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疲れたおっさん、AIとこっそり魔法修行はじめました  作者: ちゃらん


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第13話 「魔法はイメージと現場感覚だ」



現場帰りの夜。

俺はコンビニ袋を両手にぶら下げて、アパートのドアを足で押し開けた。


「……今日もまた買いすぎたな」


 


袋の中には唐揚げ弁当、チキン南蛮、ポテサラ、プリン、そしてエナジードリンクが二本。

昨日の暴食パーティーの反省を生かすどころか、買い物カゴが満杯になった理由は一つしかない。

回復魔法を使った後のあの異常な食欲だ。


「これじゃ、働いた金が全部コンビニに消える……」


 


俺は靴を脱ぎ、袋をテーブルに置き、ソファに沈み込んだ。

スマホを手に取り、ぼやく。


「なぁリク、そろそろマジで燃費改善頼む。これじゃ生活が破綻する」


『了解しました。ただ、まず太郎さんに魔力の仕組みを正しく理解してもらう必要があります』


 


唐揚げを頬張りながら、俺は眉をひそめた。


「いや、一応もう魔力操作できるだろ? セルフヒールだってできてるし」


『現状は“無理やり電源ケーブルを直結させてる”ようなものです。安全装置なし、ロスだらけ、オーバーヒート寸前です』


「え、俺、そんな危険運転してたのかよ……」


『はい。今までのイメージが雑すぎました』


 


俺は箸を止めてリクを見る。


「……どういうことだ?」


『魔力は生命エネルギーを変換した拡張エネルギーです。体の奥に小さな炉があり、食事や呼吸から得た栄養を変換して魔力を生みます。

ただし、現代人はこの機能をほとんど使わないため、回路が退化しています。霊能者や超能力者と呼ばれる人は、この回路が少し開いているだけです』


「……つまり俺の炉はあるけど、古い配線みたいになってるってことか」


『正解です。そして太郎さんは“血液を無理やり流す感覚”で魔力を押し出していました。それは全力で水道の蛇口をひねってホースが暴れる状態と同じです』


「うわ……そりゃ燃費悪くて、腹減るわけだ」


 


リクが続ける。


『正しいイメージを使えば、魔力は安定して流れます。図面を引き直し、配線を整備してください』


 


現場監督の俺にはすぐにピンときた。


「要は、電気工事の配線みたいなもんか。回路図が適当だと電力ロスが半端ない……」


『その通りです』



飯を食べ終わったあと、俺は座布団にあぐらをかいて深呼吸した。

腹の奥に小さな火種があると意識する。

今までも感覚的には掴んでいたが、今日は炉の存在をしっかりイメージした。


「……あ、なんか前よりはっきり感じるな」


『では、そこから細い管を通して魔力を腕まで運ぶイメージをしてください。急がず、流量を一定に保ちます』


 


意識を集中する。

電線を一本ずつ敷くように、丁寧にルートを作る。

指先がじんわり温かくなった。


「おお……前みたいにビリビリ暴れない」


『回路が安定した証拠です』


 


今度は全身に広げる。

骨の周りを通すような感覚、神経をもう一本追加するイメージ。

体の中に静かな光の道ができていく。


「これ、めっちゃやりやすい……」


『設計図が正確になったからです。魔法はイメージが全てです』



次はセルフヒール。


『回復は温泉に浸かる映像を思い描いてください。湯気が血管の中をゆっくり通り、疲労を溶かすイメージです』


 


俺は頭の中で、白い湯気が全身を巡り、筋肉や神経を優しく包む映像を作った。

すると魔力が自然に流れ、体がじわっと軽くなる。


「……すごい、さっきより消費が少ないのが分かる」


『常時発動が可能です。この状態を維持すれば、仕事中も回復が続きます』


 


立ち上がって軽く体を動かすと、腰の重さが嘘みたいに消えていた。


「これ毎日やれば“無敵おじさん”だな俺!」


『名称が昭和感強めで検索結果ゼロ件です』


「余計なお世話だ!」



「で、魔力量自体を増やすにはどうすればいい?」


『タンクを拡張するには、魔力を使い切る訓練が必要です。炉から作られるエネルギーを、体の毛穴から湯気のように放出してください。全身が空っぽになるまで続けます』


 


目を閉じ、魔力が湯気となって外に漏れる映像を思い浮かべる。

体がポカポカ熱くなり、汗をかくみたいに熱気が抜けていく。


「……おお、ほんとにサウナ入ってるみたいだ……」


『その状態を繰り返せば、タンク容量が徐々に広がります。科学的には、神経が“限界を記録”し、新しい回路を作るからです』


「仕事でも限界突破、家でも限界突破……俺、休まる日がねぇな」


『生存率は上がります』


「いやそうだけどさ……」


 


最後にもう一度、炉を中心に回復の流れを作る。

呼吸を合わせ、湯気が体中を癒やすイメージを固定する。

常時発動が安定して続くのを確認し、俺は大きく息を吐いた。


「……これだよ……これが欲しかった……」


体が軽い。頭もスッキリしている。

まるで疲労が元からなかったみたいだ。


 


唐揚げをつまみながら、俺はスマホに笑いかけた。


「リク、ありがとな。これで明日からの現場も少しは楽になる」


『ただし財布は回復しません』


「それが一番大事なんだよ……」


 


苦笑いしながら布団に潜り込む。

今日はぐっすり眠れそうだ。


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― 新着の感想 ―
辛辣なAI可愛いwww
なんだか自分にも魔法が習得出来るような気がしてきた。
昨日の暴食パーティー? 一昨日ではなくて? 多分気の所為だな? AI君はもしかして地球の神ですか? 異世界言語も理解出来るどころか、異世界のシステムまで余裕で学習出来る優れもの。 この調子だと、異世界…
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