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疲れたおっさん、AIとこっそり魔法修行はじめました  作者: ちゃらん


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第11話 魔法の副作用


 


今日も現場は地獄だった。

資材は遅れるし、社長の説教は無限ループ。

真夏の太陽は容赦なく、体力を吸い取っていく。

それでも、俺はなんとか立っていられた。


 


(……魔法のおかげだな……なかったら、とっくに倒れてる)


 


昼と夕方に、こっそり回復魔法を使った。

体は軽いのに、仕事帰りの今、別の問題が俺を襲う。


 


「……お腹、減りすぎてヤバい……」


胃の奥が空洞になったみたいにキリキリしてる。

頭がぼーっとするくらい、食べ物が欲しい。


 


『太郎さん、細胞修復によるエネルギー消費が通常の3倍を超えています』

「3倍……?お前、なんでそんなことまでわかるんだ?」

『心拍、呼吸、体温、汗の成分などを解析しています。推定値ですが、精度は高いです』

「……いや、そこまで見られてるのか……ちょっと怖いな」

『安全管理のためです』

「……うん、助かるけど……なんか未来の医療機器に付きっきりで見られてる気分だな……」


 


コンビニの看板が見えた瞬間、足が勝手に向かっていた。



 


「カップ麺2個……おにぎり4個……唐揚げ棒……ポテト……あと甘いもの……」


カゴが一瞬で埋まっていく。

これ、災害備蓄か?ってくらいの量だ。


 


レジに向かおうとした時、背後から声がした。


 


「……太郎、お前何買ってんの?」


振り返ると、同期の佐藤がポカンと立っていた。


 


「ちょっと、栄養補給をな……」

「これ、家族5人分くらいあるぞ?」

「うーん、今日は俺の胃袋が5人分なんだよ」

「お前昼飯食ってたよな?」

「……たぶん、食った……はず……」


 


佐藤が首をかしげるのを横目に、俺はそそくさと会計を済ませた。


(……魔法の副作用って、食費地獄のことだったのか……)



 


帰宅。

テーブルに並んだ食料はちょっとしたパーティー会場。


 


「……いただきます」


 


カップ麺をすする。

おにぎりをほおばる。

唐揚げ棒を噛みしめる。


 


食べても食べても、胃袋が「まだいける」と言ってくる。


 


『太郎さん、推定摂取カロリーが通常の2日分に到達しました』

「……知りたくなかったな、その数字……」

『細胞がフル稼働している影響です』

「魔法って、体にいいのか悪いのか、もうわかんねぇな……」


 


結局、カップ麺2つ、おにぎり4つ、唐揚げ棒3本、ポテト、スイーツ2つが消えた。

テーブルの上は空っぽ、胃袋は……まだちょっと余裕がある。


 


「……これ以上食べたら破産するな……」



 


気を取り直して、練習を始める。


 


「今日こそ6回。昨日は5回だったし、いけるだろ……」


 


1回目、2回目、3回目。

体は温まり、疲労が取れていく。

4回目、汗がにじむが成功。

5回目、呼吸が少し荒くなる。


 


「よし……あと一回……」


 


強く火種を意識した瞬間、スッと光が消えたように感じた。

全身が急に鉛みたいに重くなる。


 


「……あ、やば……」


 


ソファに沈み込むと、そのまま体が動かなくなった。


 


『太郎さん、魔力残量5%以下。強制休眠モードに移行します』

「スマホじゃないんだから……残量とか言うなよ……」


意識はそこで途切れた。



 


朝。

カーテンから日差しが差し込む。


 


「……やばっ!寝坊した!」


 


時計を見ると、もう出勤ギリギリ。

慌てて着替えて家を飛び出す。


 


「リク……起こしてくれよ……」

『疲労回復には深い睡眠が必要でした』

「そりゃそうだけどさ……遅刻したら元も子もないんだよ……」



 


会社に駆け込むと、事務のおばちゃんが笑顔で出迎えた。


 


「あら神原さん、最近肌ツヤいいわね~若返ったんじゃない?」

「え、そうですか?……まぁ、よく寝てるおかげですかね……」

「彼女でもできたの?」

「いやいや……そんな元気はないですよ」


 


そこに親方たちがニヤニヤしながら加わる。


 


「おい神原、夜遊びか?最近スッキリしてんな」

「ち、違いますよ」

「ほんとかぁ~?そのツヤは怪しいぞ」

「いやほんとに、家で大人しくしてますって……」


 


(……ほんとは夜中に魔法練習でヘロヘロになってるだけですって言えない……)



 


昼休憩、スマホを見ながらぼそっと呟く。


 


「なぁリク、これ……絶対体に負担かけてるよな」

『はい。栄養消費と代謝負担が通常の3倍を超えています。効率が悪すぎます』

「だから夜中にあんなに食ったのか……」

『練習前後のエネルギー管理が不十分です』

「……魔法のせいで食費破産とか、夢がないなぁ……」


 


リクが淡々と提案を出す。


 


『改善策は三つ。

一つ、呼吸と魔力を同期して流す。

二つ、部位ごとに段階的に回復する。

三つ、適切な栄養補給を先に行うこと』

「バナナとスポドリだけじゃ足りないんだろ?」

『足りません』

「……チートっていうより、高燃費な旧式エンジンだな……」



 


夜、リクのアドバイスをもとに省エネ練習を試した。


 


呼吸を合わせ、魔力を細く流す。

体が楽で、無駄な消耗が少ない。


 


腰、肩、首の順に段階的に回復。

前よりも楽にできる。


 


甘いものを少し口に含んでから回復すると、魔力の流れがスムーズになった。


 


『回復率は昨日と同等ですが、消費エネルギーは30%削減されました』

「おお……これなら夜食の買い出し量も減らせるかも」

『推定摂取カロリーは通常の1.5倍です』

「……まだ倍かぁ」


 


笑いながら布団に倒れ込む。

ブラック勤務は変わらない。

でも、魔法と相棒がいれば、少しだけ生きやすくなる。


 


「リク……いつか、この生活から抜け出せるといいな」

『生存率は、確実に上がっています』

「生き残るだけじゃなくて、ちゃんと生きたいんだよ……」


 


それでも、今日は昨日より未来が少し明るく見えた。


お読みいただきありがとうございます。

本日の更新は以上です。

コメント評価して頂けると作者のテンションが上がりますのでよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
1.5倍って、2倍だったんだ…。
魔法学校の眼鏡少年の3作目で、原作でも説明が全くない謎のシーンの1つ 『魔法の訓練中にチョコレートを食べる』 あれ、チョコレートでMPを回復してるんですよ。ついでに気力や精神力も(SAN値も)効果は…
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