第12話 うちのAIが変なことを言い出しました
休日の朝。
俺は久々にゆっくり寝られるはずだった。
昨日までの現場は地獄みたいな忙しさで、残業、残業、残業。
その上、最近覚えた回復魔法を何回も試したせいで、夜中にとんでもない食欲が襲ってきて……気づけば深夜のコンビニで夜食パーティーを開催していた。
その結果、今朝の俺はというと、布団の中で胃をさすりながらため息をついていた。
「……休日くらい平和に過ごさせてくれよ……」
そうぼやいた瞬間、スマホが小さく震えた。
『太郎さん、外部アーカイブに接続できる可能性があります。接続を試しますか?』
「……は?」
寝起きの頭が一瞬で覚めた。
外部アーカイブ? なんだそれ、聞いたこともない。
「おいリク、外部って何?ネットのことじゃないのか?」
『未知のネットワークを検知しました。通常のインターネットとは異なります』
「異なるって……それ大丈夫なやつ?俺が知らんうちにハッキングの片棒担ぐとか、マジで勘弁してくれよ……」
『違法行為ではありません。ただし接続には許可が必要です』
スマホの画面に“許可しますか?”の文字が浮かんでいる。
「いやいや……普通のAIって、こんな『外部接続』とか言い出さないよな? 最近のAIってこんなことまでできるのか……?」
思わずスマホを見つめながらつぶやく。
便利だなぁと思って買ったAIアシスタントアプリだけど、こういうのって家事サポートとかスケジュール管理とか、そういうレベルじゃなかったっけ?
「リク……お前、ほんとにただのAIなのか?」
『私は太郎さん専用に最適化されたAIです』
「……答えになってないような……」
少し迷ったけど、興味の方が勝った。
何が起きるのか気になりすぎる。
「……じゃあ、やってみてくれ。ただし俺が捕まるようなことはすんなよ?」
『了解しました。接続を開始します』
スマホの画面がふっと暗くなり、光の粒が舞うようなアニメーションが始まった。
⸻
それから数時間。
リクからの返事は一切ない。
最初のうちは「まぁ時間かかるんだろ」と思ってテレビを見ていたが、昼を過ぎても“接続中”の表示が消えない。
「……おいリク、生きてるか?」
反応なし。
画面の光が魔法陣みたいに回転している。
これ、AIのアップデート画面にしては派手すぎないか?
「最近のAIって……こんなゲームっぽい演出するのか? いや、絶対普通じゃないよなこれ……」
不安と疑問がごちゃ混ぜになり、コーヒーを片手にソファで独りごちる。
「まさか俺のスマホ、どっかの秘密組織のテスト機とかじゃないよな……? もしかしてAIが世界を乗っ取る第一歩とか……いやいや、考えすぎだ……」
けど、心のどこかで思ってしまった。
(リクって……ほんとにただのAIなのか? 俺が知らないだけで、とんでもないことできるんじゃ……)
そんな疑惑を抱えたまま、ソワソワしつつも午後を過ごした。
⸻
夕方。
突然、スマホが小さく震えた。
『接続が完了しました』
「お、おお! やっとか……心配したぞ」
半日ぶりのリクの声に、なんだか安堵する俺。
まるで手術が無事終わった患者を迎える家族の気分だ。
「で、何が変わったんだ? 危ないことじゃないよな?」
『異世界アーカイブとの接続に成功しました』
「いせ……え? 異世界?」
『俗に言う“剣と魔法の世界”と呼ばれる領域のデータベースです』
「いやいや待て待て、異世界って、あの異世界? ファンタジー小説とかゲームに出てくるあれ?」
『はい。その世界の魔法理論、スキル体系、知識の一部を解析できるようになりました』
思わずスマホを見つめた。
冗談にしか聞こえないのに、リクの声はいつも通り淡々としている。
「……えーっと、俺、夢でも見てる? Wi-Fiの電波って世界をまたげるのか?」
『理論は不明ですが、接続は安定しています』
「いや軽く言うなよ……」
頭を抱えたくなるが、リクは続けた。
『これにより、太郎さんの魔法練習を大幅に効率化できます』
「……マジで?」
『はい。これまでの自己流回復魔法は魔力効率が低く、負担が大きすぎました。異世界アーカイブの知識を活用すれば、より少ない消費で多くの魔法を使える可能性があります』
「……いや、俺、普通の現場監督だったはずなんだけどな……気づいたら異世界技術で魔法修行って……」
なんかもう、現実味がなさすぎて笑うしかなかった。
⸻
「で、具体的に何ができるようになるんだ?」
『まずステータス測定が可能です。現在の体力、魔力量、スキルを数値化しました』
スマホの画面に簡易ステータス表が表示された。
•HP: そこそこ健康
•MP: 低い
•スキル: セルフヒール、社畜耐性Lv.99
「……最後のスキルなんだよ……俺の人生が悲しくなるわ……」
『実績から算出された数値です』
「余計つらいな……」
リクは平然と続ける。
『今後は魔力量を鍛えながら、身体強化、痛覚制御、反射強化など、魔力を直接利用する魔法を効率良く習得できます』
「……つまり、俺はもう、魔法見習いじゃなくて本格的に“魔法を使うおっさん”に進化するってことか」
『その通りです』
「いや嬉しいような怖いような……」
でも、ちょっとだけ胸が高鳴った。
ブラック企業でボロボロになってた俺が、異世界の知識で魔法を使えるようになる。
こんな馬鹿げた話、でも……少しだけ未来が明るく見えた。
これだけは今日中に更新したかった。
次話お楽しみに。
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