第35話 廃墟再生計画、始動
次の日。
俺は田野さんに電話をかけ、例の空き家の契約を済ませた。
……嫁もいないのに、マイホーム購入。
これ、もし同僚に言ったら、昼休憩の話題を独占できるレベルでいじられるやつだろ。
「結婚より先にローン組む男」って、ネットのネタスレで笑われる未来が見える。
一括購入したからローンはないんだけどね。
『太郎さん。未来への先行投資です。嫁は後から来ます』
「……お前が言うと、説得力があるんだかないんだか分かんねぇな」
契約を終えた俺は、まずホームセンターへ直行。
充電式の防犯カメラを数台と殺虫剤を大量にカゴへ放り込む。
田舎の空き家は、ほぼ確実に虫の王国と化している。
蜘蛛もムカデも、堂々と廊下を行進してるパターンだ。
現地に到着。
……改めて見ると、本当に廃墟みたいだ。
玄関前の草は伸び放題、郵便受けにはいつのものか分からないチラシがぎっしり。
中を覗くと――足の踏み場がない。
家具やら段ボールやら、よく分からない家電やらが積み重なって、通路が迷路になってる。
『隣家とは距離があります。魔法を全開で使っても大丈夫でしょう』
「よし……じゃあ、結界で家全体を囲んで、さらに結界自体に隠蔽を」
『了解。これで魔力痕跡は外部に漏れません』
まずは害虫駆除だ。
煙が出てくる殺虫剤をこれでもかと投入。
結界内だから逃げ場はない。
30分もしないうちに――うん、まぁ、阿鼻叫喚の惨状だ。
続いてカメラを設置。
スマホとリンクさせて、リクが操作できるようにする。
「人が近づいたら、すぐ知らせてくれ」
『承知しました。侵入者はもちろん、宅配便も検知可能です』
「宅配便まで？ 仕事熱心すぎない？」
外観が変わると近所の噂になるので、今日は内装の整備に集中する。
部屋ごとにスキャンをかけ、クリーンでホコリとカビ、害虫の死骸を一掃。
アロマで空気を整え、カビ臭い空間が一気にホテルのロビーみたいな香りに変わる。
このままでは外気が入り放題なので、床に落ちていた割れた窓ガラスを素材に修復魔法を発動。
ヒビまで消えるのは、何度見ても気持ちがいい。
そして残置物の仕分け開始。
リクがネット情報を参照しながら、俺が念動力で動かす。
『これは修理可能です。太郎さんの修行用にしましょう』
「はいよ」
『こちらはクリーンをかければすぐ売れます』
「即金コースね」
『これは分解して素材回収』
「スクラップから素材取り出すの、ちょっと楽しいな」
『こちらは……ただのゴミです』
「おお、言い方が容赦ない」
分類はあっという間に終わったが、売却方法は悩みどころだ。
「ネットオークションか、リサイクルショップか……」
『ネットなら高額を狙えますが、発送の手間が発生します。リサイクルショップは即現金化が可能』
「んー……両方やるか」
売れそうな物はひとまずクリーンをかけ、物置にまとめて置いておく。
怪しい木箱は……今日は開けない。爆弾処理班みたいに慎重に行く予定だ。
ここで今日の作業は終了。
リクがカメラの利便性を延々とプレゼンしてきたので、自宅アパートにも導入を決定。
普段はスマホだけだが、小型カメラとマイクを設置すれば、リクのサポート精度がさらに上がるらしい。
帰宅途中、家電量販店でカメラとマイクを即購入。
アパートに戻り、設置と接続を済ませる。
『これで太郎さんが寝ている間も監視・記録・解析が可能になります』
「……監視って言うと物騒だな」
明日からはまた現場仕事だが、仕事終わりに作業を進められると思うと、ちょっと楽しみでもある。
風呂を済ませ、ショートスリープモードに入る。
――さぁ、廃墟再生計画、始動だ。
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