表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
疲れたおっさん、AIとこっそり魔法修行はじめました  作者: ちゃらん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/135

第49話 ビフォーアフター、魔法でやったらこうなった



 売家の真新しい天井が視界に映る。


 完成間近の静かな家に一人で過ごす夜は、妙に落ち着く。

 そして迎えた朝――今日で本当に終わらせる。


 

 昼からは、不動産屋の田野さんが来る予定になっている。

 仕上がった姿を見てもらう初めての日だ。

 だからこそ、細かい部分まで完璧にしておきたい。



 まずは自分の荷物をすべて車へ積み込む。

 寝袋も道具も、飲みかけのペットボトルまで残さず片付けると、室内は見事なまでに何もない。

 広い空間が、余計に完成度の高さを際立たせて見せてくれる。


 


「……さて、仕上げだな」

 

 


 壁の小さな凹みや、床の擦り傷もリペアで補修していく。

 木目の流れをなぞるように魔力を送り込めば、すっと表面が元の姿に戻る。

 その感触が、何度やっても気持ちいい。


 


 建具の動きもチェック。

 わずかに重く感じる引き戸は、クリーンでレールの汚れや埃を一掃し、

 リペアで微細な歪みを整えると、驚くほど軽く滑るようになった。


 


『全ての扉と窓の開閉動作、正常値です』

「よし……これで細かい部分も完了だな」


 

 空になった部屋に、クリーンを発動。

 天井から床まで、見えない埃や細かなゴミ、指紋の跡まで残らず消し去る。

 窓ガラスは光を吸い込み、磨きたての鏡のように外の景色を映し出した。


 作業の手を止め、ふとランタンのことを思い出す。

 あの時のことがあるから、“悪いもの”は見えなくても排除しておきたい。


 


「……最後にやっとくか」


 


 敷地全体に向けてヒールを展開する。

 回復というより、強い浄化のイメージを込めた光が地面からじんわり広がり、

 家の隅々まで包み込んでいく。


 


 結界内の感知に反応はなし。

 虫一匹いない静けさと澄んだ空気だけが、そこにあった。


 


『……これで、本当の完成ですね』

「ああ」



『ちなみに、太郎さん。この規模のリノベーションを一般的な施工会社がやった場合――最低でも一ヶ月はかかります』

「……え、そんなに?」

『はい。あなたは1人で完成させています。異常なスピードです』

「……それは、あんまり公言しない方が良さそうだな」


 長く続いた作業の日々が、ようやく終わったという実感が、静かに胸を満たしていく。



《総合評価:外観90点、内装88点、庭95点》

「庭が一番高いのか」

《外観評価に寄与する割合が大きいです》



 リクの淡々とした採点を聞きながら、頭の中にこの一ヶ月弱の作業が映像のように蘇ってきた。


 


 最初に手を付けたのは床だった。

 断熱材を敷き、コンパネで下地を固めたあの日。

 仕事帰りの疲れた体でも、常時発動の身体強化とセルフヒールで何往復もできた。

 次の日にはフローリングを張り、クリーンで粉塵を吸い取りながら作業を進めた。


 


 夜になってからは草抜き魔法を試し、庭の雑草を一気に消し去った。

 あの時はまだ庭が荒れ放題で、地面の形すら分からない状態だったっけ。


 


 壁の下地を直し、クロスを貼り替えた時は、魔法で乾燥を加速させたおかげで数日分の時間を短縮できた。多田さんが帰ってくるまでのタイムアタックはほんとに頑張ったな、


 外装と屋根に移った時は、結界で風を防ぎ、隠蔽で魔力の気配を隠しながら防水塗料を塗った。


 


 屋根の仕上げ、防水処理、外壁塗装が終わった時は、外から見ても「新築です」と言えるくらいに変わった。

 その頃ちょうど、水回り工事で業者が入り、キッチンや風呂、トイレ、洗面が新品になった。


 

 内部の建具を整え、動線を確認したら、いよいよ外構と庭に着手。

 草抜きで整地し、防草シートを敷いて人工芝を張り、砂利を敷き詰めた。

 低木の植え込みでは、リクに教えてもらいながら魔法を使い、植えた直後から葉色が鮮やかになったのを見て正直ゾクッとした。

 最後に化粧砂で仕上げた庭は、自分でも惚れ惚れする出来になった。


 


 そういえば、途中でランタンの一件もあった。

 あの時に使ったヒールの浄化のイメージは、その後の敷地全体への魔法にも受け継いでいる。

 今日も最後に全域へ浄化をかけたが、あの光が家を包む瞬間は気持ちがよかった。


 


 結界と隠蔽は、全工程でフル稼働だった。

 近所の人に怪しまれず、魔法を自然に使える環境を作れたのはこの二つのおかげだ。

 正直、これがなかったら一ヶ月以内に仕上げるなんて不可能だっただろう。


 


 振り返れば、全部を社畜生活と並行してやっていた。

 朝から現場で働き、夜は売家で作業。

 気づけば休みの日は丸一日作業漬け――それでも、完成した今は疲れより達成感の方が圧倒的に勝っている。


 


 扉の外に出て、もう一度振り返る。

 自分の手で、魔法と工具と汗で形にした家。



 リクなしでは絶対にやれなかった。



「社畜やってる時より、この瞬間の方が達成感あるな……」



 心の底からそう思えた。



 田野さんが来るまで、あと数時間。

 この仕上がりを見て、果たしてどう思うのか。

 ……いや、間違いなく疑われるな。


『バレない言い訳を、今のうちに準備しておきましょう』


「……そうだな」


ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

感想やコメントが励みになっています。

これからもマイペース更新ですが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。


作中に登場するビフォーアフター写真は、

「note ちゃらん8268」で検索すると見られます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
外注(人脈)でいいんじゃないですかね。 現物があるんだし、深く気にしないっしょ? 確定申告どうすんのかな〜が気になりました。
助っ人を呼んでやったというのが一般的な工期の短縮の理由かなと素人ながら思いました。というか魔法の存在を隠したいなら怪しまれる要素(異常な時短、精度諸々)は事前に検討して隠しておかないとですよw
主人公は良かれと思ってリフォームしたのだろうけど、全てが裏目に繋がるとはこの時は気が付かなかったパターン? もう自分の家にしちゃえば良いのに。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ