第31話 資金調達計画
「……ふぅ」
息を吐くと、頭の奥で“スン”と音がした気がした。
さっきまで続けていた隠蔽魔法の訓練を終えて、俺は畳の上にごろんと寝転がった。
『お疲れさまです、太郎さん。解析結果——魔法行使時の痕跡、ゼロパーセント』
「マジで?」
『はい。よほどの能力者でも検出は不可能でしょう』
天井の木目をぼんやり眺めながら、思わずニヤけた。
これでようやく、“魔法使ってたこと自体”を隠せる。
変なニュースにも、週刊誌にも載らずに済む……はずだ。
「……でもさ」
『?』
「力があっても、金がないと何もできないんだよな」
リクが一瞬黙る。
たぶん、また無駄に冷静な顔で俺を見てる。
『確かに。現金は魔力では生み出せません』
「……そんな冷酷な真実をサラっと言うなよ」
財布の中身を確認する。小銭と千円札が数枚。
貯金はそこそこある。社畜で使う暇もなかったからな。
でも“大金”ってほどじゃない。
引っ越し、設備投資、何かあった時の逃走費用……全部考えたら、安心なんて到底できない。
「……なぁ、金の一部を換金って、ありか?」
『石室の金のことですね。全額は足がつきますが、一部だけなら換金可能です』
「やっぱ足つくんだな……」
『骨董商経由でも高額取引は監視されています。安全なのは、小規模かつ複数回』
「なるほど……で、それを元手に何する?」
リクが一拍置いて、声を低くする。
『建設業界での太郎さんの人脈を使いましょう』
「ん?」
『古民家です。格安で入手し、魔法でリノベーションして販売します』
「お、おい待て。俺、できる魔法ってクリーンと回復と隠蔽とスキャンくらいだぞ?」
『修復魔法を習得すれば可能です』
「……え、そんな簡単に言うなよ」
『セルフヒールの建物版と考えればいいだけです。現代建築知識と異世界の修復理論を融合させます』
「融合て……。まぁ、たしかに俺の業界経験は活かせるけど……」
心の中で皮算用する。
古民家の修繕は現場経験がものを言う。魔法で短時間&低コスト化できれば、利幅はデカい。
成功すれば……ブラック卒業、独立まで見えてくる。
「……やるか」
『では練習からです。いきなり古民家で失敗はできません』
「だな。今は実家だし……家具とか古道具で試すか」
⸻
作戦会議を終えて、俺は物置部屋に向かった。
両親は昼寝中。チャンスだ。
古い箪笥、机、椅子、壊れたちゃぶ台——練習素材は豊富だ。
『まずはスキャンで内部構造を把握してください』
「はいよ」
魔力を流し、対象物の輪郭と内部をイメージする。
机の脚の割れ目、椅子のぐらつき……細部まで鮮明に破損箇所は赤く見える。
「おお……スキャン便利すぎだろ」
『次に、修復魔法。セルフヒールと同じ要領で“元の状態”を強くイメージしてください』
「元の状態……」
頭の中で新品同様の机を描く。
割れ目がゆっくり閉じ、木目が自然に繋がっていく。
——光がふっと走り、机は音もなく修復された。
「おぉぉぉ!」
思わず声をあげそうになり、慌てて口を押さえる。
やべ、家族にバレたら面倒だ。
⸻
——その後は、トライ&エラー。
椅子の脚を直すつもりが、全体的に5センチ伸びてしまう(座ると足が浮く)。
箪笥の取っ手だけ新品になって浮きまくる。
椅子を直したら、なぜかやたらとフカフカのクッション付きに変化(素材融合ミス)。
『素材の再構成は控えてください』
「いや、勝手に混ざったんだって!」
⸻
数時間後。
ちゃぶ台を修復して、表面がツヤっとした瞬間——俺は確信した。
「……できたな」
『はい。実用レベルです』
「これで……古民家いけるか?」
『はい。建築知識を加えれば、外壁から内装まで可能です』
思わず笑みがこぼれる。
こうして俺の次の目標は決まった。
——古民家を蘇らせて売る。資金を作り、ブラック卒業、自由を手に入れるために。




