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疲れたおっさん、AIとこっそり魔法修行はじめました  作者: ちゃらん


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第43話 三重結界と床張り



 


 夏の朝。

 蝉が全力で鳴き始めるより早く、俺は目を覚ました。


 


 前日、外装がピカピカになったばかりの売家。

 屋根も壁も新品みたいに仕上がっていて、起きた瞬間から気分が上がる。


 


「……今日は内装、DIY日和だな」


 


『本日の作業予定を読み上げます。

 一、資材の室内搬入。

 二、床断熱材およびコンパネ施工。

 三、フローリング張り

 なお、本日の昼から電気工事の予定が入っています』


「おっと……じゃあ誰か来たらすぐわかるようにしといてくれ」


 


『売家のカメラ映像を常時監視し、来訪者を検知したら即座に報告します』


 


 


 まずは隠蔽からだ。

 魔力が漏れないよう、敷地全体を囲う結界を展開し、その上から隠蔽を重ねる。

 空気の層がピタリと張り付き、外界との境界がはっきりとした。


 


 前日に買い込んだ資材が玄関前に積まれている。

 断熱材、コンパネ、工具……どれもズッシリ重いが、念動力でまとめて浮かせて室内へ搬入。

 木材の角同士がぶつからないよう、浮かせたまま角度を微調整しながら通路を抜ける。

 荷崩れゼロで運べるって、もう人力に戻れない。


 


 だが——中で浮かせてるところを見られたら終わりだ。

 室内にも結界と隠蔽を追加。

 これで外から室内は完全に見えない。


 


 さらに、いつもの常時展開セット(結界・隠蔽・セルフヒール)を発動。


 


『……結界が三重ですか。ドラゴンでも来る予定ですか?』


「いや、念のためだ」


 


 


 作業開始。

 まずは床の断熱材敷設から。


 


 袋から取り出すと、断熱材特有のほわっとした手触りが指先に伝わる。

 普段ならこの時点でチクチクと繊維が刺さる感覚があるが、常時展開の結界がきれいにシャットアウトしてくれている。


 


「快適すぎる……」


 


 作業用カッターを握り、寸法に合わせてスーッと引く。

 軽い抵抗感のあと、刃が繊維を切り裂く音が心地よく耳に残る。

 切り口はまっすぐで、欠けやほつれはゼロ。

 この感覚は魔法じゃなくてもクセになりそうだ。


 


『切断面の精度、誤差0.3ミリ以内です』


「だから数字はいらんって……いや、でも悪くないな」


 


 切った断熱材を床下に滑り込ませる。

 念動力で軽く持ち上げたまま、床の梁と梁の間にぴたりとはめ込む。

 最後の数ミリは手で押し込み、指先から伝わるわずかな弾力で位置が決まる。


 


『次はフローリング下の下地コンパネですね。丸ノコを使用します』


「おう」


 


 購入したばかりの丸ノコを構え、魔力でコンパネの端を軽く持ち上げながらガイドをセット。

 スイッチを入れると、刃が高音で回転し、木の繊維を細かく削り取っていく匂いがふわっと広がる。

 結界が粉塵を遮っているから、鼻の奥に嫌なザラつきはない。


 


 切り終えた板を念動力で持ち上げ、そのまま所定の位置にスライド。

 床下の梁に合わせて位置を微調整し、インパクトでビスを打ち込む。

 ——魔力で支えながらだから、ビス穴のズレはゼロだ。


 


 次はフローリング材。

 木目を確認しながら並べ、端をカチッと嵌めていく。

 念動力で板を水平に保ち、接着剤をコンパネに塗ったら、端を軽く押し込むだけでパズルのピースみたいに収まる。

 あとはビスで固定するだけ。


 


『作業効率、通常比でおよそ1.8倍です』


「数字はいいって……でも、これはマジで現場に持ち込みたい」


 


 最後の一枚を嵌め終えた瞬間、室内の空気ががらりと変わった。

 足裏に伝わる新しい床の感触。

 光を反射してわずかに艶めく表面。

 ——完成だ。


 


「……ふぅ、完璧」


 

 腰を伸ばした、その時——


 


『太郎さん、車が近づいてきています』


「……っ!」


 


 即座に魔法を全解除。

 常時展開も、結界も、隠蔽も。

 さらに隠蔽魔法を上書きし、さっきまでの魔法痕跡を一掃する。


 


 玄関前で車が止まり、降りてきたのは電気工事業者の多田さんだった。

 作業着姿で帽子を取り、笑顔で挨拶してくる。


 


「おはようございます〜……って、え? ここ……廃墟ですよね?」


「ええ、まぁ……前からコツコツやってたんで」


 


 多田さんが屋根や壁を見上げて、目を細める。


 


「いやいや、これ……建て替えたみたいじゃないですか。木材とか新品ですよね?」


「いや〜、表面削って蘇らせたんですよ。ほら、ちゃんと再利用」


 


 自分でも苦しいと思う説明をしながら、なるべく自然に笑う。

 多田さんは「ふ〜ん……」と納得しかけて、今度は玄関の中を覗き込んだ。


 


「あれ……中、すごく涼しいですね? この時期でこれって……」


 


 背中に冷や汗がつーっと流れる。


 


「あー……すみません、照明器具がまだなくて。ちょっと買いに行ってきます!」


 


 言い終わるより早く玄関を飛び出し、外へ。

 車に乗り込むと同時にため息をつく。


 


『……かなり危なかったですね』


「ああ……絶対疑われてたよな」


 


 信号待ちの間、リクが真剣な声色で言う。

 


 

『危険度は高めでした。偽装方法を強化することを提案します。

 例えば——来客時の室温をごまかすための扇風機、作業途中感を出すマスキングテープ、

 掃除した形跡用の掃除機、そして木工臭を付け足すアロマ。

 この4つを物理的なカモフラージュとして導入しましょう』


「……もう完全に工作員の準備だな、これ」


 


『ドラゴン対策より、人間対策のほうが面倒ですから』


 


 車を発進させながら、心の中で決意する。

 照明器具と一緒に全部揃えよう。


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― 新着の感想 ―
結界魔法!いいなぁwwwガラスウールのチクチクとか 木屑とか粉塵とか全部防げてマスクもいらないとか最高すぎるw
更に何をしたいのか解らなくなった、主人公は誰と戦っているんだ? 自分から不信感を全力で煽っているとしか思えんよ。
通常人類側からしたら主人公が魔法で建て替えたとか涼しくしたなんてまず発想にすら至らないのに、なんでそこまで警戒しているのか意味不明なんですが…。これで魔法使っただろとか言う人がいたら狂人か妄想家じゃな…
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