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疲れたおっさん、AIとこっそり魔法修行はじめました  作者: ちゃらん


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第133話 留守は任せろと言われたけど不安です


 ホームセンターでいろいろ買い込んだ。

 トイレットペーパーから洗剤、レトルト食品、防寒対策グッズや、簡易トイレまで...まるで小規模な防災倉庫だ。

 レジのおばちゃんが「どこか避難でも?」と聞いてくるレベルである。


 会計を済ませて駐車場を出ると、夕方の空がうっすらと赤く染まっていた。

 ショッピングカートの金属音が、コンクリートに心地よく響く。


「……これだけあれば、どこ行っても生きてけそうだな」


《将来的に“コンテナハウス”のようなものを収納できれば、どこでも快適に過ごせそうです》


「お、いいなそれ。アイテムBOXにまるごと入れとけば、設置した瞬間に生活空間完成ってやつだろ」


《容量的には可能かと。ただ、設置場所を選ばないといけません。地盤が緩い場所や駐車場などには出せません》


「なるほどな……。だったらキャンピングカーの方が扱いやすいか」


 自分で言いながら、ちょっと胸が躍った。

 車を改造して、自分だけの空間を作る。

 修理屋らしい旅の形じゃないか。


「中古で安く買って、修理して、自分の思い通りに作り替える……。それでいろんな場所に行って、いろんな物を直す。……うん、夢があるなぁ」


《はい。太郎さんは“自由”です。しかし、今回の沖縄は能力者案件です。気を緩めすぎないでください》


「うっ……急に現実戻すなよ」


《念のため、医薬品や外傷セットも買い足しておきましょう》


 苦笑しながら、俺は荷物をアイテムBOXに収納した。

 金属の反射に映る夕陽が、少しだけ赤く揺れて見えた。



 家に帰ると、妙に空気がざわついていた。

 玄関を開けた瞬間、視界の端に黒い影、白い毛、そして小さな徳利が見える。


「……おい、なんで全員集合してんだよ」


 神棚の前に、カラス、白兎、そしてハム爺が勢ぞろいしていた。

 まるで会議でも開かれているように、真剣な顔つきでこちらを見ている。


『あなた、沖縄に行くのね〜』

 白兎が、ふわりと跳ねながら言う。

 その声は相変わらず柔らかく、けれどどこか意味深だ。


『あそこはねぇ、こっちとは“別系統”の神が多いから、一応準備はしっかりしておきなさいよ〜』


「別系統……? なんか嫌な響きだな……」


『うむ。わしらの力が及ばんとこじゃからのぉ』

 ハム爺が湯呑み片手に言う。どう見ても今すでに酒が入っている。


『坊主の酒は持って行っとくんじゃぞ。何ぞあれば、それを出しとけばええ』


「なるほど……けど全部持っていくのもなぁ」


『全部は持っていかんでよい』

 カラスが低い声で口を挟んだ。

 その漆黒の瞳が、一瞬こちらを射抜く。


『それと、榊の葉は身につけておけ。あれは“印”にもなる』


「どういう事だ?それにしても情報量多いな……一応その辺りは準備しておくつもりだよ」


《情報を整理、記録しました》


「さすがリクだ。それと帰ってくるまでお供えできないけど、酒壺は置いてくから、飲んでてもいいぞ。

 ただし、榊用の水を溜めておくから、飲んだらそこに水を補充しといてくれよ」


 三柱が同時に顔を見合わせた。


『……飲み放題だと?!!!』


『留守は任せろ!!』


 声がぴったり揃った。

 勢い余って、神棚の鈴がカランと鳴る。


「……やばい奴らに任せちゃったかもしれん……」


《いえ、やばいというより、非常に“賑やか”になるだけです》


「どっちにしろ帰ってきたとき怖いんだが……」


 神棚の前で肩を落とす俺を、カラスは面白そうに見下ろしていた。

 その目は、まるで「やれやれ、面白くなってきた」と言いたげだ。



 三柱の騒ぎを横目に、俺はそっと廊下を抜けた。

 どうせ止めても無駄だ。あの勢いだと、夜には神棚で宴会が始まっているだろう。


「……ま、任せた以上は信じるしかないか」



 秘密の縦穴を抜けて、地下の“秘密基地”へ。


 俺は手を地面に当て、ゆっくりとイメージを重ねる。

 地面がふわりと盛り上がり、湯船のような形に変わっていく。

 続けて、右手をかざす。


「プチウォーター」


 透明な水が宙に現れ、さらさらと流れ落ちていく。

 やがて器が満たされ、静かな水面が揺れた。


 そこへ、壁の榊の根が、ゆっくり伸びてくる。

 細い根先が水に触れた瞬間、波紋がひとつ。


「……少しの間、家を空けるからな。水はここのを吸収しろよ。ただし一気に吸うなよ?

 それと、カラスたちが酒を飲みに来るだろうから、分けてやってくれ」


 根がこくりと頷くように、水面を揺らした。

 言葉が通じているのか、ただの気まぐれか。どっちにしても可愛いもんだ。


《太郎さん、なんだか“子供に留守番をさせる父親”みたいですね》


「ぐっ……なんか刺さったぞ。

 ま、まぁ……ある意味、父親になるのか? いやでも、酒を作ってもらってるから、強制労働させてる気も……」


《子供に強制労働させる父親ですか……。社畜というより鬼畜です》


「やめろぉぉ!! そこはほら……“win-winの関係”ってことで!」


《はい。“父子間での互恵契約”ですね。立派なブラック企業です》


「救いがねぇな……!」


 俺は頭を抱えながら、ゆっくり立ち上がった。

 ランタンの光が水面に反射して、どこか温かく見えた。


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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 ワゴン車に道具類を積み込んで、修理の旅へ……それ、TV東京系の『職人ワ○"ン』で、やってるやつー!(笑) 太郎さん、ちょっと早めですが、小料理屋『うけもち』の女将さんに御…
> 夜には神棚で宴会 昔、夜は墓場で運動会…て歌があったな。
リクと太郎君の漫才が面白い〜! この分だと留守中にも何か起きそうだね? そうか、本州と沖縄だと別系統になるのか、それはそれで楽しみです! 観光出来るといいな…。(意味深)
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