表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
疲れたおっさん、AIとこっそり魔法修行はじめました  作者: ちゃらん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/135

第37話 深夜の草抜き魔法、爆誕



 平日の残業終わりに売家へ行って作業していると、やっぱり思っていたより進みが遅い。

 とはいえ、魔法でやっているから肉体的な疲れはほとんどない。

 むしろ作業している時間そのものが楽しいから、帰るころには妙な充実感がある。


 それに最近は、ショートスリープの精度が上がってきた。

 ついこの前までは四時間睡眠で日中ぼーっとしていたのに、今では三時間で八時間睡眠と同じだけの回復ができている。

 これもセルフヒールや結界、隠蔽の常時発動魔法のおかげだろう。


 ……ただ、それが効きすぎているのかもしれない。

 今日の昼休み、小鳥遊が妙に真顔で近寄ってきて、こう言った。


「太郎さん、最近ヤバい薬でもやってます? なんか……オーラ出てますよ」


 心臓が止まるかと思った。

 まさか魔法の影響で“元気すぎるオーラ”が漏れているとは。もっと社畜感を滲ませなくちゃヤバいかもしれん。


 空き家を買ったこともまだ会社の誰にもバレていないし、しばらくは趣味のDIYです。で押し通すつもりだ。


 ――さて、それはそうと、今日は庭の草抜きをしようと思う。

 現在時刻、二十二時。

 この暗がりの中で黙々と草刈りをしている奴を見かけたら、ほぼ通報案件だろう。

ランタンを玄関にかけてライトのカモフラージュ完了。


庭に立つと、夜露でしっとりと濡れた草が、腰の高さまで伸びて揺れていた。

 蔓が塀に絡み、太い茎が土を割って押し上げ、地中には複雑に絡んだ根のネットワークがあるのが足元の感触で分かる。


「……これ、手でやったら何日かかるんだろ」


 小さくため息をつく俺に、リクの声が弾んだ。

『では、新しい魔法を作りましょう』

「おっ、来たな」

『生活魔法の延長として、草抜き専用の複合魔法を構築します。根の感知、土の緩和、根の引き抜き、焼却、整地――全てを一連の工程にまとめます』

「聞くだけで便利そうだな」


 リクが魔力配分の指示を出す。

 三割を探査に、五割を土ほぐしと引き抜き、残りを焼却に回す。

 俺は足裏から魔力をじわりと地面に流し込み、深呼吸した。


 視界の奥に、庭全体の地中構造が立体的に浮かび上がる。

 太い根は黒く、まるで地中を這う龍の背骨のよう。

 そこから枝分かれする細い根は蜘蛛の糸のように絡み、土粒の隙間にまで入り込んでいる。


「……地下、想像以上にジャングルだな」

『まずは土をほぐします』


 リクの合図と同時に、根の周囲の土がふわりと緩んだ感覚が伝わってくる。

 足元から、ほんのり暖かく柔らかな風が吹き上がるような、不思議な感触。


「じゃあ、引き抜くぞ」


 念動力を重ねた瞬間、地面が静かに波打ち――次の瞬間、庭の草が一斉に「スポポポッ!」と音を立てて宙へ舞い上がった。

 夜空に向かって、緑の滝が逆流したみたいに勢いよく伸び、月明かりを背にシルエットを作る。


『……想定より三割増の出力です』

「いや、思ったよりも根が軽く抜けてビビったわ」


 次は焼却工程だ。

 焦げ跡を残さないよう、低温を意識して熱を流す……はずが、

「……なんで凍ってる!?」

 庭一面に霜が広がり、白く輝く氷の結晶が月光を反射している。

『温度制御が逆方向に行きました』

「スケートリンク作る予定はないぞ!」


 三度目、魔力を丁寧に分割して、土をほぐす→根を浮かす→引き抜く→柔らかい熱で処理、の順に実行。

 根と種がぱちぱちと音を立てて燃え、わずかな焦げ香とともに消えていく。

 仕上げに整地を加えると、地面はふかふかで均一、まるで耕した畑のようになった。


「……よし、これで完成だな」

『草抜き魔法、成功です。範囲拡張も可能ですが、魔力消費が増えます』

「うん、今日はこれで十分だ。名前は……やっぱ“草抜き魔法”でいいや」

『命名、簡潔で良いと思います』


 真っさらになった庭を見渡すと、たった一晩で外観が見違えるほど整っていた。


 片付いた庭を見渡し、満足して家に戻る。

 残置物の仕分けを再開。

 リクが「ネット販売用」「リサイクルショップ行き」「保留」の三つに分類していく。


「この時計、すげー年代物っぽいけど?」

『動きません。修理すれば売れる可能性があります』

「じゃあ修理リスト行きだな」


 木箱に詰まった古い食器セットは、クリーンで磨くと金縁が浮かび上がり、まるで高級ホテルの備品のようになった。

 一方で、古びた木彫りの熊は……

『市場価値はゼロです』

「え、これ価値ゼロなの? なんか哀れになってきた」


 壊れかけた家具もリペアの精度が上がってきていて、以前よりも仕上がりが滑らかだ。

 引き出しの動きもスムーズで、木目の色艶も自然に整う。


『異常な早さで進化しています』

「まだ人間でいさせてくれ!」


 分類した品は物置に移し、次の休み――朝からリサイクルショップに売りに行く予定を決めた。

 週末が少し楽しみになってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
物の価値を知らない人が、古物品をその辺のリサイクルショップへ持ち込んでも、安く買い叩かれる未来しか視えない。 骨董品は骨董品店又はネットオークションへ。
フリーレン様が喜びそう
今は庭で焚き火して雑草や枝打ちしたヤツも 燃やせないからゴミ出しまで大変ですよね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ