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疲れたおっさん、AIとこっそり魔法修行はじめました  作者: ちゃらん


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第141話 守神とリモート飲み会



 あちこちから笑いが起きて、場の空気がふっと柔らかくなる。


 おばぁはくつくつと笑いながら、泡盛のグラスをちょいと傾けた。


「冗談はさておきね」


 さっきまでの“おちゃらけたおばぁ”の顔が、すっと引いていく。

 代わりに現れたのは、この島の“まとめ役”の顔だった。


「改めて、うちの自己紹介をさせてもらうよ。

 私は大城カマド。この島の能力者たちを、なんとかこうとかまとめてる……まぁ、古いやり方で言えば“ノロの親方”みたいなもんさぁ」


 ノロ――さっき大城が言ってた言葉だ。


「舞香は、その跡取り。

 私が前に出られんようになったら、あの子が前に立つことになる。

 だから、あの子はあんたに仕事頼むとき、本当に本当に、腹を括ってここまで来たはずよ」


 大城がむっとする。


「おばぁ、余計なこと言わなくていいのよ」


「なんでよ。かっこいい所はちゃんと伝えんとね」


 そう言ってから、今度は俺のほうをまっすぐ見る。


 おばぁの目が、ぐっと深くなった。


「今回の封印ね。

 正直に言うと、間に合うかどうか、半々どころか“間に合わない”ほうに傾いてたさぁ。

 最悪は、誰かが命張って時間を稼いで、どうにか再封印できたら御の字かな、ぐらいのつもりだった」


 サラッと言うけど、その“最悪”の中には、たぶん目の前の二人も含まれてるんだろう。


「そんな中で、あんたは一人で行って、一晩で“終わらせて”きたわけさぁ。

 おまけに、向こうさん(封印の中身)も、今はすっかり静かになってる。

 ……本当に、ありがとうねぇ」


 深く、深く頭を下げられた。


 能力者のまとめ役で、“おばぁ”で、島の要みたいな人が、ペコリじゃなく、ちゃんと腰から折るような礼をしてくる。


 慌てて俺も椅子から腰を浮かせた。


「や、やめてください。頭を上げてください。

 こっちこそ、仕事を回してもらってる立場なんで……」


「お仕事なのは分かってるよ。

 でもね、“仕事だから”って割り切って、ここまでしてくれる人はそうそうおらんさぁ。

 命を預けるには、それだけじゃ足りんのよ」


 そう言って、おばぁは目を細めた。


 その視線が、じっと俺をなぞっていく。


 ……“視られてる”感覚があった。


《太郎さん、おばぁによる“スキャン行為”を検知》


(やっぱりか)


《ですが……》


「……ふぅん」


 おばぁが、息を吐き出す。


「とんでもないね、あんた」


「……嫌な入りだな」


「いくら視ようとしても、全然“視えん”のよ。

 普通なら、人の周りには何かしらの色なり、匂いなり、流れなり、見えてくるんだけどね。

 あんたは、光の中に沈んでるみたいで、輪郭しか分からん。

 ……こんなの、初めてさぁ」


《解析結果:おばぁ側の視認能力を、太郎さんの結界と“何か”が遮断しているようです》


(“何か”って言うのやめろ)


「でもね」


 おばぁは、ゆっくりと笑った。


「“見えん”からこそ、はっきり分かることもある。

 あんた、害はまったく持ってない。

 それどころか、めちゃくちゃ“優しい”わけさぁ。

 ……だからこそ、畏怖もする。こんなのが敵に回ったら、ひとたまりもないさぁね」


「いや、敵に回す前提で話すのやめてもらえます?」


「だから、“絶対に敵対するな”って守神も言うんだはずよ」


 そこで、おばぁがふいに神棚のほうを見た。


 同時に、神棚の前の小さな紙垂が、ふわりと揺れる。


 風もないのに。


《太郎さん、神棚側からの反応を検知。

 感情ラベル:“上機嫌・満足・継続希望”》


(継続希望ってなんだよ)


《先ほど渡した御神酒に対し、“非常に美味・また飲みたい・そちらを大事にしろ”という意志を感じます》


(なんで酒の感想とセットなんだよ……ってかなんでそこまでわかるんだよ......)


 ぼそっと漏らしたら、おばぁが「やっぱりねぇ」と笑った。


「今の、分かったさぁ。

 向こうも喜んでるよ。

 “いい酒だった”って。

 “そっち(太郎)を粗末にしたら承知せん”って」


「後半、物騒なんですけど」


「愛情表現さぁ」


 愛情の種類がおかしい。


 でも、不思議と嫌な感じはしない。


 こういう土地なんだろうな、と納得する自分がいた。


 テーブルの上に置かれた料理は、次々と減っていく……のは、主に俺の前だけだった。


「さぁ、もっと食べれ。あんた、痩せてるさぁ」


「十分食べてますって」


「社畜上がりはちゃんと肉つけんとダメさぁ」


「どこからその単語出てきたんですか」


「舞香から全部聞いてるさぁね」


 大城がじとっとした目でこっちを見る。


「私そんなにペラペラ話してないんだけど……?」


「顔に書いてあったよ、“ブラック企業経験あり”って」


「そんなフェイスペイントみたいな情報の乗り方しませんから」


 ツッコミを入れながらも、料理の手は止まらない。


 人参しりしりも、ラフテーも、どれもやたらと美味い。

 沖縄の味付けって、なんか癖になるんだよな……。


《太郎さん、摂取カロリーが本日の推定必要量の一・五倍を突破しました》


(明日から調整する……)


《セルフヒールで内臓負担を軽減しておきますか?》


(それはお願い)


 さりげなくセルフヒールを回しつつ、俺はもう一切れラフテーを口に放り込んだ。


 しばらくして、話題は再び封印のほうに戻った。


「そういえばさ」


 大城が泡盛をちびちびやりながら言う。


「あの石板、中の“あれ”、今はどう?」


《封印内部、魔力状態:“満腹・満足・おかわり不要”》


(言い方どうにかならんのか)


《事実ですので》


「……お腹いっぱいで寝てる感じだな」


「は?」


「さっき、“お腹すいた”って言ってたから、魔力ちょっと流してやったんだよ。

 そしたら、あとは素直に修理させてくれた」


 大城が固まる。


 おばぁが腹を抱えて笑う。


「ははっ、面白いさぁ。

 封印の中身に飯食わせて落ち着かせた人なんて、後にも先にもあんたぐらいだはずよ」


「やめてください。変な伝説つくるのやめてください」


「もうできてるさぁ」


「やめてください!!」


 大城はあきれ顔でため息をついた。


「……でも、なんか納得したわ。

 あれだけ禍々しかったのに、“今は静かで、満ち足りてる”って感覚はあったから」


《太郎さん、封印内部から“感謝・満腹・二度寝”の波形も確認済みです》


(二度寝すんな!ってほんとになんでそこまでわかるんだよ!!)


《太郎さん、スルー芸の出番です》


 なんかもう、魔物だか神格だかよく分からないけど、

 とりあえず“お腹いっぱいで大人しくしている”ということだけは分かった。


 グラスが何度も打ち鳴らされ、宴はゆっくりと進んでいく。


 気づけば、最初にあった緊張も恐怖も、すっかり薄れていた。


 ただ、ある種の“距離”だけは、ちゃんと残っている。


 彼らは、俺の本当の力は知らない。

 視ようとしても視えない。

 でも、その上で


「ねぇ、神原さん」


 おばぁが、さっきより少し柔らかい声で言った。


「さっきも言ったけどね。

 うちはあんたを“囲い込もう”なんて、本気では思ってないさぁ。

 この島にはこの島のやり方があるし、あんたにはあんたの生活がある。

 ただ......」


 グラスをテーブルに置き、指でとんとんと縁を叩く。


「いざというとき、この島のことを、ほんのちょっとだけ頭の片隅に置いといてくれたら、それで十分さぁ。

 頼る先がひとつでも多いほうが、人は楽に生きられるからね」


 それは“縛り”じゃなくて、“逃げ場の提案”みたいな言葉だった。


「……分かりました。

 この島で何かあったら、呼んでください。

 その時に、俺にできる範囲なら……手を貸します」


「その言葉で十分さぁ」


 おばぁが嬉しそうに笑う。


 大城も、ほっとしたように肩の力を抜いた。


《太郎さん、非公式ですが“沖縄側との友好条約締結”と判断します》


(大げさだな)


《実質そうです》


(……まぁ、悪くないけどな)


 俺は手元の湯呑みを持ち上げた。


「それじゃあ、改めて。

 今回の依頼、受けさせてもらって、こちらこそ感謝してます」


「かりーさびら(乾杯)!」


 全員でグラスや湯呑みを打ち鳴らす。

 その瞬間、神棚の紙垂が、さっきより大きく揺れた気がした。


《神棚側から“同席・同乾杯”の感覚を検知》


(リモート飲み会かよ……)


《時差なしのオンライン宴会ですね》


(やめてくれ、その言い回し)


 やがて、料理も酒も一段落し、宴もお開きムードになった頃。


 おばぁが、また俺のほうへ身を乗り出してきた。


「で、話戻るけどね」


「嫌な予感しかしない」


「舞香と結婚しないね?」


「しないです」


 即答した。


 ほぼ同時に、隣からも同じ声が重なる。


「しないからね、おばぁ!!」


 大城も全力で否定していた。


 おばぁは、二人の顔を見比べてから、肩を揺らして笑う。


「今のところはね?」


「“今のところ”って言わないでください」


「縁ってのは、神様でも全部は弄れないさぁ。

 だからせめて、“切れんように”見守るだけよ。

 それがうちの役目さぁね」


 そう言って、ふわりと目を細めた。


 その目は、さっきより少しだけ、優しかった。


 片付けが始まり、俺は客間へ案内された。


 畳の匂いと、柔らかい布団。

 窓の外からは、虫の声と、遠くの波音。


「今夜はここで休んで。明日、改めてお礼とか、細かい話とかするから」


「ああ。いろいろと、ありがとうございます」


「こちらこそ。……本当に、助かったわ」


 大城が軽く頭を下げて、襖を閉めた。


 布団に横になり、天井を見つめる。


「……俺、ただの修理屋なんだけどな」


《ええ。“ただの修理屋”です》


「だよな」


《ただし本日をもって、“沖縄の神々・能力者一同公認のただの修理屋”になりました》


「肩書き増やすな……」


《履歴書には書けませんが、心の中には刻まれましたね》


「うるさいな」


 そう言いながらも、胸の奥は、不思議とあたたかかった。


 いつもの神棚と、いつもの家とは違うけれど。


 この南の島にも、「また来いよ」と言ってくれる場所ができた気がした。


 目を閉じると、遠くで三線の音が、ゆっくりと揺れていた。


 ……まさか、神様にまで歓迎される日が来るとは思わなかったけどな。


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― 新着の感想 ―
確り繋がりが持てた事が太郎君の財産です。 人との繋がりは時にお金よりも価値あるものとなる。 今後の展開に期待しています、次は沖縄観光編かな? 出来たら宮古島や石垣島も良いですね? 喜界島産のお酒とかも…
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