な気配も、すっかり跡形もなくなっている。
残されたのは、机の上に並んだ五枚の白紙カードだけだった。
「……また呪物かよ。いい加減にしてくれ……」
拾い上げると、ただの白紙にしか見えない。けれど確かに中に魔力が宿っているのがわかる。不気味さはなく、嫌な感覚もない。
「とりあえず……また結界で囲っとくか」
そう言って結界を展開すると――
カードがひとりでに輝き、結界の光を吸い込んだ。直後、表面に結界のような絵と文字が浮かび上がる。
「……なんだこれ?」
そこには確かに説明があった。
•任意の範囲に結界を発動する
•結界の強度は任意で変更可能
•持続時間は込めた魔力によって変化する
「……マジか。カード一枚で結界を使えるって?」
『はい。異世界アーカイブより魔道具に変質したと考えられます。今後の使い方次第で非常に強力な武器になるでしょう』
リクがさらりと言う。けれど太郎の背筋に冷たい汗が伝う。
「便利すぎて逆に怖いな……。あと四枚も残ってるんだけど……」
『扱いを間違えると大変なことになりますので、慎重に』
「ってことはさ……このカードに魔力だけ込めておけば、この家に結界をずっと張っておけるってことだよな?」
『はい。ただし注意点があります。魔力痕跡までは隠蔽されません』
「……ダメじゃん」
肩を落とす太郎に、リクがさらりと提案してくる。
『ですので、二枚目のカードには“隠蔽”をインプットすることを推奨します』
「おお……! 二枚同時に使えば結界と隠蔽で完璧ってことか」
『はい。ただし一度魔法をインプットすると、上書きできない可能性があります。結界のカードで検証を行いましょう』
「なるほどな。……よし、試してみるか」
⸻
検証開始。
机に置かれたカードに、太郎がほんのわずかに魔力を流す。
「……こうか?」
淡い光が広がり、部屋の中に結界が展開された。
『結界発動を確認。太郎さん、状態識別は可能ですか?』
「うん……なんとなく、わかるな」
『では強度を上げ下げしてみてください』
「おお……おおお!? すげぇ、ちゃんと変わる!」
何度かの試行の結果、リクが淡々とまとめていく。
•持続時間:太郎の魔力5%で最大72時間
•強度:常時展開の結界と同等
•状態識別:可能
•結界内の温度調整:可能
•任意で強度・状態識別・温度調整を操作可能
•持続時間は込めた魔力量に依存、変動で短縮される
•ただし、遮音・魔力隠蔽などの追加効果は不可
『以上の結果から、太郎さんの“結界”のイメージがそのまま機能として付随していることがわかります』
「俺のイメージが……そのまま……? なんか怖いな」
⸻
『では、二枚目のカードには“隠蔽結界”を推奨します。ただし、イメージをもっと広げてください』
「広げるって……例えば?」
『魔力隠蔽、遮音、偽装、視線誘導、気配遮断、光学迷彩……など』
「……おいおい、そんなの全部入ったら、ただのチート要塞じゃねぇか!」
『ご安心ください。検証する価値はあります』
「いや、ご安心できねぇよ……まぁ、ものは試しだな。よし!」
深呼吸し、太郎はリクに言われたものを一つひとつ強くイメージする。魔力を流すと、カードが淡く光り、吸い込むように輝きを飲み込んでいった。
浮かび上がったのは、まるでモヤが覆うような絵柄。そして説明文には――先ほど列挙した効果のすべてが記載されていた。
「……マジかよ……」
『異世界アーカイブによると、これはアーティファクト級の魔道具です』
「アーティファクト……って俺、またヤバいもん作っちまったんじゃ……?」
⸻
そんなことをしているうちに――
「……コケコッコー!」
遠くからニワトリの鳴き声が響いてきた。
「うわ、もう朝かよ……。やべぇ、早く寝ないと明日起きられねぇ」
とりあえずクリーンをかけ、ショートスリープに切り替える。意識がスッと落ちていき、太郎は机に突っ伏したまま眠りに落ちた。




